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誰とも付き合わない美少女に一途に告白を続けていれば好かれていた件  作者: ときたま@黒聖女様


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第20話

 放課後、図書室に行く約束をして居た一心は授業が終わると同時に荷物を纏めて教室を飛び出した。

 夜鶴に会える喜び。夜鶴の役に立ちたい気持ちが足を軽くしてくれる。


 スキップしながら一心が図書室に到着すればまだ鍵は閉まっていて誰もいなかった。

 図書室の鍵は図書委員が取りに行くのだろうか。それとも、空けるのは先生が行うのだろうか。

 この前、図書室で眠ってしまった時は夜鶴と一緒に職員室まで返却に行ったが開ける時は知らない。


「待っていればその内、誰かしら来るだろ」


 腕を組んで一心は背中を壁に預けながら鍵を開けに来てくれる誰かを待つ。

 図書室は各クラスの教室からは離れた場所にあり、人はあまり寄ってこない。少し肌寒い廊下で待つこと数分。廊下を歩く靴音が聞こえてきて一心は夜鶴だと顔を綻ばせながら足音のする方を見る。


 しかし、足音の主は夜鶴ではなかった。先生でもなかった。

 長い暗めの髪が特徴の女の子。眼鏡をかけていて、胸の前で本を両手で抱えている。大事そうに。


 夜鶴だと思い込んでいたせいでめちゃくちゃ綻ばせた顔を向けてしまったが、相手は夜鶴とは似ても似つかない女の子で一心は恥ずかしくなって急いで顔を伏せた。

 会えることに大喜びしている姿を該当しない相手に向けて、しっかりと見られてしまった。かなり気まずい。

 女の子はまだ図書室が開いていないのを確認すると一心と少しだけ距離を開けて隣に並んだ。


 隣に並ぶ女の子に一心は正面でもいいだろう、と気まずくなっているので顔を見られないようにそっぽを向く。

 それから、無言の沈黙のまま待つことが続き、沈黙を破ったのは女の子の方だった。


「……あの、本がお好きなんですか?」

「え?」

「図書室が開く前から待たれているので本がお好きなのかな、と思いまして」


 いつの間にか、女の子は真横まで距離を詰めてきていて、一心は驚いた。

 眼鏡と長い前髪のせいで瞳は見えない。

 けれど、地味目な印象だが肌は白く、なんとなく可愛いんだろうな、という印象を一心は抱いた。


「ああ、いや。本はあんまり」

「ええ。それは、勿体ないですよ」

「そんなに?」

「そんなにです。本は素晴らしいです。物語の世界に没入すればありとあらゆる体験が出来ます。生きていて、一生経験出来ないような大冒険なんて最高ですよ!」

「へえ。それは、凄い」


 あんまり熱く語られても一心は興味が沸かない。

 それよりも、女の子はどの学年のどのクラスだろうかと考える。同じクラスでは見掛けたことがないのは確かだ。

 だが、仮に女の子が先輩だとしたら一心も敬語で話さないと失礼にあたると必死に考える。


「あの~、差し支えなければ何年生か聞いても――」

「――へー、ナンパしてるんだ?」


 突如、一心の大好きな声が聞こえ、一心は驚いて今しがた話していた女の子の奥へと目を向けた。

 そこには、冷めた眼差しを向ける夜鶴が立っていた。


「あ、旭。違うよ。これは、あの子が先輩だったら敬語を使わないと失礼だなって思ったから聞いただけで」


 一心はすぐに夜鶴の元へと駆け寄って詳しく説明する。一心にはなんの下心がなくとも夜鶴に疑われてしまえばそれまでだ。浮気する男に夜鶴が好意を抱くとも思わない。

 そうならないためにも一心は必死で弁明を行う。


「必死に言い訳するとなおさらそれっぽく聞こえるよ」

「じゃあ、もう何も言わないから俺を信じて」

