その心臓はきっと桃の味
最後まで読んでもらえるとありがたいです。
最初に言っておくとメリバどころか誰も幸せになっていないのでただのバッドエンドです。読むときは気を付けてね。
残酷描写についてタグをつけるか迷ったんですが、私本人は直接的な表現は避けたんですけど、一応つけることにしました。基本は誰でも読めるように配慮したつもりです。
「カレーに桃スムージーってさおいしい?」
そういわれて私は思わず固まってしまった。たぶん、普通に返せばよかったのに思わず、「え?」
とだけ返してしまった。
「カレーの飲み物って普通、水じゃない?私、桃ってあんま好きじゃないんだよねぇ・・・」
彼女が何か言ってる間、心臓の音の方が大きくなって何も聞こえなくなっていく、目の前のなにか口を動かしてる姿が見えるのに、真っ白って気がして、音がどんどんなくなっていった。そっかそんなこと考えたことなかった、私は単純にここのカレーも、桃スムージーも好きだからってだけで頼んでた。この組み合わせっておかしいんだな。そう思って頭の中でルールを追加する、何か食べるときは自分が好きなものじゃなくて、正しい組み合わせの物を頼む。
「あれ?、聞いてる」
「う?あぁ聞いてる、聞いてるよ?」
「それでさ、今夜、学校のホールでピザパーティーがあるらしいんだけど、この後一緒に行かない?なんかとなりのチェーンでいろいろ頼むらしいよ?」
「いえ、私は今夜予定があるから、いけないかな、ごめんね」
「そっかぁ」
と半ばがっかりしたようにルイさんはランチを食べだした。私もさっさと食べ終えて次の教室にむかおう。カレーを半ば無理やり口の中に押し込んでわたしは一気に桃のスムージーを喉に流し込んだ。
「じゃぁまたね」
「うん」
と適当に挨拶を済ませて、わたしは次の授業の教室に向かった。次はきをつけなきゃ
やっと、今日の授業全部終わった、息を吐いて、軽く腕を頭にのせる、別にどうにかなるとかそういうわけじゃないけどかい解放された気がする。今日も生き残れた、そう思いながら自分の家に向かう、お昼ご飯を食べるときと同じルートを通っているけど、その時より早く軽い気持ちで通る。今日ようやく帰れるっていうのもあるけど、今日はもう一つ楽しみなことがある。
待ち合わせの場所は広場、周りを見ると私と同じようにパラソルがついたテーブルの席についている、ある人は携帯を見ていて、ある人は知覚のお店で買ったと思う、サンドイッチを食べてる。私はというと・・・。とりあえず画像投稿アプリを眺めているけど、さっきから胸がどきどきしてお気に入りの項目の写真を眺めているはずなのに、頭に入ってこない。
「ごめん、待った?」
紺色のワイシャツを着たケンくんが細い目をさらに細めて言う。
「ううん、さっき来たとこだよ」
本当は早く来すぎて10分ぐらい待ったことは黙っていよう。
「あれ?そのイヤリングつけてくれたんだ。」
「あ、うん、この間ケンくん買ってもらったのが嬉しくて今日つけてみた、似合うかな?」
「うん・・・。似合ってるよ」
「よかった!せっかくもらったんだからおしゃれにつけたくて、似たようなイヤリングのコーディネート検索したんだ!」
「わざわざ検索してくれたの?そっか、結構うれしい。」
そう言って彼の少しぎこちない笑顔に私も自然と笑顔になる、あってから片手で収まるぐらいの秒数しか一緒にいないけど、すっごく楽しい。
「じゃあ、そろそろ上映時間も近いし向かうか?」
「うん」
私たちはさっきまで座っていたパラソルを後にして、映画館がある方に向かう、空がだんだん暗くなっていく中、ぱっと町中の至るとこにライトがともる、ライトに照らされながら、隣にいるケンくんの手をなんとなく触ろうとして、自分の手を戻す、私の動作に気づいたケンくんは戻そうとしていた私の手をぱっと取って手をつなぐ、びっくりした私は、彼の顔を見上げた、彼はというと、まるで何もなかったかのように黙々と歩いていた、そんなことをしていると、目的地のモールについた、エレベーターに乗って5階二の部屋に入ると、ほかの階より一気に暗くなったチケット売り場につくとすぐにチケットマシーンに向かって操作する。
