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 メッチャはサディ様の前に、持ってきた本を突き出した。


「これらならきっと読みやすいだろう」


「ありがとう、お兄様」


 サディ様とメッチャは、お互いが持っていた本を交換し合った。


「教養は大事だ、サディ。たくさん本を読むといい。そうじゃないと、こいつらみたいに豚に成り下がるしかないからな」


 そう言うと、メッチャは床に転がっている奴隷女を思い切り踏みつけた。


「ちょはっかい!」


 女が叫び声を上げる。サディ様はくすくすと笑いながら、「いやだお兄様。どう頑張ったって、私がこんな豚になれる訳ないじゃない」とおっしゃった。


「そりゃそうだ」


 2人は顔を見合わすと、さぞおかしそうに笑い合った。




 サディ様の部屋で、僕は新たな調教器具と相対していた。それはハンマー投げのハンマーが短くなったような物体だった。グリップ部分は革で出来ていて、僕はそれを犬が骨にするように、しっかりと噛み締めた。噛みやすさはこの上なかったが、なぜこのような行為をするのかは疑問が残った。


「ほら、持ち上げなさい」


 サディ様にそう言われ、僕は歯を食いしばると、首を一気に上の方に持ち上げた。ハンマーが宙に浮く。それはずっしりと重たかった。


「そのままキープ」


 サディ様の指示通り、僕はそのまま四つ足の体勢を維持するよう努めた。すぐに顎が痛くなったし、首にも負荷が溜まっていった。


 唇の端から、涎がだらだらと垂れていく。それはやがて顎に行き着き、ぽたり、ぽたりと床に滴った。

 口を開けて重さから解放されたら、どれだけ楽になることだろうと僕は思う。しかしそんな考えはしょうもなかった。僕はそれらの痛苦を快感を変え、サディ様の為なら、歯が取れても首がもげても構わないといった心持ちだ。


 5分程経過しただろうか。サディ様から「はい、オッケー。よくやったわ」といったありがたいお言葉を頂いた。僕はハンマーを床に下ろす。顎が痛かった。歯も痛いし首も痛い。しかしそれが気持ちいい。


「じゃあ次こっち」


 サディ様は、床に転がっていた、先程よりも一回り大きい鉄球がついたハンマーを指差した。まあそうなるだろうとは思っていた。僕は地面に這いつくばって、それのグリップ部分を口に咥えた。


「はい、持ち上げて」


 当然僕は指示に従った。疲労もあってか、先程よりも随分重たく感じられた。僕は首筋をくっきりと浮き上がらせながら、必死で体勢をキープした。




 クリアする毎に、鉄球は大きくなって重みは増していった。次第に僕の顎とか首の感覚は麻痺していく。ただただ使命感によって、僕はハンマーを持ち上げた。

 しかし限界というものは必ずやってくる。僕の意志とは裏腹に、首がずんずんと沈んでいった。


「何してんの。頭が下がってきてるわよ」


 サディ様は冷たく言って、僕のお尻を鞭で強く叩いた。


「ふがほがふご!」


 革のグリップを口から吐き出さないよう、僕はそれを噛みしめたまま身悶えた。そして鞭の痛みを原動力にして、首をぐっと持ち上げると元の体勢へと戻るのだった。


 それから幾度となく同じやりとりを繰り返し、結局僕はどうにもならなくなってしまった。息も絶え絶えに頭を垂れ、完全にひれ伏した。床に鉄球が転がり、グリップとを繋ぐピアノ線が撓んだ。


「全くもう」


 サディ様はそう言うと、予備のハンマーを持ってぐるぐる回し、僕に向かって投げつけた。


「むろふしっ!」


 脇腹に鉄球がめり込み、僕は思わず床に倒れ込んだ。サディ様は興味を無くしたようにソファーに座ると、以前メッチャから借りた本を手に取って読み始めた。

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