表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/88

13

 部屋の奥には厨房があり、そこから使用人達が続々と料理を運んできた。すぐにテーブルの上は豪勢な料理でいっぱいになった。


「それでは乾杯といこうじゃないか」


 イジュメール伯爵が音頭をとる声が聞こえた。


「ルネッサ〜ンス」


 テーブルの上で、グラスを重ねる音があちこちで鳴った。

 結局僕は椅子としては高さが足りなかったので、座布団として椅子の上に敷かれることになった。

 うつ伏せの状態で、椅子の上に横になる。はみ出した手足がぷらんぷらんと宙を漂った。サディ様のお尻と椅子に挟まれて、僕のお腹は圧迫される。丁度いい負荷がかかり、僕は気分が良かった。


 僕とサディ様は、イジュメール伯爵のすぐ右側の席に座った。テーブルの反対側を覗くと、ベリィ様の足置きとして蹲っているペプチドが見える。

 彼はテーブルの下から、熱心にどこか一点を見つめているようだった。

 彼の視線を辿ると、離れた所で佇む母親達がいた。彼女達は今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。息子達に対する酷い仕打ちを前にして、そうなることは自然なことだと思われた。




「そこで俺は言ってやったんだ。消しゴムの角使ったくらいで怒るなよってね」


「ふふふ」「はっはっはー」

「ほんとスゴクお兄様ったら」


 イジュメール一家の優雅な団欒がしばらく続いた。僕は座布団になることに努め、自分の存在を完全に消し去っていた。


「さて、そろそろショータイムといこうか」


 不意にイジュメール伯爵は言った。


「奴隷達!」


 彼はそう言うと指をパチンと鳴らした。

 部屋の隅にいた母親達が、とことことテーブルの前までやってくる。何が始まるのだろうと思って見ていると、1人の女がフルートを吹き始めた。他の4人の女が横1列になって、その音色に合わせて踊り始める。彼女達の動きに統一性はなく、各々が好き勝手に動いているようだった。


「いいぞー」「踊れ踊れー」


 三兄弟が野次を飛ばす。母親達は息子の前とあってか、複雑な表情をしてぎこちなく踊っていたが、やがて吹っ切れたように動きがよくなった。

 テーブルの下のペプチドに目を向けると、彼も何とも言えない表情をして踊る母親の姿を眺めていた。


 女達の中で、一際目を引いたのは僕の母親だった。彼女の動きは艶かしく、上品で優雅だった。

 あとの女達はみな凡庸であった。一生懸命さは伝わってくるのだが、ただそれだけで心に残るものはなかった。ペプチドの母親に至っては動きがカクカクとしていて、あまり運動できる人ではないんだろうなと思った。


「まずは俺から」


 メッチャと呼ばれる青色の服の男が立ち上がり、女達の前まで進んでいった。彼の手には鞭が握られている。

 男は品定めするように女達のダンスを眺めた。やがて彼はペプチドの母親の前に立った。


「下手くそっ!」


 そう言うとメッチャは鞭を振り上げた。


「いやあああああ!」


 女の悲鳴と、鞭がバチンと体を打つ音が辺りに響いた。


「本当にお前は踊るのが下手だな、うんこ女! そうらそら!」


 メッチャは続け様にペプチドの母親を鞭で打った。


「ひえええ! やめてえええ!」


「ほうらほら、痛みで悶えてる方が動きがいいぞ! そりゃっ!」


「いやあああ!」


 男が鞭を浴びせる中、テーブルの下から小さな影が飛び出すのが見えた。無論ペプチドだった。


「ママぁ!」


 ペプチドは男の足にしがみ付くように突進した。メッチャは一瞬よろけたが、すぐに踏み止まった。


「何すんだ糞ガキ!」


 メッチャはペプチドがくっついた右足を振るった。ペプチドは揺さぶられながらも、がっちりと絡み付いて中々離れなかった。


「ママをいじめるな!」


 声高々にペプチドは叫ぶ。


「ペプチド……」


 息子の勇姿を見て、母親は涙を流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