「それにしても、まさか映画化するなんて思わなかったよね,「HUNTERS」二期放送だと思ったらまさかの映画化だなんて、しかも10年後に」
「そうだね、まぁあの作品放送時点できれいに完結してたからだとは思うけど。」
「私は十年たってお芝居がうまくなった桜井さんが演じる、陰陽師めっちゃ楽しみ」
「たしかに、俺はやっぱり音楽かなぁ、一期のオープニングの曲よかったしなぁ」
これから見る映画について語りながら、さっさと座席とお会計をすましてから、ケンくんはポップコーンを頼みに行った、その間私は、目の前のスクリーンに流されてる、近々公開する映画の予告編をぼんやり見たり、買う気もないのにグッズショップを見ていた。今から見る映画のグッズを眺めていると、ケンくんがポップコーンとドリンクをもってこっちに来た。
「何か欲しいものあるの。」
「ううんただ、どんなグッズが出てるかなぁと思って。」
そうしていると、シアターが入れるようになったので、意気揚々と入る。
「すっごく良かった。めちゃくちゃ泣けた、やっぱり悲しかった・・・。ううぅ」
「泣いてるなぁ、たしかに面白かったねぇ、まさかあんなに加害者がいたとは、結構胸糞な話だったね」」
モールの入り口でまずは簡単に感想を言い合う。私は涙でぐちゃぐちゃになった顔をハンカチで整える。映画が終わっても、登場人物たちのその後を考える、間違いない、いい映画だ。
「もう8時かぁ、店が閉まる前に飯、食いに行く?」
「うん・・・。」
まだ涙が出てるとはいえ、ある程度整えたので、手をつないで食べるところを二人で探し始めた。特に食べたいものがなくて、どこ行こう、あそこ行こうと、探し回った結果、結局私がお昼カレーを食べたレストラン、ペネロペに入ることになった。
「あの、踊ってる場面、作画がよかったね、あんな表現するなんて、おれ、すごいと思う」
「だよね、放送してた時から作画がよかったけど、劇場版になってもっと作画よかったね。」
引き続きさっき見た映画の感想を話しながら、ペネロペに入る
。お昼に食べたものを同じカレーを頼んでから、飲み物を頼もうとして一瞬固まる。そっか、カレーに桃のスムージーっておかしいんだっけ・・・。
「あれ?桃スムージー頼まないの?えりちゃんってここの桃スムージー好きだったよね?」一瞬、びっくりして頭がフリーズする。
「あ、うん、あとこの桃スムージーお願いします」
そうなんだ、いいんだ、彼は私が何を食べて、何を飲んでも気にしないんだ。そっか。そっか。席に座って、さっき頼んだものをケンくんと食べる、その間も映画の感想を言ったり、最近気に入った物を話しながら、食べる。昼間はあんまりしゃべったりせず黙々と食べていた。だけど、今はこんなにしゃべりながら食べてるのにとてもおいしい。食べ終わった後、お店をでたあと、彼は私を家まで送ってくれた、道が自分が住んでいる家に近づいてくればくるほど、なんだか切ない気持ちになる。玄関前で挨拶が終わって離れるとき思わず、手を話すのをためらってしまった。夜、ベッドに潜って天井を眺めるとき、明日、また学校に行くんだなぁと思ったら、いつものように胸がちょっとだけ痛くなった。
目の前の天井がうっすら明るくなっていたから今が早朝だっていうことに気づいた。携帯を見ると朝の6時だ。頭の中で出かけるまでにするべきルーティーンを丁寧に思い浮かぶ。それが3週目に入った時急に嫌になった。これから学校か、もっと寝たいもっと寝たい。結局授業に間に合うぎりぎりの時間まで寝て慌てて教室に向かった。こうやってぎりぎりまで練る方がしんどいって毎回学んでるのに、毎回同じことを繰り返してしまう。8時に始まる授業に備えて、まだぼんやりとしている頭で適当な席に座る。教室に教授が入って、授業が終わったころにはもうすでに帰りたいなぁとぼんやり思った。
次の授業に向かってる途中、声をかけられた。
「えりちゃんおつかれー」
Tシャツにジーンズというラフな格好のじゅりちゃんが手を振りながら笑顔で声をかけてきた。同じ年に入学してきた時から仲良くしてくれる数少ない友達だ。
「あ、おつかれ、じゅりちゃん」
「そうだえりちゃん、今日さコフレでお茶しない?今日から桃の季節限定のケーキでるみたいだよ?一緒に食べない?」