「はいはい。ちょっと、日野のことからかっただけだよ。日野が好きなのは私。分かってるから。もちろん、浮気とかしないことも」

「旭……大好きだ!」

「人前で言わないで。恥ずかしい」


 夜鶴がよく理解してくれていることに感動してつい思いの丈を叫んでしまう一心は夜鶴にチョップをされた。


「それより、待たせてごめんね。鍵を取りに行くのに時間かかっちゃって」


 そうか、と図書室の扉を解錠する夜鶴の後ろ姿を眺めながら一心は選択を誤ったことを悟った。

 誰が鍵を持ってくるか分からないにしろ、一心は図書室で待つのではなく、夜鶴を迎えに行かなければならなかった。

 そうすれば、夜鶴の代わりに鍵を職員室まで取りに行って夜鶴を楽させてあげられたというのに。


「そこのあなたも。遅くなってごめんなさいね」

「いいえ。そんなことありませんよ。ありがとうございます」


 図書室が解錠され、一心は中に入る。

 夜鶴はいつもの定位置に座って、早速本を読み始めた。

 中には一心と夜鶴。それから、学年も名前も知らない女の子。夜鶴と二人きりならばお喋りしていられるがそういう訳にもいかず、一心は夜鶴に一番近い椅子に腰を下ろした。


 肘を机につき、手のひらには頬を乗せてぼんやりと夜鶴を眺める。

 相変わらず、本を読んでいるだけで大した動きは何もしていないのに絵になる夜鶴に一心は視線を惹き付けられる。何度見たって、何時間見ていたって飽きやしない。


 ガタッと椅子を引く音がして、視線を向ければ先程の女の子が一心のすぐ隣に座っていた。

 広い図書室にはここ以外にも多くの座れる場所がある。なのに、どうしてわざわざ隣に座るのだろうか、と一心は思考を巡らせても答えは浮かんでこない。


「……あのー、他にも席はいっぱいありますよ?」

「そうですね。でも、まだ質問に答えていなかったのでこちらに座らせてもらいました」

「質問?」

「はい。私が何年生か気になっていたでしょう?」


 夜鶴と会えたことで頭の中が夜鶴一色になり、すっかり忘れていたがそんなこと聞いていたなと一心は思い出す。

 でも、正直、もうどうでもよかった。

 あの時は失礼に当たらないように、と聞いてみたが今となっては興味のないことだ。女の子が同級生だろうと先輩だろうともう話すこともない。


「私は日野くんと同じ、一年生ですよ。だから、敬語を使わなくて堂々とため口でお話ししてください」

「ああ、そうなんだ……って、どうして俺の名前を?」

「それはですね――」


 同級生でも、一度も話したことのない女の子。一心が夜鶴の名前を知ろうとしたようにこの女の子も一心の友達にジャムパンを貢いで知ったのだろうか。

 いいやまさかな、と一心は自分で自分を鼻で笑い飛ばす。


 一心の友達といえば、光流しかいない。

 この女の子は敬語を使うので光流はさぞかし気に入ってジャムパンなんて貢がずに名前を教えそうだが、一心は自分が知りたいと思われるような存在とは思えない。

 この高校に来てまだ数ヶ月。

 一時は人気になった一心ではあるが、それも束の間だ。他クラスの知り合いは夜鶴や木陰、光流だけで他にはいない。目立って人気になるような行動もしていない。

 そう考えればこの女の子はどうして名前を知っているのだろう、と本気で分からない。


 その答えを教えてもらえる。

 まさに、その瞬間のことだ。んん、とわざとらしい咳払いをして夜鶴が本を閉じた。


「図書室ではお静かに」


 短く言って、夜鶴は再び本を読み始めた。


「怒られてしまいましたね」


 女の子はクスリと笑って本を開いた。

 そのまま、読書に夢中になる女の子からは結局、どうして名前を知られているのか一心は分からなかった。

お読みくださりありがとうございます。

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