表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/88

12

「だから行くって言ってるじゃないの」


「いけません、サディ様!」


 部屋の前でサディ様と茶髪の使用人が揉めている。


「娘が父親に会って何がいけないの? さっさと案内しなさいよ、このうんこ野郎」


「だから駄目なんです! この時間、ハード様はお部屋でお仕事をなさってるんです。誰も近付かせないようにと、私達使用人はきつく言われているんです」


「知らないわよそんなの。お父様だって私に会いたい筈だわ。さっさと案内しなさい、このうんこ野郎」


「うんこ野郎じゃないです!」


 2人の議論はどうやら平行線を辿るようだった。それにしても父親に会いたいだなんて、サディ様も幼い子供なのだと思い知らされる。


「うんこ野郎ったら、うんこ野郎よ。全くこの分からず屋が」


「何と言われようが、私達は案内する訳にはいかないのです!」


「全く……」


 サディ様はやれやれといった感じで肩をすくめた。


「分かったわよ。それならお母様のところに行くから、さっさと案内しなさい」


「かしこまりました」


 サディ様は僕の背中に乗っかった。てくてくと歩き出す使用人の後ろを、僕達はついていく。


「青太郎」


 不意に耳元でサディ様が囁いた。思わず僕は身震いする。


「黙ってそのまま聞いて。私が鞭を打ったら、それを合図に廊下の反対側へ猛ダッシュするの。分かったら黙って頷きなさい」


 僕はこくりと首を縦に振った。


「よし、いい子ね」


 使用人は時折こちらを振り返りながら、一定のペースで歩行している。僕はサディ様の合図を待ちながら、じりじりと前へ進んだ。


 サディ様の鞭が僕のお尻を打った。僕はすぐさま踵を返し、使用人とは反対方向に全速力で駆け出した。


「ああ〜! サディ様ぁ〜!」


 僕達の行動に気付いた使用人が、情けない声を上げる。


「待ってぇ〜! サディ様ぁ〜!」


 彼は喚きながら追いかけてくるようだったが、次第にその声は小さくなった。


「フフフフフ」


 サディ様は上機嫌だった。僕はスピードを緩めることなく、瀟洒な館を爆走した。


「そこ右」


 不意にサディ様が言った。僕は彼女の指示に従った。


「そこ左」


「次右」


「階段登って」


 4階に来るのは初めてのことだった。どのフロアも一続きのような似た雰囲気である。壁に飾られたアンティークやガラス細工が目を惹いた。


 指示通り走っていると、唐突にサディ様が「ストップ!」と大きな声を出した。僕は急停止し、絨毯の上をズザザと滑った。


 僕達が止まったのは、とある大きな扉の前だった。サディ様は僕から降りると、その扉をすっかり開け放った。


 そこは黒を基調とした広大な部屋だった。所々に施された金の装飾やアンティークが目立つ。壁には本棚がずらりと並んでいる。

 部屋の中央の大きなデスクに、イジュメール伯爵がどっしりと座っていた。彼の手元には羊皮紙と羽根ペンがあり、何やら作業しているようだった。


「サディ?」


 こちらに気付いた伯爵は、きょとんとした顔でそう言った。


「お父様〜!」


 サディ様は一目散に伯爵のところまで駆け出した。伯爵は困惑しながらも、座っていた玉座から立ち上がり、愛娘を迎えに数歩移動した。サディ様が伯爵の元に辿り着き、彼の下半身に抱きつく。伯爵は「おー、よしよし」と言いながら、幸せそうに笑みを浮かべている。


「それにしてもサディ、一体どうしたんだ?」


「親子が会うのに理由なんかいらないでしょ? お父様に会いたくなったの」


 伯爵はにやけながら、そうかそうかと呟いた。


「しかしサディ、使用人はどうしたんだ?」


「撒いたわ」


 伯爵はからからと笑った。


「そうかそうか、サディは本当にお転婆だなあ」


「ねえ、お父様。たまには私と遊んでください」


 伯爵はうーんと難しい顔をする。


「すまないサディ。遊びたいのはやまやまなんだが、私は仕事をしないといけないんだ」


「嫌よお父様。私、お父様と一緒に、奴隷をいじめたいの」


 家族ですることかと僕は思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