13
部屋の奥には厨房があり、そこから使用人達が続々と料理を運んできた。すぐにテーブルの上は豪勢な料理でいっぱいになった。
「それでは乾杯といこうじゃないか」
イジュメール伯爵が音頭をとる声が聞こえた。
「ルネッサ〜ンス」
テーブルの上で、グラスを重ねる音があちこちで鳴った。
結局僕は椅子としては高さが足りなかったので、座布団として椅子の上に敷かれることになった。
うつ伏せの状態で、椅子の上に横になる。はみ出した手足がぷらんぷらんと宙を漂った。サディ様のお尻と椅子に挟まれて、僕のお腹は圧迫される。丁度いい負荷がかかり、僕は気分が良かった。
僕とサディ様は、イジュメール伯爵のすぐ右側の席に座った。テーブルの反対側を覗くと、ベリィ様の足置きとして蹲っているペプチドが見える。
彼はテーブルの下から、熱心にどこか一点を見つめているようだった。
彼の視線を辿ると、離れた所で佇む母親達がいた。彼女達は今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。息子達に対する酷い仕打ちを前にして、そうなることは自然なことだと思われた。
「そこで俺は言ってやったんだ。消しゴムの角使ったくらいで怒るなよってね」
「ふふふ」「はっはっはー」
「ほんとスゴクお兄様ったら」
イジュメール一家の優雅な団欒がしばらく続いた。僕は座布団になることに努め、自分の存在を完全に消し去っていた。
「さて、そろそろショータイムといこうか」
不意にイジュメール伯爵は言った。
「奴隷達!」
彼はそう言うと指をパチンと鳴らした。
部屋の隅にいた母親達が、とことことテーブルの前までやってくる。何が始まるのだろうと思って見ていると、1人の女がフルートを吹き始めた。他の4人の女が横1列になって、その音色に合わせて踊り始める。彼女達の動きに統一性はなく、各々が好き勝手に動いているようだった。
「いいぞー」「踊れ踊れー」
三兄弟が野次を飛ばす。母親達は息子の前とあってか、複雑な表情をしてぎこちなく踊っていたが、やがて吹っ切れたように動きがよくなった。
テーブルの下のペプチドに目を向けると、彼も何とも言えない表情をして踊る母親の姿を眺めていた。
女達の中で、一際目を引いたのは僕の母親だった。彼女の動きは艶かしく、上品で優雅だった。
あとの女達はみな凡庸であった。一生懸命さは伝わってくるのだが、ただそれだけで心に残るものはなかった。ペプチドの母親に至っては動きがカクカクとしていて、あまり運動できる人ではないんだろうなと思った。
「まずは俺から」
メッチャと呼ばれる青色の服の男が立ち上がり、女達の前まで進んでいった。彼の手には鞭が握られている。
男は品定めするように女達のダンスを眺めた。やがて彼はペプチドの母親の前に立った。
「下手くそっ!」
そう言うとメッチャは鞭を振り上げた。
「いやあああああ!」
女の悲鳴と、鞭がバチンと体を打つ音が辺りに響いた。
「本当にお前は踊るのが下手だな、うんこ女! そうらそら!」
メッチャは続け様にペプチドの母親を鞭で打った。
「ひえええ! やめてえええ!」
「ほうらほら、痛みで悶えてる方が動きがいいぞ! そりゃっ!」
「いやあああ!」
男が鞭を浴びせる中、テーブルの下から小さな影が飛び出すのが見えた。無論ペプチドだった。
「ママぁ!」
ペプチドは男の足にしがみ付くように突進した。メッチャは一瞬よろけたが、すぐに踏み止まった。
「何すんだ糞ガキ!」
メッチャはペプチドがくっついた右足を振るった。ペプチドは揺さぶられながらも、がっちりと絡み付いて中々離れなかった。
「ママをいじめるな!」
声高々にペプチドは叫ぶ。
「ペプチド……」
息子の勇姿を見て、母親は涙を流した。




