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或る男子高の非日常  作者: 林海


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第24話 再びの東京散策3

挿絵(By みてみん)


 最高裁から桜田門に向かうのは、なだらかな下り坂になる。

 高校生の2人の足であれば、あっという間にもと来た道を戻れてしまう。


 桜田門へ向けて堀を渡る手前で、小桜は立ち止まった。

「このあたりが桜田門外の変が起きたところ。当然のことだけど、桜田門の変じゃなくて桜田門外の変だから、外なんだよね」

「うーん、城の外とはいえ、こんなところで大老が暗殺されたのかぁ」

 恵茉はそう言いながら周りを見渡す。


「江戸時代は民主主義じゃないけどさ、こんなところで大老が殺されるなんて、評判を落としただろうねぇ」

 さらにそう続ける恵茉に、小桜は頭の中が軽くスパークしたような衝撃を覚えていた。



 ※

 小桜、なにかを思いついたらしい。

 その思いつきが物騒なものだと困るのは、恵茉ちゃんだけではない。このナレーター役も困るのだ。青春物語が社会派小説になってしまい、登録ジャンルが変わってしまって手続きが面倒くさいからだ。

 小桜には、穏当に生きて欲しいぞw



「こんな城の目と鼻の先で幕閣が殺されたってことになると、当時、江戸城って張子の虎ってことになったんじゃないかな?」

「えっ?」

 小桜の言葉に、恵茉は視線を上げて改めて堀を見渡した。


「現代で想像してみてよ。

 国会議事堂の真ん前で総理大臣が暗殺されたら、この国の威信というか、信用とかってどうなるかな? 

 当時の人はそれ以上の衝撃だったはずだよ。各藩の大名から、当時としては政治的力はあまり持っていなかった江戸の町民に至るまで、等しく威信を落としたと思う」

「それはわかる」

 恵茉は頷きながら、小桜を探るような目で見た。


「それ以降の幕府の発言力は大きく損なわれたはずだ。それがなかったら、江戸城だって落ちなかったかもしれない。

 で、これって使えないか?」

「一応聞くけど、なにに?」

 恵茉の表情は、さらに疑惑を深めている。


「もちろん、政木高、政木女子高を一緒にしちまおうっていう相手だよ。歴史上、この城は落ちた。だから今、ここは江戸城ではなくなっている。戦いというのは正面からの力押しのみではないって実例がここにあるじゃん」

「……テロには賛成できないけど」

「んなわけ、ねーだろ。てか、逆に聞くけど、なんでそう思った!?」

 小桜の問いに恵茉は数歩移動し、街路樹の日陰に入った。おそらくは、なにかを話すための腹を決めたのだ。


「夏休みに入る前、敷間高で議論が先鋭化しつつあった。知らないの?」

「知っているわけないだろ。こっちは生徒会長と話したあと、自重を指示されているんだ。日々バカなことやっていても、この問題に関してだけはこちらからは動いていないよ」

「ならいいけど……」

 恵茉は、明らかに安堵した顔になった。そして、言葉を続ける。


「敷間高は政木高に比べて大人しい校風だと思われているけど、案外そうでもないんだよね。OBが総理大臣からいるってとこは政木高と同じだけど、テロリストまでいるってのは逆にさすがは敷間高なんだよ」

「マジか……。

 それは知らなかった」

 恵茉がなにを疑っているのかと思うと同時に、「肩書がテロリストってなんなんだよ」と小桜は思う。


「要人の大規模暗殺事件を起こすほど、ガチな人よ。私、敷間高でその人がそんな事件を起こすように教育されたとは思わない。だけどね、政木高も敷間高も、権力に対しては反骨を是としているよね」

「そうだね。そういうところがあるのは認める」

「じゃあ、小桜将司という人間としては、そのあたり、どう考えているの?」

 ここで、小桜は恵茉がここに来たもう1つの理由に気がついた。


 先日、恵茉は小桜を評し、「ちょっと前から、視野の中に国まで含めた公ってのが入ってきたよね。その一方で、どんどん自信を失っていったように見えたけど、今はそれを取り返している。それに、どこか中学の時に比べて大人になった感じがする」と言っていたではないか。

 視野の中に国まで含めた公が入ってきた。だからこそ、なんらかの活動を始めるのではないか? と疑ったに違いない。


「坂井さん、ちょっと短絡的すぎるよ。

 確かに俺はいろいろなことを考えるようになった。だけど、まだまだ自分の立ち位置を決められるほど学べているわけじゃない。知ったかぶりをするつもりもない。だから、今はどんな意味の権力とでも、ことを構えるつもりは全然ないよ。

 それに今の俺は、反骨ってのは2つあると思っているから」

「一先ずは安心した。で、2つとは?」

 恵茉の眼の光は、まだ疑いを解ききってはいないことを示している。


「うん。戦うばかりが反骨じゃない。だから、戦うのが1つ、戦わないのが1つ」

「戦わない反骨って?」

 恵茉は鸚鵡返しに聞き返してきた。

 その横を観光客の群れが通り過ぎていき、2人は顔に笑みを貼り付けて黙り込む。


 再び周囲に人がいなくなったのを確認し、小桜は口を開いた。

「正確には、『今』戦わない反骨かな。そのシステムの中に入って、30年かけてそれを乗っ取るのは、青臭い『反抗』なんて言葉じゃ済まない。それこそ反骨だろうと思う」

「でも、30年先じゃ、今の問題は解決しないよ」

「解決するよ」

「小桜さんの言いたいことが、私、わからない」

 恵茉はそう聞き返してくる。


 おそらくは、恵茉は恵茉なりに共学化への対抗手段を考えていて、煮詰まってしまっているのだろう。だからこそ、過激な手段を小桜が取るかもなんて疑いも抱いたのだ。


「すっごく簡単なことだよ。30年以上前から、反骨で組織を変えようと決めた先輩があちこちにいるじゃないか。それからも、毎年毎年、そういう先輩は一定数いたはずだ。所属する組織に飲み込まれていたら、トップなんか張れないし。

 現に、その人たちがいるからこそ、今回だって情報は漏れてきている。だから、その人たちを敵に回さず味方にして、OB含めた群れとして戦う。

 これ、ウチの生徒会長が言っていたことなんだけど、その意味、ようやくわかったよ。OBが在籍している組織と戦うんじゃなく、OBがその組織内部で動きやすくなるように仕掛けを作るんだ。生徒会長は政木高の職員室を例にしたけどそこだけの話じゃない。そうすれば、どんな巨大なシステムでも威信は失墜する。いや、違うな。やり方次第で、威信を失墜させなくても方向転換をさせられるな」

「言いたいことはわかるけど……」

 恵茉の反応は煮えきらない。

 頭の中で、手段が具体的なものとして見えていないのだろう。


「だから、『反骨』で話が横にそれちゃったけど、桜田門外の変だよ。

 城の『外』で起きた事件が切っ掛けで、無血開城という結論になっているじゃないか。俺もまだ、具体的な作戦があるわけじゃない。でも、その組織と直接戦うのではなくても連鎖は起きる。起こせるんだ」

 小桜は言い足す。

「?」

 だが、恵茉は無言で小桜を見返した。


 ※

 まだ小桜も思いつきで話しているんだな。

 でも、具体的な肉付けができれば、現代でも使える温和な戦術となるかもしれない。

 そのあたり、さらに考えなきゃならないんだけど、それ以前にデートの戦術はどうするんだ、小桜。

 次話、「東京散策4」に続くぞ。少しは良い思いもするんだ、小桜。

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