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2話 記憶

 俺と春乃比奈の付き合いは生まれたその時から始まっていた。

 誕生日は同じ、病室は隣同士、お互いの家も比較的近いという共通点から親同士が仲良くなって春乃と俺はよく一緒に遊んでいた。


 幼稚園の頃の春乃はかなりやんちゃで活発な女の子だったようで砂場を主戦場にしていた。ちなみに、その遊びに付き合わされていた俺は泥んこになりながら家に帰る、というのが日常だったらしい。

 言われてみれば、そんなこともあったような気がする。


 当時のことはあまり覚えてないけど、よく春乃は「将来、結婚してあげるから」ということをよく言っていた。

 漫画やアニメなどでそんな台詞は定番メニュー、ただそれらと少し違うのは『してあげる』という高圧的なプロポーズだということか。


 ともかく、幼稚園の頃はこんな感じだ。

 彼女との関係性が変わっていくのは小学校に入学してから。


 小学校一年生は比較的、誰とでも仲良くなれるある意味で無敵の期間であるのだが、異彩過ぎた女の子が一人いた。

 それが春乃比奈だ。


 凡人の俺は無難に友達を作っているなか、彼女は家柄の影響でタトゥーにハマったといい、自分の腕にマジックで落書きをしたり、授業中はノートにタトゥーの模様を描いては先生に注意されていた。他にも、遠足に行けばいつの間にかどっかに行って捜索願出される寸前だったこともある。


 そんなある日、いつも一人でいる春乃を見かねたクラスの仕切り役のような女の子が積極的に喋りかけていたことがあった。

 喧嘩になることはなかったが、一方的に拒否した春乃に近づく者は二度と訪れることはなく一年生が終了する。




 次に、小学校三年生のことだ。

 夏休みが終わった後、春乃がヤクザの娘だということが学校中に知れ渡っていた。俺は元々、知っていたから驚きはなかったが、徐々に周囲の目も変わってくる。


 特に同じクラスの男からの冷やかし、からかいなどが絶えなかった。当時の俺は彼女と同じクラスでもなかったし、ヤクザの娘ということに違和感を覚えなかったせいかあまり気にしていなかったのだと思う。


 翌週、春乃が学校を休んだ。

 違うクラスだったけれど一番仲のいい俺が見舞いをすることになった。


 家に行って春乃の部屋まで行く。

 そこで彼女は泣いていた。いつも通りのニコニコと笑う春乃比奈の姿はなく、ただ悲しくて辛くて泣いてる女の子がそこにはいた。


 春乃は強い子だと思っていたから、クラスメイトに意地悪されても平気でいつも通り楽しそうに毎日学校に通うのだろうという俺の考え、……それは大きな勘違いだった。


 そこで俺と春乃は少し話して約束する。


「怖かったらさ、いつでも俺のこと頼ってよ。比奈はいつも一人でやろうとするからダメなんだ」

「ほんとに助けてくれる?」

「当たり前だろ。だって比奈は俺の大切な友達だから」


 これは鮮明に覚えてる。

 正直、ただの小学生の淡い思い出という奴だが、……なんだこれ、今思い返すとくっそ恥ずかしい。


 とまあ、そんなことがあった翌日から春乃は学校に来るようになったが、なぜか俺と春乃が付き合って結婚しているという噂が流れだした。




 最後に小学校六年のことを話す。

 卒業式まであと一ヵ月ほど。その時、俺は母親から春乃が海外の中学校に進学するという話を聞かされた。

 つまりもう春乃と会える期間は三十日あるかないか。


 当然、俺は事情を聞きに春乃を問い詰めるわけだが落ち込んだ様子もなく逆に元気そうな顔で海外ってどんなだろう、と目を輝かせていた。

 この引っ越しは、小学校三年生に起こった事件ことや親がヤクザと知れ渡ってしまったことが大きく関係している。


 止める権利も力も俺にはない、だからせめて向こうに行っても俺のことを覚えてもらう為に何かプレゼントでも渡そうと考えていた。


 引っ越しの前日。

 俺は春乃の家に行って別れの言葉をかけに行った。

 そして、そこで俺は衝撃を受けた。


 ヤクザの組員が多く出入りし、その中で堂々とした姿を見せている春乃。これから遠くに行く、のではなくもう既に遠くに行っていた。

 俺は春乃比奈がヤクザの娘、ということを受け入れているつもりだったけど違った。


 ぼーっとしていると、先ほどまで春乃と話していた男が近づいてくる。

 目の上の方に傷があり、眼鏡をかけていた。


「お前がお嬢の結婚相手か」

「え、…………え?」

「お嬢の結婚相手はお前か、と聞いている」


 そう問いかけながらどこからか拳銃を取り出して俺の額につけつける。

 額、首、背中、あらゆる部分から汗が流れて必死に頷く。


「そうか。お嬢! お嬢! 来てください」


 満足そうに頷いた男は春乃をこちらに呼び、言う。


「この男が結婚してくれるそうです」

「ほ、ほんとに!?」


 声を上擦らせながら春乃は言う。

 すると今度は背中に銃を押し付けられ、


「そうだよな?」

「……はい」


 なんというか全てが終わったような感覚。

 言葉も話せない時からゆっくりと積み上げてきた春乃との思い出が、この瞬間に全てリセットされて冷めた心が宿る。


 春乃が去った後、拳銃を懐に収めた男はもう一言付け足す。


「お嬢を泣かしたら殺す」

読んでいただきありがとうございます。


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