12
3層分の階段を降りて、僕達は一階に辿り着いた。
引き続き館を歩く。やがてベリィ様はとある大きな扉の前で立ち止まった。
使用人が扉を開ける。そこは吹き抜けた開放的な空間が広がっていた。
部屋の中央にはベルベットのクロスが敷かれた豪勢なテーブルがあり、そこには4人の男が席に着いていた。
テーブルの奥、お誕生日席には貫禄のある中年男性が座っている。
鷹のように鋭い目をしており、どこかで見たような存在感のある鷲鼻にちょび髭を生やしていた。髪は黒く、短く整えられている。彼は白いシャツに金の装飾が散りばめられた黒いジャケットを羽織っていた。
座り位置的にも、彼がイジュメール伯爵だということがすぐに分かった。
上座2つは空席で、伯爵から一つ間隔を空けて左側に2人、右側に1人、男が席に着いている。
彼らはパッと見、それぞれ中学生、高校生、大学生くらいの年齢に見えた。押し並べて奥に座る男にそっくりであり、まるで1人の人間の成長過程を目の当たりにしているような感覚に陥った。
男達はそれぞれ宝塚の衣装のような派手な服を身に纏っている。
「ようやく来たか」
左側の奥に座っていた青い服の男が言った。凛とした態度と背丈から、彼が1番年長であることが分かる。
「待たせたわね、メッチャ」と、ベリィ様は言った。
「ほんと待ちくたびれたよー」
左側の手前に座っていた、黄色い服の男が言った。彼は机に突っ伏して、両手を前に伸ばしていた。彼が1番年少らしく、まだまだあどけなさが残っていた。
「あらあら、スゴクお兄様ったら。本当に辛抱ができないのね」
「うるせえ」
男のぶっきらぼうな返事を聞いて、サディ様はうふふと朗らかに笑った。
「それはそうと、そいつらは誰だい?」
右側に座る次男坊ぽい緑の服の男がそう尋ねた。
「彼らは最近調教を始めた奴隷達よ、トテモ」
「ふーん。でもなんで晩餐に?」
トテモと呼ばれる緑の男がそう言うと、スゴクと呼ばれる黄色の男が「そうだそうだ。奴隷のガキなんて目障りなだけだ」と野次を飛ばした。
「彼らは椅子と足置きとして連れてきたわ」
ベリィ様がそう言うと、男達は「それなら仕方ない」と納得した。仕方ないんだ、と、僕は思った。
テーブルまで歩いていると、部屋の片隅に4、5人の女が佇んでいるのに気付いた。その中の2人が、僕達を見て声を上げた。
「エムバペ!」
「ペプチド!」
彼女達は僕とペプチドの母親だった。久方振りの家族再会となった。
「ママ!」
すぐさまペプチドは彼女達の元へ走り出す。それをベリィ様が鞭で制した。
「ぴぎゃあ!」
「ペプチド!」
駆け寄ってくるペプチドの母親に対しても、ベリィ様は鞭を浴びせた。
「いやああ!」
ベリィ様は「勝手に動き回ってんじゃねえぞ糞奴隷共が」と、きつく言い放った。
それからペプチド親子はしゅんとして、自分が元いた場所へと戻っていった。
「青太郎、あなたは全く動こうとしなかったわね」
サディ様にそう言われ、僕は「はい」ときっぱり答えた。
「私はサディ様の馬に過ぎませんので、そのような勝手が許される訳がありません」
「ふふっ。いい心がけね」
サディ様の笑った声を聞いて、僕はとても嬉しくなった。




