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或る男子高の非日常  作者: 林海


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第33話 反省会


「逆に教えて。

 私が小桜さんを弟扱いしているって、どうして思ったん?」

 今度は、恵茉が問う。


「母親か姉かって感じの細かい気配りが積み重なったから」

「……細かい気配りって、どんなところ?」

 鸚鵡返しに聞かれて、小桜は一瞬答えに詰まったものの、取り繕うことなく答えた。恵茉がストレートな回答を望んでいるのがわかっていたからだ。


「まずは、ご両親との距離。

 俺も長男だけど、比べ物にならないほど坂井さんはその距離が近いと思ったんだ」

「親の話なんかしたっけ、私?」

「2つ。それに対して、俺は今日初めて、必然として1つ」

「ふーん、なるほど」

「そこから、親に対する責任みたいなものも感じたんだよ。話題に出てきたということ自体からね」

 恵茉は、一瞬というよりは長く目をつぶった。おそらくは、短い時間とはいえ自分の行動を思い返したのだろう。


「それから?」

 続く問いに、小桜はもう迷うことなく答える。

「間違っても変な意味に取らないで欲しいんだけど、時間に正確なところ。加西さんたち、交流会のとき結構遅刻した。遅刻って信用なくすから絶対ダメなんだけど、それを時として平気でする女子がときどきいるんだよね。で、あくまで想像だけど、男子は待たせても、たぶんうんと目上の人と保護の必要のある目下の人間は待たせないんじゃないかと……」

「なるほど。誰でも待たせるとなると、単なる破綻した人だもんね。じゃ、待たせせてもいい人なら、待たせればいいのね?」

「だーかーらー……」

 これはもうお約束である。だから、乗らない手はない。


「わかっているよー。まだ、あるよね?」

 こう聞いてくるあたり、勘が鋭いのか、小桜の表情を読んでいるのかはわからない。

「まぁ、時間を守ることは根拠にするには薄弱なんだけど、次のこれが俺の中で決定打だった。俺に説教するときもしないときも、車道側にいること。普通ね、危ない車道側を男子が歩くんだけど、いつも俺を守ろうとするよね」

 小桜の言葉に、恵茉は驚きの表情になった。本当に自覚していなかったらしい。


「えっ、嘘……。でも、言われてみればそうかも……。女子と歩くときも、いつも私、車道側だ……」

「そうなんです。女子って、男子の保護欲を唆るものだけど、坂井さんは……」

「どーせ、私は保護者側で可愛くないですよっ」

「だが、それがいい」

「うるせーーっ」

 そう言って、軽く笑い合う。


「……それから」

「まだあるん?

 あ、そうだ、私、そんなに説教とかしていないけど……」

「いやいや、それ含めてまだまだありますぜ」

「マジか……。観察力すげーー」

 出てくるとは予想していた恵茉も、ここまで次々と出てくるとは想像できていなかったらしい。



 ※

 恵茉ちゃん、保護者気質なもんだから人はよく見ているんだけど、人から見られているって感覚には乏しいところがあるんですな。だから、自分に対して保護欲を持とうって人がいることも想定外。恋とかの単語とも、その辺りは切り離されちゃっている……。

 でも、今や気がついてしまいましたから、さて、どうなりますやら……。



「これも言い難いんだけど……。

 仙厓が美術館で見られなかったとき、すぱんと切り替えたよね。あれほど楽しみにしていたのに」

「そんな、駄々こねても仕方ないし……。子供じゃないんだから……」

「いや、他の女子だったら泣くとかまであるかもしれないし、もう少し引きずると思うんだ。それにほら、そもそもそれを言ったのは坂井さんじゃん。中学で演技していたって。周囲の女子たちとのトラブルを避けるために、さ」

 ふう。

 小桜の言葉に、恵茉の口からため息が漏れた。


「それがお姉さんだってこと?」

「うん。軽口でいう『お姉さん』っていうのは割りと誰でも言うかもだけど、行動が伴うってのは少ない気がする。自律とも取れるけど、その方向が思い返すほど保護者的なんだよね。

 お姉さんとして生きる習慣が、第二の天性になっているよね」

「そうかぁ……」

 今日何度目かのため息が、再び恵茉の口から漏れる。


「最後に……」

「本当に最後?」

「うん」

「あー、よかった。じゃあ、その最後を教えて」

「これは、俺が……、俺が言い難いことなんだけど……。

 まぁ、俺も女子と付き合ったことないから想像でものを言うんだけど……」

 小桜は、口ごもりつつもなんとか言葉を絞り出す。


「普通の女子は、本命から告白されたら喜ぶんだろうし、本命じゃなかったら困惑するにせよなんにせよ、坂井さんとは違う反応になるんじゃないかと思う。そして、面倒くさい元同級生からは距離をとって、その行末までの心配なんかしないと思う。つまりね、お説教なんかしないと思うんだ。でも、それをするから姉気質なのかなと思ったんだ。」

 そこまで言った小桜は、恵茉が反応する前に慌てて言葉を足す。


「で、あの、言っておくけど、お説教に対して俺がどう思うかの話じゃないからね、これ。普通の女子ならしないけど、俺は、別にそれが嫌とかじゃないからね。感謝もしているし、それは別の話だから、そこはそう取らないで。それから、これは一般論だから、行末までの心配しない人が多いだろうという話で、心配しちゃダメとかの話でもないからね」

「予防線、張るねぇ……」

「心のことだから、誤解されたくないし」

「……わかりやすくていいけど」

 どこか憮然と恵茉はつぶやく。


 前にもこの「心配」については話したことがあった。入光美術館で、である。小桜はそれとは話の筋が違うことを、あえて言い添えたのである。

 つまり、この「心配」に対しては、恵茉なりに考えることもあったのだが、それを話題とする芽を小桜が潰したのだ。


「たださ、俺、こういうのの積み重ねから、坂井さんに守ろうとされていると思ったんだ。で、『弟扱いされている?』って聞いたんだよ」

「……なるほど」

 そう恵茉の返事が返ってくるまで、たっぷりの間が空いていた。


 さすがに、小桜の話を消化しきれていないのだろう。

 自分が他者からどう見えているか、今までこんなに指摘されたことはなかっただろうし、自分の意識下だけでなく、無意識に踏み込むところまで言われたのだから当然のことだ。


「小桜さんの言うことはわかった。いろいろ気がつかされたよ。でも、最後だけはちょっと違うと思う」

「……いや、全部当たっているなんて思っていないよ」

「……そういうとこだよね」

「えっ、なに?」

 そこで時間切れとなった。


 電車は政木を出てから最初の大きな街に着き、たくさんの人が乗り込んできたのだ。もう、誰にも聞かれずに突っ込んだ話をすることなどできなかった。



 ※

 本当に「……そういうとこだよね」、小桜。

 まあ、らしいっちゃらしいけど。きっと小桜は永遠に気がつかない。困ったもんだ……。

 次話、「夏休み明け実力模試」。果たして小桜に成果は出るのか……。


本当に「……そういうとこだよね」、小桜ww

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