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7

 その後もイジュメール母娘は広大な農園を徘徊し、奴隷達を痛め付けて回った。その様は圧巻で、ここは楽園なのだと改めて思った。

 僕も彼らのように、肉体を酷使した長時間労働の末、女王達の鞭を浴びたかった。汗と泥に塗れてくたくたになりながらも、執拗な追い討ちをかけられたかった。

 しかしそれは贅沢な悩みだった。サディ様の専属奴隷としての役割が僕にはあった。彼女の馬として、僕は広大な大地を闊歩する。


 日が傾きかけると、イジュメール母娘は館の方へ戻って行った。館に入る前に、僕は真っ黒になった手足を井戸の前で洗わせられた。


 外を歩き回って疲れてしまったのだろう。サディ様は部屋に戻ると、1人休息なさっているようだった。僕は使用人と共に、晩餐の時間まで廊下に突っ立った。




 サディ様が食堂に入るのを見送ると、僕は廊下で待機する。物を言わぬ使用人が、隣で僕のことを見張っていた。


 少しすると、サディ様は別の使用人を引き連れて、僕のにんじんと水を持って来た。


「たくさんお食べ」


 とっくににんじんには飽きてしまっているのだが、サディ様にそう言われると、僕はたらふく食べざるを得なかった。


「やあ、サディ」


 僕がにんじんを齧っていると、スゴクが晩餐にやってきていた。


「あら、スゴクお兄様」


 サディ様はスゴクを見ると、今朝のことを思い出したようで、くすくすと笑い出した。スゴクはばつが悪そうにむっとする。しかし気を取り直したように喋り始めた。


「サディ、その奴隷も中に入れてはどうだい?」


 サディ様は訝しそうに首を傾げた。


「あらスゴクお兄様、どういった風の吹き回し? いつも奴隷のガキは目障りだとうるさいじゃない」


「なーに、晩餐は人が多い方が楽しいじゃないか。それに今日は彼の母親も来るようだし、会わせてやってもいいんじゃないか」


「なんだ、そうゆうこと。スゴクお兄様ったら、ほんと悪趣味ね」


 サディ様は呆れたようにそう言うのだった。




 僕の眼前には裸の母親がいる。スゴクが鞭を振る度に、彼女のブロンドの長い髪が振り乱れた。


「いやああああ! やめてえええ!」


「ひえっひえっひえっ。オラオラオラアアア!」


 僕は全く羨ましいと思いながら、調教される母親の姿を眺めた。後ろのテーブルから、イジュメール家の笑い声が聞こえる。


「どうだ? 自分のガキに見られてる気分は?」


「見ないでええええ!」


「ひえっひえっひえっ」


 恥辱に塗れる母親を見て、スゴクはとても愉快そうだった。


「おい、ガキ。どうだ? 自分の母親の惨めな姿を見て」


 どうだと言われても、僕は返答に困った。


「えー、とてもいいんじゃないでしょうか、はい」


「ああ?」


 スゴクは鞭を打つ手を止め、僕の方ににじり寄った。


「何言ってんだてめえ。目の前で母親が酷い目にあってんだぞ」


 何が気に食わないのだろう。スゴクは声を荒げて言った。やはり僕は返答に困り、目の前にあるにんじんをポリポリと齧った。


「なに食ってんだてめえ!」


 スゴクは激昂し、僕の顔面を蹴り上げた。男に蹴られても嬉しくはないが、その痛みには快感を覚える。


「ちょっと!」


 後ろからサディ様の声がする。彼女は僕達の所までやってくると、スゴクの前に立ち塞がった。


「スゴクお兄様、青太郎は私の専属奴隷なのよ。私以外が傷付けるなんて許せないわ」


 なんだろう、僕はキュンとした。


「確かにサディの言う通りだな」


 イジュメール伯爵の、威厳のある低い声が響いた。


「スゴク、サディに謝りなさい」


「な、なんで俺がっ」


「謝りなさい!」


 スゴクはこめかみをぴくぴくと痙攣させながら、渋々とサディ様に向けて頭を下げた。


「す、すまなかった」


「分かればいいのよ、分かれば」


 サディ様は満足そうに言った。四つん這いの姿勢の僕からは、その時のスゴクの表情が見えた。歯を食いしばって目をひん剥き、力の籠った顔面は赤い赤い。般若の如き形相の彼に、専ら僕は引いてしまった。




 晩餐が終わってサディ様を部屋に送ると、僕は自分の奴隷部屋へと戻った。

 今日も大変素晴らしい1日だったと思い、僕は安らかに眠りに就いた。

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