桃かぁ、桃のケーキ、しかも限定品だったら、食べたい、めっちゃ食べたいだから即答した。
「え、行くいく」
「じゃぁお昼にまたね」
「うんまたね」
お昼か、まだあと3コマぐらいあるけどケーキのために頑張るか。ついさっき出来たささやかな楽しみを胸に次の教室にむかった。
お昼、じゅりちゃんとコフレに向かうと、カフェはいろんな世代の女子たちでほとんど席がなかった。みんな思い思いにしゃべっているから店の中の雰囲気は少し騒がしい。こんなに雑音が多い中でも構わずしゃべってるとこを見ると、女の子ってすごいなぁってぼんやり思う。まぁ私も女だけど。
桃のケーキがのこっているか心配だったけどぎりぎり残っていた。私はパッと目に入った桃のタルトとアイスミルクティーを注文して、やっとの思いで席に着いた。
「最近、どうなの?げんきぃ?」
ケーキとドリンクが来た頃、じゅりちゃんが話しかけてきた。
「元気っていうか、まぁいつも通りって感じかなぁ」
一口タルトを食べてから私は答える、それにしてもおいしい、紅茶と桃のタルトみたいだなぁ。
「そっかそっか、あ、おいし、いやぁ、なんか楽しいこととかした?」
じゅりちゃんもケーキを一口、二口と食べながら話し続ける。私は口の中にあるケーキを飲みこんでから答えた。
「あぁそうだ昨日ケンくんと映画見に行ったよ。」
「へえめっちゃいいじゃん!どんな映画見たの?」
「うーんなんて言ったらいいかな?アニメの映画なんだけど、10年前に放送してたアニメの続編が今年映画で公開してたの!!なにがちかいかなぁ推理っぽいとこもあるし、ホラーっぽいとこもあるし、うまく説明できないけどそんな感じ。」
「へぇすごい面白そう、推理小説みたいな感じかな?」
「ちょっと違うかな。なんか妖怪が出てくるんだけど、どうしてその妖怪が人を襲うか、みたいなのを解いていく感じ」
私が、そう言ってミルクティーを飲んでる間、彼女はなんとなくちょっと笑顔になった気がした。
「ていうか、ケンくんと一緒に行ったんだね。」
「うん、そうだよ、二人とも観たかった映画だったし」
「1ヶ月前なんか、けっこう喧嘩したって言ってたから心配してたんだよねぇ」
「あぁ、あれね、あれは私のわがままだったから、反省してるよ。あの時はありがとう、そして申し訳ない。」
「いやいや、二人が、仲良さそうでよかったよ、私も二人のやり取り見るの好きだから、別れて欲しくないよね」
「そう言ってもらえてうれしい。そういうじゅりちゃんはノア君とはどうなの?」
「あぁ、私たちはねぇまぁいつも通りかなぁ特にいいも悪いもないって感じ」
「まぁもう2年以上持ってるよね二人。あ、そういえば年末に旅行行ってたよね写真見せて見せて!」
そういうとしゅりちゃんはスマホの画面を私に見せてくれた。いろんな場所で二人は笑顔な写真がずらっと並ぶ。私たちはまだ一緒に旅行に行ったことがない。いいなぁ
「いいなぁ私たちも行きたいなぁ」
「え、行ったことないの、この前の年末誘ったんだけどね、普通に断られて、喧嘩したよね」
「えぇ年末くらい一緒にいたらいいのに。」
「うーんでも忙しかったみたい出し仕方ないよね、別の友達と行く予定がすでにあったみたいだから、私もそこで張り合わないない方が平和だった。」
「えりちゃんは偉いよ」
あきれともとれる顔でじゅりちゃんは引き続きケーキを食べる。私も彼女に続いてタルトとミルクティーを飲む、話しながらあの日、私が食い下がってさらにもめたことへの後悔や、少し悲しい気持ちがこみあげてくる。別にあの時断られたからって、彼が私を嫌いになったとかそういうわけじゃないのに。でもいつかまたじゅりちゃんみたいに二人で旅行できたらいいなって思ってる。
「偉い・・・のかな、私はこんなことで怒る私がいけないんじゃないんかなぁって思っちゃっちゃうんだけど。」
そのとき、じゅりちゃんの顔が一瞬真顔になった気がした、なんとなく怖くなって慌てて
「いや、でも昨日一緒に映画見に行ったばっかりだし、今はいい感じだよ。」
「そっかそっか」
そういいながら、またケーキを食べすすめる、さっきちょっと変なこと言っちゃったかな?
