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 調教を受けていく日々の中で、ペプチドが泣くことは次第になくなっていった。だからといって、彼のメンタルが安定しているとはいえなかった。

 ペプチドは日に日にやつれ、目に生気がなくなり、口数も減っていった。以前のように彼が将来の希望を口にすることはなくなり、時折イジュメール母娘に対する呪いの言葉を放つのだった。




 うふふふふ、と、サディ様が僕の背中の上で楽しそうな笑い声をあげている。僕は嬉しくなって快調に四肢を動かした。


 度々僕はサディ様の馬となった。僕は彼女を乗せる度にアップデートしていった。腕や足腰が鍛えられ、当初よりも耐久力、スピードは大分上がったし、手の平や膝の皮膚も頑丈になった。


 いつもの部屋をぐるりと回ると、サディ様はベリィ様の座る玉座の前で僕のスピードを落とさせた。


「お母様、やっぱり凄くいいわこの馬」


 ベリィ様は読んでいた本から顔を上げると、「それは良かったわね」と言ってにっこり笑った。

 彼女の足元には足置きとなったペプチドが蹲っていた。馬になるのもいいが、ペプチドのそれはそれで魅力的だった。完全な無機物として扱われ、じっと動くことなく、背中でベリィ様のお足を支えるのだ。


「この小ささなのにこれだけ走れるなんて、やはり素晴らしいわ」


 サディ様にそう言われ、俄然僕は嬉しい。


「私の体にもフィットするし、この青い目と金髪もいいのよね。他にはない、私だけの馬って感じ」


 嗚呼、なんて勿体無いお言葉なのだろうと僕は思う。一生あなたの馬になります。


「ふふ、そう」


 やはりベリィ様はにこやかにサディ様のお話を聞いていた。


「たまにキモいけど」


 突き放すようにサディ様は言った。


「キモいわね」


「ええ、キモいわ」


 全くもう、と思いながら、僕の顔はにやけてしまうのだった。


「お母様、晩餐の時も、私この馬に乗りたいわ」


 サディ様がそう言うと、ベリィ様は「食事の時まで馬に乗るなんて、はしたないからやめておきなさい」と言った。


「じゃあ食事の時は椅子にするわ」


「んー、ならいいわ」


 いいんだ、と僕は思った。


「私もこの足置き気に入ったから、晩餐に持って行こうかしら」


「そうしたらいいわ。そうしましょう」


 二人はうふふと笑い合った。なんて微笑ましい母娘なのだろうと僕は思った。




 サディ様を乗せて、僕はベリィ様と使用人の後ろを歩いた。隣にはペプチドがとぼとぼと歩いている。

 館は広大で全容が知れない。初めて足を踏み入れるエリアに、僕はわくわくして胸が高鳴った。廊下の端に、西洋の鎧が何体も並んでいた。


 僕達は階段を何段も下りた。サディ様を乗せながら階段を下りるのは中々大変だった。しかしその分やりがいもあった。


「サディに怪我でもさせたら死刑よ」


 ベリィ様にそう言われ、僕はヘマをする訳にはいかなかった。元々サディ様を傷付けるなんてことはあってはならないことだが、自分の命が懸かっていると尚更だった。この素晴らしい世界で、僕はまだまだ生き続けなければならなかった。

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