95.若き『神託の巫女』
「ヤマトさん、ミーアです。ちゃんと話した事は、多分ないですよね……」
古の海洋民族『シークレットマリナー』の末裔だと突然カミングアウトした『トブシマー』の族長の話で、少し自分の世界に入ってしまっていた俺に、ミーアさんが挨拶してくれた。
「そうですね。来ていただいて、ありがとうございます」
「私の事は、多分知らないですよね。
ミーアのパーティーのサポート部隊のメンバーだったレオナです。
私は、どこまでもミーアに付いて行くって決めてるんです。
なので、よろしくです。
ちなみにラッシュとも友達だから、そういう意味でもよろしくです」
独特な口調で挨拶をしてくれたレオナさんは、獅子亜人のようだ。
スラッと背が高い、男前な感じの美人さんだ。
茶髪のショートカットが、よく似合っている。
その後、イリーナとフランソワに紹介されるかたちで、彼女たちのパーティーのサポート部隊だった十人とも挨拶を交わした。
全員男性で、隊長ダルカスさんは、人の良さそうな感じが滲み出ていた。
そして最後に、教会関係者と思われる二人と挨拶したわけだが……話を聞いて驚いた。
若い可愛い感じの巫女さんは、ナナリーさんと言い、『十神教会』総本部付きの見習い巫女で、かつ『日曜神テラス』様の神託を受け取った、『神託の巫女』だった。
一度でも神託を受け取り、それが本当だと認められた者は、『神託の巫女』と呼ばれるのだ。
神託とは本来、神が人々に伝えるべきことを、巫女などを通じて伝達することである。
俺が、受け取っている啓示と同じようなものではある。
言葉の意味としては、ほとんど同じとも言われているが、人々に伝えるように巫女に降りる啓示が神託と言われている感じだ。
俺個人に、神様が話しかけてくるような場合は啓示で、神託とは分けて表現するのが一般的なようだ。
まぁこれも、はっきりと決まった使い方というわけでは無いようだが。
『神託の巫女』となれば、教会内では特別な存在となり、その立場も保障されるのである。
教会内に巫女はそれなりの数いるわけだが、『神託の巫女』となれるのは、何十年に一人という希少さだったはずだ。
まぁそもそも、平穏な、平時には、神託自体が降りることが極めて稀なのである。
魔王出現の予言が神託として現れるような乱時においては、度々神託が降りることもある。
その時には、同時代に二、三人の『神託の巫女』が存在したこともあるようだ。
確か一年位前に、『十神教会』に降りた魔王出現を予言する神託を受け取ったのは、巫女長という話だったから、この子が現代の二人目の『神託の巫女』となるのだろう。
そもそも一年位前に、魔王出現を予言する神託があったからこそ、過去の形式に乗っ取り『勇者選抜レース』が始まったわけだが、まさかその中の勇者候補が魔王化するとは夢にも思わなかったわけだ。
さすがにそこまでの詳しい内容の神託は、降りていなかったわけである。
過去にそんな例もないわけだし、『勇者選抜レース』が魔王を作ったみたいな結果は、皮肉以外の何物でもない。
まぁそれは良いのだが。
それにしても、ナナリーさん、この若さで『神託の巫女』とは……。
まぁ逆に若いからこそなのかもしれない。
汚れを知らない純真無垢な感じの子だし。
ナナリーさんが神託を受け取ったという事は、巫女長と護衛の神殿騎士サザリーさんしか知らないそうだ。
神託で、わざわざ秘匿するように指示があったというのだから、驚きである。
そしてこの国の国王や教会のトップが、堕落と腐敗にまみれているということを、テラス様はお見通しだったようだ。
まぁ当然と言えば、当然だろう。
ちなみに護衛の神殿騎士のサザリーさんは、ナナリーさんの実のお姉さんだった。
名前の感じが似てると思って、なんとなく尋ねてみたら、そうだった。
俺たちは、神託の内容や、ここに来るまでの経緯を教えてもらった。
そして俺達と合流するという意向も聞いた。
神託の内容には驚いたが、合流してくれるのは、願ったり叶ったりである。
神託を要約すると……
◯『光の聖者』の下に、勇者たちが集いしとき、暗黒を打ち払う『光の聖団』が誕生する。
◯暗黒を討ち払えるのは『光の聖団』だけで、後の世に希望を託すために、今この時を守らねばならない。
◯真の聖者と真の勇者が覚醒し、大きなエネルギーのうねりができた時、自然に、必要な時に、古の力が復活する。
◯鍵は、最初の『勇者』の『称号』を得た者、古の海洋民族の末裔である者……つまりミーアさんだ。
他の勇者の覚醒の鍵を握っているらしい。
◯ミーアさんが、『光の聖者』である俺と合流することで、勇者覚醒のエネルギーが満ち溢れる。
◯この情報を、勇者と聖者に伝え、国と教会には秘匿する。
中枢にいる者たちは、欺瞞と腐敗にまみれていて、いずれ、その身に粛清を受ける。
……と言うことになる。
デワサザーン伯爵からは、神託にあるように、今代の危機を救えるのは俺だけであり、この国を、人々を、救ってほしいと頼まれた。
国のしたことを思えば、頼める義理は無いのだが、人々のために、力を尽くしてほしいと頭を下げられた。
俺は正直に……『カントール王国』を助ける気は毛頭ないが、罪なき人々が虐げられたり命を落とすのは見過ごせない。だから、人々の為に、悪魔や魔王と戦うつもりだと伝えた。
俺の正直な物言いが面白いと言って、デワサザーン伯爵と族長のシーアさんが愉快そうにしつつ、それで充分だと頭を下げてくれた。
シーアさんは、一族の戒めのようなものがあるようで、現時点では、古の海洋民族『シークレットマリナー』の末裔を名乗って活動することはできないようだが、俺たちに出来る限りの助力をすると申し出てくれた。
魔王と悪魔出現の報を聞いて、そして孫のミーアさんに『勇者』の『称号』が現れたのを確認し、長らく封印されていた飛行船を起動させたのだそうだ。
そんな感じの話が一段落したところで……『大剣者』が警鐘を発した。
「マスター、『ショウナイの街』北門付近にて、人の気配を察知いたしました。女性兵士が一名、こちらに向かって来る模様です」
おっと、どういうことだ……?
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