「そういえばさ、もうすぐ学祭だけど、じゅりちゃんステージ発表会出るんでしょ?」
「でるでる、劇やるよ、今週、衣装ができたんだ、明日も夕方から練習する。」
「そうなんだ、本番何時からだっけ?」
「えーとねぇたしか6時からだったと思う、うろ覚えだから改めてメッセージで連絡するね、けんくんと一緒に来てよ」
「行く、行く」
そうしてしばらく、ステージ発表の話をした後、私たちはコフレを後にした。じゅりちゃんと別れてからも次の授業まで時間があるので、なんとなくベンチでのんびりしていた。体はのんびりしていたけど、頭の中はいろんな情報がぐるぐるしていた。さっき間違ってつい本音っぽいこと言ってじゅりちゃんを困らせちゃったなぁとかとかステージ発表、けんくん一緒に来てくれるのかなとか。ぐるぐる考えてしまう。考えても仕方なくて、考えれば考えるど不安で胸が苦しくなってしまうことも分かってる。だけどどうしても考えてしまう自分が、本当に嫌になる。
「あのタルトがおいしかったってことだけ考えたらいいのにね、ほんとにね」
と独り言をいう誰も聞いてなかったらいいけど。
あ、そうだけんくんを学祭に誘おう
”けんくんあのさ、じゅりちゃんが学祭でステージ発表に出るんだって。一緒に行かない?”
“ え、学祭っていつだっけ?”
”あぁえっと再来週の土曜日だったけど、そういえば時間後から連絡くれるって言ってた。連絡がきたらまた連絡するね。”
ここで止まった、まぁよくあることだ。そういえばさっきつぶやきアプリ見かけたとき面白い投稿があるから、リンク送っておこう。そうしていると時間になったので。次の授業に向かった。
じゅりちゃんとお茶した日、夜8時ごろに当日のプログラムの画像が送られてきた。彼女が覚えていた通り劇は6時始まるみたいだった。私はすぐにけんくんに連絡して時間を伝えた。その日は一緒に行こうって言っていて。学校でもたまたま会ってしゃべった時も劇の話をした。でもだんだん学祭の日が近づくにつれてメッセージの内容はだんだん不穏になっていった。なんか彼の重めのレポートが出たみたいで、日に日に行けるか分からないっていう返事が多くなった。そうして結局、彼が来るのか来ないのか分からないうちちに学祭の日が来た。私は昨日から半ばあきらめてる、レポートの内容を聞いたけど、私でもあの内容と寮の宿題が出てたらいくのやめてる。もうすぐ公演まで30分前これは来ないな。心の中のもやもやを抱えながらステージ発表の現場に行く。いちおうじゅりちゃんと約束したし、行かないわけにもいかない。中に入って適当に座る、舞台の内容は、ファンタジーで怪物を倒す話、でももやもやした気持ちが邪魔をして全然話が入ってこない。舞台は大成功で、私の周りの人が立ち上がって拍手をしている間、私は座ってぼーっと舞台を見ていた。あ、じゅりちゃん似合いに行かなきゃ。ロビーに出ると出演者のみんながお客さんと話していたそこにはもちろんじゅりちゃんがいた。
「じゅりちゃ・・・。」
と声をかけかけたときだった、じゅりちゃんが急に走りだした、その先にいたのはノア君だった。彼女は勢いよく彼に抱き着いていた、その瞬間、私の顔が急に熱くなった、目頭が熱くなってそこでようやく、私は涙をこらえてることを気づいた。おかしい。どうして、じゅりちゃんと私って同じ誰かの彼女なのに、どうして私の隣にはその誰かがいないんだろう。
自分が今どんな顔をしているのか全然分からない、でもきっといまのじゅりちゃんにみせていい顔じゃない。そう思って私は、人目を避けて外に出た。
”ねえやっぱり今日一緒に学祭行くの無理かな?まだ終わるまで時間があるし”
”え、でもじゅりさんの劇って終わったよね?”
