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 日々は緩やかに流れていった。僕とペプチドは毎日のように調教を受け続けた。それはとても幸福なことだった。


 僕達は飽き足りない程鞭を打たれ、蹴り飛ばされ、ビンタされ、ぶん殴られ、縛られ、踏まれ、罵倒され、詰られ、冷笑され、放置され、物とし扱われ、くすぐられ、つねられた。この日々がいつまでも続いて欲しいと僕は思った。


 もうすぐ7歳になろうというある日のことだった。いつものように僕達の奴隷部屋に使用人がやってきた。しかしその数は2人だった。こんなことは未だかつてなかった。一体どういうことだろうと、僕は危ぶんだ。


「茶色いの、来い」


 中年の頬がたるんだ使用人が無愛想に言った。


「青目はこっちだ」


 茶髪の若い使用人が、やはり仏頂面で冷たく言った。僕とペプチドが離れ離れになるのは初めてのことだった。


「え、なんで?」


 不測の事態に、ペプチドはあたふたとしている。


「いいから来い!」


 中年の使用人はそう言うと、ペプチドの体を掴んで無理やり引っ張っていった。


「エムバペ!」


 ペプチドは引きずられながら、僕の方を見て叫んだ。


「ペプチド……」


 僕はぼやくように言った。雰囲気に呑まれたのだ。


「さあ来るんだ」


 若い使用人が僕の肩を掴んだ。僕は大人しく彼の後についていった。


 僕とペプチドはお互い廊下の反対側を進んでいった。背後から「エムバペぇええ」という声が断続的に響いた。ちらと後ろを振り返ると、ペプチドは救いでも求めているかのように、僕に向かって懸命に腕を伸ばしていた。




 使用人は僕が行ったことがないエリアをずんずんと進んでいく。一体どこへ連れて行かれるのだろう。ひょっとすると、この屋敷には様々な器具や設備が整った拷問部屋があって、ドMの才能を見抜かれた僕はそこに導かれているのかもしれない。そんなロマンを胸に抱き、僕は男の後をついていった。


 使用人がとある扉の前で立ち止まる。


「サディ様、連れて参りました」


 男がそう言うと、中から「入ってちょうだい」と、お馴染みの愛くるしい声が聞こえてきた。


 使用人が扉を開ける。そこはファンシーな空間だった。広い部屋にパステルカラーの家具が並ぶ。所々にたくさんのぬいぐるみが置かれていた。部屋の中央のソファーに、愛しきサディ様が凛として座っている。


「待っていたわ、青太郎」


 朗らかに彼女は言った。そんなことを言われるなんて、僕は光栄だと思う。


「ここはどこでしょうか?」


 僕が尋ねると、サディ様は「ここは私の部屋」と答えた。サディ様の部屋に入れるなんて、僕はとても嬉しい。なんてキュートで愛らしい部屋なのだろうと思う。


「素敵な部屋ですね」


「ふふふ、ありがとう」


 彼女はにっこりと微笑んだ。その顔はとてもチャーミングだった。


「でも、なんで……?」


 僕が疑問を口にすると、彼女はゆっくりと口を開いた。


「まず、あなた達に対するお母様の調教は、昨日で終わったの」


「えっ」


 唐突にそう伝えられ、僕は悲しい。もっともっと僕はしごかれるべきだった。僕みたいな愚かな豚は、どれだけ調教してもしきれないのだ。


「それで今後のことだけど、今日からあなたは私の専属の奴隷として仕えさせることになったわ」


 WRYYYYYYYYYY! 僕は叫びたくなる気持ちを必死で抑えた。こんな素晴らしいことがあるのだろうか。僕はひたすらに神に感謝、いや、天使に感謝した。


「専属になったからといって、今までと特段何かが変わる訳ではないわ。いつも通り、あなたは私の従順な馬となるのよ」


「かしこまりました」


 僕は慇懃に返事をした。サディ様はふふふとたおやかに笑った。

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