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「うるさいぞ、お前達」
檻の前に現れた、ぼうず頭の使用人がそう言った。後からもう1人、ちょびヒゲを生やした使用人もやって来る。
「風紀を乱す奴らには処罰が必要だな」
なにやらもっともらしくちょびヒゲは言う。それからぼうず頭がカチャカチャと檻の鍵をいじくり出した。それを見て、兄はギョッとした顔になる。
「すみません! ほんとすみませんでした!」
兄はすがりつくように叫んだ。ギィー、という音が鳴って、檻の扉が開く。ムチを持った使用人2人が、檻の中に入ってくる。
「ほんとうにすみませんでしたあ!」
兄の必死の謝罪もむなしく、使用人達のムチが飛んでくる。
「まんま!」「みーや!」
ぼく達兄弟は男達のムチを浴びて跳ね回った。彼らは淡々とちょうちゃくを続けた。ぼくはもうやめてくれと思う。これ以上ぼく達を苦しめないでくれ。
ぼく達兄弟は、冷たい石の床にぐったりと倒れた。使用人達はそんなぼくらを冷たい目で見下ろしていた。
やがて男達は檻から出ていった。扉を閉めるガシャンという金属音が辺りに響いた。
うぐう、と、兄のうめく声がする。ぼくはへたばりながら、しゃがれた声で「ごめん」と兄に向けて言った。
「なーに……、いいってことよ……」
兄は消え入りそうな声でそう答えた。
「もう、大きな声……、出すんじゃねえぞ……」
そう言って無理して笑顔を作る兄を見て、ぼくはいたたまれなくなってくる。自然と涙を流しながら、「うん」と答えたつもりだったが、それは声にならなかった。
つらく重苦しい日々が、じわり、じわりと過ぎていく。ただでさえ農園での作業でしんどいのに、時々やってくるイジュメール家のクソどもが、ぼく達に多大なるダメージを与えていった。
三兄弟は来る度にしつこくぼくを襲った。ムチ打って転げ回るぼくを、さらに追いかけては攻撃をくらわせるのだった。
彼らが来る度に、ぼくは檻の中でしくしくと泣いた。奴らに好き勝手に叩かれて、ぼくは悔しい。奴らをぶち殺してやりたい。捨て身でつっこんでいってやろうか。キャベツをぶん投げるのもいいかもしれない。
そういったことを兄に相談すると、彼は静かに「やめておけ」と言った。
「奴らは複数だし武器も持っている。そんなことをしても大したダメージは与えられないし、返り討ちに遭うのは目に見えている。そもそも奴らに手を上げるということはどういうことだか分かるだろう。俺達はただ耐え忍ぶしかないんだよ」
全くもって現実的な回答に、やはりぼくはイライラとする。しかしそれも事実だった。ぼくはすぐに捕えられて、圧倒的に痛めつけられることになるだろう。
三兄弟と比べると大したことはなかったが、やはりベリィとサディにムチ打たれるのもしゃくだった。しかし彼女達が現れるということは、エムバペの姿を見れるので嬉しかった。
また、エムバペが馬車を引いて、あぜ道を走る姿も見ることもできた。奴らはなんてひどいことをさせるのだろうと思う。かわいそうなエムバペ。ぼくは彼が現れる度に、その姿をじっと見つめた。




