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春の日差しはいやらしいほどに優しくて、ぼくの絶望感を余計にあおっているようだった。
農園での作業はあいかわらずしんどい。つらすぎる。常に監督官がぼく達を見張り、一切の休憩を許さなかった。
ぼくは広大な畑から、次々とキャベツを収穫していった。とったキャベツは監督官に渡されたふくろの中に入れていく。ふくろがいっぱいになると、ぼくはそれをずーるずーると引きずって、畑と畑の境のあぜ道まで運ばなければならなかった。
だらだらと汗をかき、モーレツに喉が渇いた。日々の労働による疲労もたまっていて、ぼくはもうふらふらだった。
もうダメかも……、と思った時に、昼食の時間になった。ぼくは渡された瓶に入った水を、ごくごくと一気に飲み干した。それからパンをちびりちびりとかじった。
水を全部飲んでしまったので、パンを食べ終えるとまた喉がじゃっかん渇いてしまっていた。配分には気をつけなければならなかったのに、と、ぼくは反省する。
すぐに昼食の時間は終わり、ぼく達は再び労働を強いられることになった。こんな所さっさと抜け出したいと切に思う。
ぼくはせまい牢屋の隅々を、くまなくチェックして回った。ヒミツの抜け穴なんてものはないだろうけど、どこかしらにキズやヒビはないか。がんばったらそこを広げられるかもしれない。そんなことを考えたのだ。
「無駄だ」
兄の声が冷たく響く。
「牢の中なら俺も何度も調べた。尤もそんなことをしても、何の意味もないのにな」
そう言うと、兄はへらへらと笑った。
「変に希望なんか抱いていても苦しいだけだ。日々を粛々と過ごすことだけを、精一杯頑張るんだ」
「うるさい」
ぼくはきっぱりと言い放ちつつも、声が大きくならないように気をつけた。
引き続き牢内をチェックして回る。しかしながら、ヒビわれ1つ見つけることができない。
ぼくは鉄の柵をくぐれないか試してみる。当然ながら、そんなことは不可能だった。ゆいいつある鉄格子付きの窓は小高い所にあり、がんばって手を伸ばしても、ぼくの身長では届くことができなかった。
「あんな鉄格子付きの小さな窓から、外に出られる訳がないだろう」
気付くと兄が後ろにいた。ぼくはやはりイラついて、「うるさい」とぴしゃりと言った。
「ほら、乗れ」
兄はそう言うと、ぼくの前でしゃがみ込んだ。思いがけない彼の行動に、ぼくはびっくりする。
「無意味なことだとは分かっているがな。だけど弟の気が済むまで付き合ってやる。それもお兄ちゃんの仕事だ」
ぼくはなんだか気恥ずかしくなってくる。せっかくなので、ぼくは兄の肩にまたがった。兄がすっくと立ち上がり、それと共にぼくは上昇する。
兄弟での肩車により、ぼくはその窓や鉄格子に触れることができた。格子はもちろんだが、その窓も大分がんじょうそうだった。ゴンゴンと叩いてみても、割れそうなふんいきは一切ない。もっとも割れたところで、ぼく達の脱出は鉄格子にジャマされることになるだろう。
「気が済んだか?」
下から兄が問いかける。ぼくは素直に「うん」と返事した。兄がしゃがみこみ、ぼくは床に降り立った。
「……ありがとう」
ぼくがお礼を言うと、兄は「なーに、いいってことよ」と言った。
「あ、そうだ、ペプチド。協力したからって訳ではないが、一つ頼みを聞いてもらえないか?」
「頼み? 何?」
「お兄ちゃんって呼んでくれないか?」
やはりぼくは気恥ずかしかったが、小さな声で「お兄ちゃん」と彼に向かって言った。
「ふひひ」
兄も恥ずかしそうにしながら、薄気味悪く笑った。兄弟っていいものかもしれないと、ぼくはなんとなく思った。




