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植物使いの百鬼夜行  作者: らいお
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女騎士との出会い②

 アレスにとってジャイアントウルフは特に害の無い動物程度だ。そんなもの、一捻りなのは当然だろう。


「おい、人間」

「は、はいっ⁉」


 アレスの威圧的な物言いに隊長らしき人物は脚を震わせながら答える。

 それも当然、今のアレスは人間では腰を抜かしてしまうほどの魔力を発している。おっかなびっくりではありつつも引くことなく返答できた隊長はそれなりの実力者なのだろう。


「貴様らはむやみやたらと火属性魔法を使った事でこの森を燃やした。この後始末、どうするつもりだ」

「そ、それは……即座に消化をっ! メリダっ! 水魔法で火を消すんだっ! 他の者もメリダを手伝え!」


 メリダと呼ばれた杖持ちの兵士は必死に首を縦に振り、他の兵士と共にそそくさと消火活動に向かった。


「……それでだ」

「はい、何でしょう、か……」

「貴様らは何故この森にいる。普段人間はこの森には近づかないはずだが」


 魔植の森には普段人間は近づかない。

 魔物が多く、そして魔植と呼ばれる魔物化した植物が群生しているからだ。そのような危険な地へと好き好んで足を踏み入れる者など変わり者か死にたがりくらいだろう。

 そんな状態が続いている魔植の森にこの兵士達は来たのだ。それをアレスが不思議に思わないはずがない。


「わ、私はここ魔植の森より南に位置するフォレスティエ王国の騎士、アーデルハイト=フォン=フォレスティエと申します」


 アーデルハイトは片膝を付き、アレスに名乗る。

 アレスはそれを聞き、続きを促すように顎で指す。


「フォレスティエ王国は現在領土拡大を計画しています。こ、これは食料の確保、財源の確保を主な目的としています」

「そのフォレスティエ王国とやらは食料の確保が必要なほど貧しい国だと?」

「……いえ、申し訳ございません。建前でございます。本来は領土を広げ、最終的には大陸統一を目的としています。今回は誰も足を踏み入れないと言われている魔植の森がどのような場所であるかの先行視察でした」

「視察の内容は?」

「食料の有無と現存生物調査です。その調査過程で先程のジャイアントウルフと遭遇したといった次第です」


 アーデルハイト達は魔植の森に入り二日、魔物と戦闘しつつ現存生物の力量を調査しつつ、群生植物の調査を進めていた。

 森の入り口付近の魔物はそこまで強いことは無く、小隊程度であれば苦戦することも無く倒すことが出来ていた。故に兵士達は驕り昂っていた。この森の魔物は脅威になりえないと、我らであればこの先行視察は余裕であると。

 そんな中でジャイアントウルフに遭遇した。驕り昂り慢心している兵士達は倒せるとでも思ったのだろう。

 アーデルハイトは撤退する事も考えていたが兵士達の強気に圧され、戦う選択をしてしまった。アーデルハイトもどこかで慢心している部分があったのだろう。


「それで大敗した、と」

「……はい、仰る通りです。これは私の慢心が招いた結果です。火属性魔法の使用もそうです。勝てず、焦り、メリダが最も得意とする火属性魔法の使用を指示しました。その結果山火事を――」


 言葉は途中で止まった。空から季節外れの雪が降っているからだ。

 本来この季節では降るはずの無い雪。ではそれが何故降っているのか? ――簡単な事だ。高位の氷属性魔法の影響だ。


『アレス、鎮火したよー!』

「おつかれ、フェル。被害はどんな具合だ?」


 フェルがアレスの顔前まで飛んできて報告してくる。


『ここから範囲二十メートルくらいが燃えたくらいかな。戦闘があった中心部は炭になっちゃってるからどうしようもないけど、端の方は木々が頑張ってくれるって!』

「そうか、分かった。炭化した部分は今度俺が治しておくよ」


 報告を済ますとフェルはアレスのバッグへと隠れる。

 たまに頭を出してアーデルハイトを見ているのは、人間に興味はあるがまだ警戒心のほうが勝っているということだろう。


「そ、それは妖精ですか……?」


 アーデルハイトは珍しものでも見るかのようにフェルを見つめる。本来妖精は人間の前に姿を現さない種族なので当然の反応だ。


「アーデルハイト様! 突然雪が降りだして……それにより火は鎮火しました。この魔法は……」

「これは、その妖精が?」

「そうだ、フェルの魔法によるものだ。貴様らでは時間が掛かりすぎるからフェルに頼んだ」


 困惑する騎士達をよそに、フェルはバッグの中でドヤ顔をしている。


「さて、鎮火した事だし……貴様らはこの炭化した木々をどのように責任を取るつもりだ? このまま帰るわけではないだろう?」

「それは……」


 アーデルハイトは黙ってしまう。

 彼女らに木々を再生させることは不可能。そもそも彼女らの認識に於いてこの魔植の森は不毛地帯であり、誰にも管理されていない土地だ。責任問題以前の問題であった。


「……おい、女騎士」

「は、はいっ!」

「貴様はこの小隊の責任者で間違いないな」

「はいっ、私、アーデルハイト=フォン=フォレスティエが――」

「小賢しい。はい、いいえで済む問答を長ったらしく言うな」


 アーデルハイトはアレスに途中で言葉を遮られてしまったせいか、若干納得のいっていないような表情を浮かべる。


「貴様にはこの森の統括者である母上に会ってもらう必要がある。ついてこい」


 アレスはそう言うと踵を返し、森の奥地へと向かい歩き出す。


「ついてこいと申されましても……私以外の兵士は……」

「いらん。貴様だけで十分だ」

「っ! ……メリダ! 全員の傷を癒した後森を抜けろ。これは隊長命令だ」


 アーデルハイトは少しの間逡巡するとメリダに向け命令する。

 アーデルハイトにはアレスについて行かない選択肢は無い。従わなければジャイアントウルフ同様に絞め殺されると考えたからだ。幸い兵士達は不要との事なので、生きてこの森から帰還する選択を瞬時に行った。もちろん傷と疲労を癒すためにこの場に待機させる命令もよぎった。しかしながらアーデルハイトが再び戻れる確証は無い。それを踏まえての帰還命令だ。


「ですが、それではアーデルハイト様がっ!」

「分かっている! だがこれ以外に選択の余地は無いのだ! ……これよりメリダ=イーストフェルトを部隊長に任命する。隊員の傷を癒し、この森から脱出せよ!」

「っ! ……承知しました……アーデルハイト様、ご武運を……っ!」


 メリダは涙を堪えながら敬礼をする。

 アーデルハイトもメリダ達に敬礼し、アレスを追うように森の奥地に向かい歩み出す。


「行くぞ、女騎士」

「……分かりました」


 アレスとアーデルハイトは生い茂る草木の中へと歩き出し、騎士達の前から姿を消した。

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