”うんでも、やっぱり会いたいなって思って。まだほかにもステージ発表あるし”
”だけどまだ途中だし終わる気がしないんだよ。”
いつもだったらここで諦めてもうメッセージを終わらせた。だけど今はただ悲しくてでもどうしても恋しくて。こんなに苦しさの原因は彼なのに、彼が来てくれないと解決しない気がして私は食い下がった。
”いま無理でもいいよ、いつまでも待つから”
”え・・・。でも、もう間に合わないと思うから、危ないし帰りなよ”
”ほんとは私も学祭とかどうでもいいの、ただ会いたいだけなの。私たち彼氏、彼女なのにいてほしい時にいないのが悲しいだけなの。”
そこまで送ったらしばらく返信が返ってこなかった。嫌な予感がする、どうしよう続き読みたくない。
私は家に向かう、途中で何回か通知の音がするでも怖くて見たくない、でも見てちゃんと返さなくちゃ。でも、でも。
お風呂を済ませてベッドに寝転ぶ、意を決してスマートフォンをみる。
あぁやっぱり、見なきゃよかった。
”俺じゃぁえりちゃんの望みをかなえてあげられないよ。それどころかどんどんえりちゃん苦しくなってるじゃん。”
”ここ最近も、何か話すときも俺が興味ありそうな話題をわざわざ選んでるでしょ?おれはえりちゃんがしっかり意見を言うところが好きなのに、なんだか俺と付き合ってからどんどんそういうのも言わなくなったじゃん。”
”でもそれも俺がそういう風にしてるんだって思うとつらいよ、だから別れよう。えりちゃんは俺と一緒にいたらいけない気がする”
見なきゃよかった。見た瞬間全身の血液がさーっと下に流れていく感じがした。どうしよう、もうダメかもしれない。一つの人間関係を終わらせたい、気っとそれだけの意味しかないはずだけどまるで私の人生が終わってしまったように感じて目の前が真っ暗になった。
分かっていた、私たちの関係がどんどん窮屈になっていったし、最近は拒絶されるのが怖くて話題を選んでいたし、なにか不満があっても出来るだけ笑ってただからある意味彼が描いていたことは図星だった。だけどどんなに前より窮屈になっても、自分の心が擦り切れていてっておかしくなってもいいから、彼と一緒にいると感じられる「息が出来る場所」を守りたかった、自分が擦り切れていくことより、彼がいなくなった後を生きていくのがもう嫌だった。これってきっと依存しているんだと思うきっと私にもよくないだけど彼がいなければとか、こんなにはっきりと拒絶されてるのに一緒にいたいという考えをやめられない自分につくづく嫌気がさす。
次の日起きた後しばらくメッセージで説得していたありきたりな”もうすこし考えてほしい”とか”それでも一緒にいたい”とかそんなこと。だけど彼の”えりちゃんが告白したとき、俺は断ればよかったね”っという書き込みを最後に、トーク履歴を消した。
もうお昼今日受けた講義の内容なんか覚えていない。ふらふらと入ったハンバーガーショップで目の前に出されたハンバーガーを見つめる。なんでこれを頼んだのかとか本当は何が食べたかったのかよくわからない。こういう時よく思う、こんなに胸が苦しくて深海にいるみたいに息が出来ないのにどうして体は元気なんだろう。外なんか出ずに眠っていたい、無理して笑顔を作らず人としゃべりたくないのに。体が元気なせいで外に出なきゃいけない、それにもし彼が私の体調が悪いって知れば私のことを考えてくれるのだろうか。そんな意味のないことばかり頭の中でぐるぐる回ってるまた悪い癖が出てる。
「あら、いただかないのですか?」
前の方から急に声が聞こえた。足音も、椅子を引く音もなく急に声が・・・。
慌てて前を見ると、そこにはおもちゃみたいな男が座っていた、年齢もよくわからない白髪に不思議な紋章のついた銀縁眼鏡にはメガネチェーンがついていた。ひときわ目を引くのは彼の服装で、彼は上下明るいグリーンのスーツと同じ色のシルクハットをかぶっていた。
「どうもお初にお目にかかります、わたくしのことはそうですねぇ・・ミスターパトリックとでもお呼びください。そしてあなたは?」
「えり・・・。」
あまりにも意味が分からな過ぎて素直に答えてしまう。今目の前にいる人は現実なの?それとも私白昼夢見てる?
