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3

 春の日差しはいやらしいほどに優しくて、ぼくの絶望感を余計にあおっているようだった。

 農園での作業はあいかわらずしんどい。つらすぎる。常に監督官がぼく達を見張り、一切の休憩を許さなかった。


 ぼくは広大な畑から、次々とキャベツを収穫していった。とったキャベツは監督官に渡されたふくろの中に入れていく。ふくろがいっぱいになると、ぼくはそれをずーるずーると引きずって、畑と畑の境のあぜ道まで運ばなければならなかった。


 だらだらと汗をかき、モーレツに喉が渇いた。日々の労働による疲労もたまっていて、ぼくはもうふらふらだった。

 もうダメかも……、と思った時に、昼食の時間になった。ぼくは渡された瓶に入った水を、ごくごくと一気に飲み干した。それからパンをちびりちびりとかじった。

 水を全部飲んでしまったので、パンを食べ終えるとまた喉がじゃっかん渇いてしまっていた。配分には気をつけなければならなかったのに、と、ぼくは反省する。


 すぐに昼食の時間は終わり、ぼく達は再び労働を強いられることになった。こんな所さっさと抜け出したいと切に思う。




 ぼくはせまい牢屋の隅々を、くまなくチェックして回った。ヒミツの抜け穴なんてものはないだろうけど、どこかしらにキズやヒビはないか。がんばったらそこを広げられるかもしれない。そんなことを考えたのだ。


「無駄だ」


 兄の声が冷たく響く。


「牢の中なら俺も何度も調べた。尤もそんなことをしても、何の意味もないのにな」


 そう言うと、兄はへらへらと笑った。


「変に希望なんか抱いていても苦しいだけだ。日々を粛々と過ごすことだけを、精一杯頑張るんだ」


「うるさい」


 ぼくはきっぱりと言い放ちつつも、声が大きくならないように気をつけた。

 引き続き牢内をチェックして回る。しかしながら、ヒビわれ1つ見つけることができない。


 ぼくは鉄の柵をくぐれないか試してみる。当然ながら、そんなことは不可能だった。ゆいいつある鉄格子付きの窓は小高い所にあり、がんばって手を伸ばしても、ぼくの身長では届くことができなかった。


「あんな鉄格子付きの小さな窓から、外に出られる訳がないだろう」


 気付くと兄が後ろにいた。ぼくはやはりイラついて、「うるさい」とぴしゃりと言った。


「ほら、乗れ」


 兄はそう言うと、ぼくの前でしゃがみ込んだ。思いがけない彼の行動に、ぼくはびっくりする。


「無意味なことだとは分かっているがな。だけど弟の気が済むまで付き合ってやる。それもお兄ちゃんの仕事だ」


 ぼくはなんだか気恥ずかしくなってくる。せっかくなので、ぼくは兄の肩にまたがった。兄がすっくと立ち上がり、それと共にぼくは上昇する。


 兄弟での肩車により、ぼくはその窓や鉄格子に触れることができた。格子はもちろんだが、その窓も大分がんじょうそうだった。ゴンゴンと叩いてみても、割れそうなふんいきは一切ない。もっとも割れたところで、ぼく達の脱出は鉄格子にジャマされることになるだろう。


「気が済んだか?」


 下から兄が問いかける。ぼくは素直に「うん」と返事した。兄がしゃがみこみ、ぼくは床に降り立った。


「……ありがとう」


 ぼくがお礼を言うと、兄は「なーに、いいってことよ」と言った。


「あ、そうだ、ペプチド。協力したからって訳ではないが、一つ頼みを聞いてもらえないか?」


「頼み? 何?」


「お兄ちゃんって呼んでくれないか?」


 やはりぼくは気恥ずかしかったが、小さな声で「お兄ちゃん」と彼に向かって言った。


「ふひひ」


 兄も恥ずかしそうにしながら、薄気味悪く笑った。兄弟っていいものかもしれないと、ぼくはなんとなく思った。

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