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農園に暑い夏がやってくる。ぼく達は大量の汗をかき、ヒーヒー言いながら農作業に打ち込んだ。そのあまりのかこくさに、ばったばったと奴隷達は倒れていった。
畑の中で、夏野菜と共に転がる奴隷達を、監督官はようしゃ無くムチ打った。それでも意識が戻らなかったり、動けなかったりしたものは、炎天下の中で放置されることになった。
「この季節さえ乗り越えれば」
牢の中で、顔色の悪い兄が仕切りにそう言った。乗り越えたところでどうなるのだろうとぼくは思う。こんな日々を送って、ぼく達奴隷が幸せになれる訳がなかった。
さんざん働かされた農園で生き倒れ、干からびるだけの最後をとげる。それはひどくむなしいことだった。ぼく達に生きる意味などあるのだろうか。
暑い夏がすぎると、涼しくて快適な秋がやって来る。だけど労働がしんどいことに変わりはない。ぼく達は畑を耕し、季節ごとにしゅんの野菜を収穫した。
心地良い気候はすぐに去っていく。寒い寒い冬がやってきた。畑には霜が降り、かわいた風がぼく達奴隷をちぢこまらせた。
奴隷の服は通年で、薄い麻の服1枚だけである。ぼく達はこごえないよう、必死で体を動かさねばならなかった。それは望んでもいないのに、収穫作業の効率を高めることになった。
どれだけ体を動かしても、長時間外にいれば、体は芯までとことん冷えていった。それでもぼく達は冷え切った体と感覚の無くなった手で、野菜の収穫にはげまなければならなかった。
つらいのは農園での作業だけではなかった。石造りの牢屋は年中冷たく、冬になると凍ってしまいそうな程だった。
ぼく達奴隷はそんな環境を、汚れた麻の服と、薄い毛布1枚だけで過ごさなければならなかった。
「この季節さえ、この季節さえ乗り越えれば」
兄は夏にも言ったセリフを繰り返した。確かに冬が去ればあたたかい春が来る。しかしまたすぐに、あのしゃくねつの夏がやって来るのだ。
ある時檻の中で、ぼくはふとある考えを思いついた。これだったら脱獄できるのではないか。というかそれ以外に方法は無さそうだった。
すぐにぼくはそれを兄に話した。夜中にわざと檻の中で大声を出し、やって来た使用人達をかえりうちにしてはどうかと。そうしてぼく達は監獄の外へ出て、イジュメール家の館に向かう。館に侵入し、イジュメール家の面々を殺して回る。それからエムバペやママを救い出し、この敷地から脱出するのだ。
その案はすぐに却下された。兄いわく、まずムチを持った使用人達に勝てる訳がない。仮に成功したとしても、そうやすやすとイジュメール家の館に侵入することはできないだろう。
仮に入れたとして、イジュメール家の面々の部屋がどこなのかはナゾだし、館をさまよってるうちに使用人に気付かれそうだ。それに奴隷がとらわれている部屋にはカギがかかっていて、彼らを救い出すのは難しいだろう。
仮にそれらがうまくいったとしても、高い塀に囲まれたイジュメール家の敷地からは、誰も抜け出せることはできない。
「仮仮仮。全部仮だ。結局俺達はイジュメール家から脱出することはできないし、そもそもこの檻に駆けつけた使用人達にボコボコにされて終わりだ」
兄にさとされなくても、それがほとんど不可能なのは自分でも分かっていた。後半はただの絵空事にすぎないだろう。しかし、この監獄から出なければ、何も始まらなかった。
まあ焦るなよ、と兄は言った。ゆっくりと考えよう。その内もっといいアイディアが浮かぶかもしれないし、何か俺達を取り巻く環境が変わるかもしれない。そんな無謀な策略に身を捧げる程、おまえは愚かではないだろう。
兄の言うことはもっともだった。ぼくはどうにもならない現状に、檻の中でうなだれるしかなかった。