「えりさん、素敵なお名前ですね。席がなかなか見つからなかったので勝手に座らせていただきました。」
周りをみまわしたけど、さっきまでそこそこ席が空いていたはずの店内は確かに彼の言う通り、人でいっぱいになっていた、なんだか変な感じがする人のようなひとじゃないような。
「それはそうとしてそのハンバーガーいただかないんですか?早く食べ始めないと覚めてしまいますよ?」
「あ、はい」
包み紙を半分開けてハンバーガーを食べ始めた久しぶりに食べたハンバーガーは自分が思っていたよりかけっこうおいしかった。それからミスターパトリックは私に、いろんな人の悩みを解決したみたいな感じの話をし始めた。仕事をやめたがってる人の背中を押したとか、ダイエットのアドバイスして痩せさせたことがあるとかそういう感じの話。でもなんとなくその話だいたい嘘なんだろうなぁって思いながら聞いていた。
「あとは、恋の悩みとかよく聞きますねぇ、みなさんよく恋愛で悩むんですね。この前は復縁の悩みの話も聞きましたかねぇ」
「復縁?そんなことも出来るんですか?」
一瞬ミスターパトリックの目が光った気がした。
「えぇむしろ永遠に結びつけることも出来ますよ、こちらを飲めばね」
そう言って取り出したのは赤い液体が入った小瓶だった、なんだか気味が悪い。
「こちらを飲んで’本能’に従えばあなたの願いはきっと叶うでしょう」
「え、私、願いなんか言ってな・・・。」
「いえいえ、私はあなたの願いが分かるんですよ・・・。あなたの顔に書いてありますから」
その発言は、彼の格好と同じくらいばかげたもので、おとぎ話のような、嘘みたいなことを行ったのに、いままで語っていた現実的な悩みの話より、本当のことをしゃべっている感じがした。
「いや、でも永遠結びつけるだなんて、おとぎ話じゃないんだから・・・そんな・・こと」
「本当にそう思っていますか?」
「え・・・。」
「あなたはこれを欲しているのではないかと私は考えているのですが、何なら今すぐ差し上げてもいいのですよ?」
「え・・・。」
しばらく沈黙が続く、どのくらいたったのかよくわからない、怖い、怖すぎる断らなきゃ、そんなことわかってるのに口を開くと思ってないことを言ってしまいそうで。頭の中で本音を押さえつけながら声を絞りだす。
「け・・けっこうです・・。私には必要ありません」
「そうですか、分かりました。では私はこれで失礼します」
そう言ってミスターパトリックは店の中を去っていった。よかった断れたぁ。そう思って毛スマホを取り出そうとしたらポケットに見慣れない紙が入っていた。それは緑色の紙でそこにはメッセージと簡単な地図が書いてあった。
”もし、お気持ちが変わったなら夜8時以降この地図にのっているカフェにお越しください”
ごみ箱に捨ててしまおうかと思った、でも彼が言っていたことを思い出すとどうしてもできなくて。結局もう一度ポケットにしまった。
誰か知らない人と話をしてたら自分が置かれてる状況がよりはっきり見えて、彼が送ってきた最後のメッセージを思い出した
”えりちゃんの告白受けない方がよかったね”
告白したのは私で、あの日あらかじめあの日に告白するって決めてい、たでもいざ言うときになったら緊張していて、軽く言うつもりだったのに自分でも分かるくらい緊張した声が出ていた。
そして受け入れてもらえたときあの日私は初めて、生きててよかったって思った、そう思ったんで。だから神様あの人をどうか私から取り上げないで、初めてなんです、あんなに欲して大事にしたくてあんなに心が晴れやかだったの、そしてあの日の思い出を悲しいものにしないで、どうかお願いします。
神様なんているかどうかそんなの分からないだけど私が祈りを捧げる相手なんてそれぐらいだ。
真っ暗な空に満月がぽつんと登っている。私は、ある路地裏に向かっていた、そこは私たちが行っていたレストランペネロペの裏で人がいないとこに行きたいときは時間を忘れて話し込む時もあった。結局私は別れることに同意した。でも最後のコミュニケーションがあのメッセージなのは嫌なので。最後に一度だけ会うことにした。別れるというのに、悲しいことが起こることは分かり切ってるのにそれでも会えるっという事実に足取りが軽くなる。翻弄に私って単純だ。
