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僕はマッチョ奴隷達の間に挟まれる形となった。間近で見る彼らの筋肉は隆々としていて、目を見張るものがあった。しかしその表情は肉体に反し、全く生気を感じられない。意思のないサイボーグのように、死んだ目で命令を遂行する。
使用人の鞭が合図となり、イジュメール母娘を乗せたトロイカが出発する。マッチョ達と共に、僕は農園の大道を駆け抜ける。左右には広大な田畑が広がり、今日もたくさんの奴隷達が点在しては、各々が労働に明け暮れていた。
左側前方に、僕はペプチドの姿を確認することができた。あっちも僕の存在に気付いたようで、ハッとした顔をこちらに向けた。しかし以前のこともあってか、こちらに向かって走り出すような馬鹿な真似はしなかった。
ペプチドは農作業をしながら、きらきらとした目でじっとこちらを眺めた。僕は何見てんだあいつ、と思いながら、ペプチドの横を通り過ぎていった。
しばらく走ると、眼前に大きな門が見えてきた。イジュメール家の敷地は高い塀で囲われていて、そう簡単に出られそうになかった。
門衛の男はこちらに気付くと、シャキッと背筋を伸ばして敬礼のポーズをとった。それからてきぱきと動き、門扉を大きく開け放った。
門の外は石畳の街道が伸びており、その脇にぽつぽつと三角屋根の民家が建っていた。遠くの方に、大きな城が聳え立っているのが見える。城に近づくにつれ、建物は密集し、そこで1つの都市を形成しているようだった。イジュメール家は街の外れに位置しているようである。
僕達は西欧風の街並みの中を、馬車を引いてとことこと歩いた。城に近付くに連れ、人通りも建物の数も多くなっていった。
城下町の人々は多種多様であった。チュニックや被り物を身に付けた一般市民、鎧を纏った騎士、修道服に身を包んだ聖職者等々。通りを行き交う馬車は正しく馬車で、ちゃんと動物の馬が籠を引いていた。相対的に見て、僕達の馬車の異様さが際立った。人々は僕達の存在に気付くと、モーセが海を割るかのように、すぐに道を開けるのだった。
ベリィ様とサディ様は何軒もの店に立ち寄った。その度に僕達は大荷物を抱えて、馬車に運び込まなければならなかった。
やがて籠の中は荷物で埋まり、サディ様達の座席以外はパンパンになった。そうなると、あぶれた荷物は僕達奴隷の背中に括り付けられることになった。
重たい荷物を背負いながら、僕達はとことこと来た道を引き返す。方向的にも荷物のキャパ的にも、てっきり館に帰るものだと思っていたが、使用人は鞭を打って停止の合図を出した。
サディ様とベリィ様は籠から降り、とある建物の中に入っていった。使用人は僕達のハーネスを外し、首輪のリードをしっかりと掴んだ。そうして四つ足の奴隷達を引き連れて、彼はイジュメール母娘の後を追った。
そこは壺やら花瓶やらたくさんの割れ物が並べられた陶器屋だった。サディ様とベリィ様は「これいいわね」「これ可愛い」「エレガント」等と言い合って、次々と品物を選んでいった。
たくさんの陶器を包んで、店員達はとても忙しそうである。結果購入した商品は、3つの大きな箱にまとめられた。それらはしっかりと縛られ、酔っ払ったサラリーマンのお土産のように、紐を余して持ち手が作られた。
「咥えなさい」
ベリィ様にそう言われ、僕達奴隷は持ち手部分の紐を噛み締めて、箱を口からぶら下げた。以前のハンマー上げはここで活きてくるのかと、僕は感激した。
「少しでも陶器に傷をつけてみなさい。ただじゃおかないわよ」
ベリィ様は僕達奴隷に凄んだ。確かにそれはあってはならないことだった。僕は箱の揺れを敏感に感じ取りながら、細心の注意を払って移動した。
建物を出ると、店員達が勢揃いでお見送りをした。それはどの店に行ってもそうであった。身分的にも、買い物の量的にも、イジュメール家はそう扱われるべきだった。
僕達は再び馬車に繋がれると帰路についた。調教の成果もあり、僕は陶器を割ることなく、無事に館に辿り着くことができた。しかしそれは当然のことであった。僕はサディ様の専属奴隷として、イジュメール家の奴隷として、これからもより一層精進しなければならない。




