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5話 追跡

 翌日、学校に行くいつものルートを辿っているとふと後ろの方から視線を感じる。

 後ろを振り返ってみるが誰もいない。

 春乃が俺と優菜の関係の粗を探そうと躍起になるのはわかっていた……だが、まさかこんな朝っぱらから監視してくるとは思わなかった。


 俺は電車通学、優菜は徒歩。

 駅で集合すれば一緒に登校することも可能だが、嘘の恋人がメリットもなくそんな面倒なことをやってくれるはずがない。


 というか、ずっと視線を感じるのが薄気味悪い。

 数歩進むたびに後ろを振り返ってみるが、全く姿が見えないのが不気味だ


「おーっす、高見」

「っ……!? って宇上かよ、びっくりさせるな」

「そんなことよりお前、裏切ったな」


 普通に笑顔で接してくれるが明らかに怒気が籠ってる。

 多分、春乃比奈に関することだろう。

 確か、俺が冬川優菜に告白してフラれた日、春乃に告白するなとかいうことを抜かしていたような記憶がある。


「裏切ってはない、俺は告白してないからな」

「じゃあどういうことだよ、おい! なんで、なんで……お前なんかに春乃比奈ちゃんが好きになるんんだよ!!」


 それは本当に、本人に聞いてくれ。

 たかが幼馴染相手にそんな結婚するほど好きになることって正直、稀だと思う。正にアニメや漫画のような世界の話。


「一応、俺とアイツは幼馴染っていうか腐れ縁って奴だから」

「……え、なにお前。幼馴染なの?」

「なんだよその眼、こえーよ」


 さっきまで怒り心頭だった宇上が急にぎらついた目で俺を見てくる。

 なんとなく考えてることはわかるが……。


「お前、冬川ちゃんと本当は付き合ってないよな?」

「もちろん言うなよ」


 さすがにコイツに嘘を突き通すのは難しい。

 もう一昨日の時点でフラれたことは知っているはずだからだ。


「約束しよう、お前たちの関係は誰にも口外しないと」

「助かる……」

「その代わり、俺と春乃ちゃんが付き合えるよう根回ししてくれ」


 もちろん拒否する。

 ――ことができればよかったが、その先に待っているのは地獄しかない。

 それならば宇上に一つ夢を見せてあげるのも悪くない、そう思った。

 

 それにだ、万が一でも春乃が宇上を好きになれば理想的なのではないか。

 でも春乃が宇上を好きになるビジョンは見えてこない。


「おっけー、わかった」

「マジで!?」


 幼馴染の俺が協力したところで多分、無理だろうな。


「手伝ってやる代わりにお前、言ったら……」

「言わない言わない、神に誓おう。ふっ、幼馴染のお前が協力してくれるならタダ貰いも当然だぜ」


 調子乗ってる宇上はグッと親指を立てて堂々と歩き出す。

 幼馴染過信しすぎだろ……。



 ◇ ◇ ◇



 学校に到着して辺りを見渡す。

 なんてことない普通の日常の景色が映っている。それは春乃も同じだった。

 というか、俺よりも早く教室にいたようで黙々と机に向かっている。


 つまり、俺を追っていたのは春乃ではない人物。ヤクザの組員であるということはわかったがどんな奴なのかはわからない。


 念の為、今日は彼女と一緒に帰った方がいいだろう。

 しかしだ、優菜が俺の提案を受け入れるかわからない。


 とりあえず様子見ということで。




 昼休み、俺は自分の席で弁当を食べようと机の上に広げる。

 すると、もう一つ弁当が俺の視界に現れた。


「なんだこれは」

「一緒にお昼食べよ、いいでしょ?」

「図々しい奴だな、俺には一応彼女いるのにお前と食べてたらだな……」

「彼女と食べないんだ。色々聞きたいことあったのに」


 話、聞けよ。

 そう思いながらも俺は事前に用意していた言葉を並べる。


「二人の時間も大事だが、一人の時間も尊重し合うのが俺たちの付き合い方だ」

「ふーん、聞くところによると秋斗と冬川さんが一緒に食事してるところを全く見たことないってクラスの人は言ってたけど」

「そ、それはアレだ。人のいない場所で飯食うのが好きなんだよ」


 この苦しい言い訳に深く追求することはなく、春乃はパクパクとご飯を食べ始めた。

 それ以上の会話は特になく、淡々と時間が進んでいく。

 普通はどちらも喋らないことに気まずさを覚えるものだが、不思議と春乃といる空間に違和感はなく寧ろ心地良いような……っておいおい、あぶねえぇ。


「それより、引っ越し先はどうだったんだ」

「楽しかったよ、もう少し住んでもよかったかも」


 春乃の表情は明るく、満足そうに頷いた。


「気になる?」


 にやにやと笑みを浮かべながら尋ねる春乃。

 俺の本音を言ってしまえば滅茶苦茶気になる。でも、俺が気になってるのはまた虐められてないか、とか友達はできたのか、という要素。

 今の春乃の笑顔を見てれば、そんなことはなかったと確信できる。


「よかったよ、お前が元気そうで」

「なにそれ、夫になるんだったらもっと嫉妬くらいして欲しいのに」

「夫じゃねえから。それに春乃の恋愛事情に関しては全く興味ない」


 バッサリと言い切ると、春乃はむぅっと頬を膨らませてあざとい顔で箸を動かしてご飯を食べる。

 顔はいいし、金髪だし、胸もめっちゃ成長して魅力的な女の子になった。でも肝心なのは中身なんだよ、その部分が一切成長してない。


 ただ人生は長い、こんな女の子でも好きになってくれる物好きな男と出会う日が来る。その時が来たら素直に祝福しよう。

読んでいただきありがとうございます。


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