路地裏につくとけんくんはもうそこにいた。つい数日前顔を見ていなかったのになんだけ数十年ぶりの再開に感じる。目の奥が熱くなるのを必死に抑えて近寄る。
「ひさし、ぶり、だね」
「数日前にあったばかりだけどね」
なんて声を掛けたらいいかわからなくてありきたりな声掛けになってしまう。本当自分でも思うもういなくなるというのになんて声を掛けたらいいんだろ。
「あのさ、最後にハグしてもいい?」
彼は黙って考え込んだ後、ただただうなづいた。
私は彼の背中に腕を回して首に顔をうずめた。彼の首から甘い、いいにおいがする。おいしそう、おかしい今から私の口は鉄の味でいっぱいになるはずなのに、果物みたいなにおいがする。おいしそう、のみたいのみたい。そして私は彼の首にかみついた。それは鉄の味ではなく。まぎれもなく私が今まで食べた中で一番おいしい桃の味だった。
「吸血鬼・・ですか?」
目の前の緑の男が言っていた事が信じられなくて思わず聞き返す。
「さようでございます、こちらを飲むと、あなたは吸血鬼になります。あ、ご安心ください、こちらはある上級吸血鬼の血を使用した薬となっておりますので、太陽、銀、聖水などといったもので死ぬことはありません。」
「待ってください、吸血鬼になるとどうして彼と永遠に結ばれるんですか?」
いまいち理解が出来なかったので聞き返す。
「吸血鬼という生き物はほかの生物の血を吸って相手の力や魂を吸収するのです。あなたのように、”こちら”のことも知らない人にはピンと来ないかもしれませんが。血というものは魂そのものと言っていい。正確に言うならばた魂は常に血とともに流れていてあなたたちを活かしているのです。」
そういってミスターパトリックはメガネを直して言った。
「つまりですね、もしあなたが吸血鬼になってお相手の血を吸血すれば、文字通りあなたたちはあなたの体の中で一つになれます、あなたの精神で会話もできるし、それ以上のことも出来るということです。」
そっか、そうなんだ、もし私がこの人の話に同意すれば、私は人間じゃなくなるんだもう今までの生活は気っと送れない、だけどそれがなんだというのだろう。もう私は彼と一緒にはいられなくなる、そんな人生別にどうでもいい。
「買います、それで私は何を支払えばいいのでしょうか」
「あぁそれはご心配なく、すぐにいただけますよ。貴方の血です。」
「血、ですか?」
「あぁご心配なく血と言ってもティースプーン一杯分ですなにもあなたが死ぬような寮ではありません」
そう言って彼はコインサイズのカプセルを取り出して私の方に突き刺した。カプセルの中身は一瞬で私の血で満たされた。
「はい、おわりました、それではあなたの願が解決することを心から願っております」
とまた嘘くさい声で彼は去っていった。
口の中には桃の味が残ってるこんなに美味しいものを”食べた”のは初めてだ。私の後ろではけんくんが壁にもたれて”眠っている”。ふと我に返って自分の体の中に意識を集中させる。たしかに私の中に彼がいる、ずっと一緒にいたいと願ってやまなかった彼が、かれ、が。
その時突然あの最後のメッセージが頭に浮かんだ。
”えりちゃんが告白したとき、俺は答えなければよかったね”
私のあの日の決断を否定しないで、そんなこと言わないで、思わず許せないという気持ちが湧いた時、突然体の中で、恐ろしい断末魔が聞こえた。それは私たちが付き合っていた時でも聞いたことない声で、でも確実に彼のものだった。そして断末魔が止んだと思ったら体の中から彼の気配が消えた。
やめて、そんな嘘よ、私はこんなの望んでいないおねがい、行かないで、行かないで。
吸血鬼になった自分の体のことはよくわからない。でも確実に分かったことは、けんくんという存在は今、この瞬間消えてなくなってしまったってこと。体の中が静かだということがそれを現実だと語っていて。いつの間にか目から涙が流れていた。
あれからいくつ夜を超えただろう、もうわからない。あの時”食べた”桃の味が忘れられない。私は毎晩あの時食べたものと同じものを食べている。あの桃を求めて、でもどれも結局あの味よりは程遠くて、時々すごくまずいときもあった。あの桃の味がほしい。どうしてもほしい。もう一度でいいからあの桃が食べたい。食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい。
・・・・もう一度会いたい。
エピローグ
女性客でいっぱいで、とても騒がしいカフェの一角に金髪、碧眼で中性的な美人と、黒髪で、前髪だけ栗色で左右で瞳の色が違う女性が向かい合って座ってる。黒髪の女性はクリームソーダとメロンパフェを頼んでいて、金髪碧眼の美人はハーブティーとリンゴパフェを頼んでいるようだ。
「そういえばふと思ったんですけど、血って美味しいんですかエリックさん?」
メロンをほおばりながら黒髪の女性が尋ねた。
「アンナ、アンタねぇパフェ食べてるときにそんな物騒な事聞くもんじゃないと思うけど?」
エリックと呼ばれた人は眉根をひそめて言った。
「まぁ、いいわ、アンタとアタシの仲に免じて答えてあげる、知らないわよ。アタシ生まれてこの方人の血なんて吸ったことないもの。」
「まぁ今、そんなことしたら犯罪ですからねぇ」
とアンナと呼ばれた女性はにっと笑いながら言った。
「そうよ、それにアタシはそんなよく知らない他人を所かまわず襲うような安い男じゃないわ。」
エリックは不機嫌そうにパフェの中盤のリンゴアイスを食べてから口の中を洗い流すようにハーブティーを飲んだ。
「でも今、生き残ってるのは上級の吸血鬼だけだから、血を飲むことは生きるために必要って感じじゃないけど、それでも本能みたいなのはあるんじゃないんですか?」
アンナが首をかしげて言うと、エリックは少し考えてからおもむろに話し始めた。
「アンタ、アタシたち吸血鬼がどうやって伴侶を送る知ってったっけ?」
「あぁ、亡くなった直後の新鮮な血を残った側が吸うってやつですか?」
「そうよ、亡くなった家族の魂を血ごと吸収するの、そうするとねアタシたちはいつでもその人に会えるのよ、アタシたちが死なない限りね。」
アンナはへぇっと感嘆をもらしながらクリームソーダを飲んだ
「昔、おじいさまが教えてくれたの、吸血鬼が血を吸う相手が自分のことを愛しているとね、その吸血鬼が一番好きな、果物の味がするらしいの、おじいさまがおばあさまを吸ったときはブドウだったって言ってたわ」
さっきまでうなづいていたアンナは食べる手を止めてじっとエリックの顔を見つめていた。
「で、アンタの質問に答えるとね、そうね、全く興味ないって言えばウソになるわね。ただアタシが吸いたいのは、それこそ、身も焦がされるほどの恋を経て出来た伴侶と共に過ごして、終わるその時に吸う最高に美味しい血よ。」
アンナから目を少しそらして、まるで自分に言い聞かせるようにエリックはつぶやいた。
「意外だった?」
「うーんどうかなぁ、意外かどうか分からないけど、意識高いエリックさんが満足する相手が見つかるかどうかが心配」
アンナはいたずたっこみたいな笑顔で言った。
「はぁ、アンタってほんと、意地悪な子よね、まぁ見てなさい、必ず見つけて見せるわ、アタシにふさわしい相手をね」
エリックは彼女の笑顔に負けじと飛び切りの笑顔で返した。
「まぁ、”こっち”がわの専門家が調査して証明されたわけじゃないから、本当のところはどうだか分からないんだけど、アタシはおじいさまの話を信じてるの」
ハーブティを飲み干したあと、アンナに向き直ってエリックはまた口を開いた。
「実はね、今日はおばあさまの命日だったの、それでふとさっきの話を思い出してね、アタシのが吸う相手はどんな味がするか気になったのよ、でアンタにこの店を紹介してもらったってわけ。」
「あぁどおりでね、こういうカフェとか、エリックさん行かないのに、びっくりしたよ。高カロリーだよって言ってるのに「いいわよ」の二つ返事だなんて。」
そう言ってアンナはメロンパフェの最後の一口を食べきって満足そうにため息をついた。
「まぁ食べた分は明日がんばればいいだけよ。もう何をするかはきめてあるわ」
エリックも得意げにリンゴのパフェを平らげる。
「それで?リンゴはどうだったんですか?」
「うーん、まぁリンゴではないわね」
「あら、残念、じゃあ次なんか食べます?」
読んでいただきありがとうございます。面白いって思ってくれたら幸いです。吸血鬼の設定についてはいろんな作品の設定をちょいちょいつまみ食いまたは勝手に思いついた感じです。私的にはこの小説はスピンオフのつもりで書きました。本編はエピローグに出てくる二人がメインキャラってイメージです。本編はぁ、いつ書くかなぁ未定です。まだ考え中なとこもあるので、先にまとまったスピンオフを書いてみた感じです