94.飛行帆船、そして古の海洋民族の末裔
突如として現れた飛行帆船から、デワサザーン伯爵が降りて来た。
クラウディアさんが改めて確認し、出迎えた。
その後から、続々と降りてくる。
老婦人と『勇者選抜レース』第三位パーティーの勇者候補だったミーアさん、続いて降りて来た亜人の女性は、なんとなく見覚えがある。
多分、そのパーティーのサポート部隊だった人だろう。
その後から降りてきた十人は、第二位パーティーのサポート部隊、つまり勇者ジャスティスに迷宮に置き去りにされた人たちのようだ。
俺もなんとなく見覚えがあるし、ラッシュがそうだと教えてくれた。
最後に降りてきた二人の女性は、見たことがない。
だが、服装からして教会関係者、おそらく巫女さんとそれを護衛する神殿騎士だろう。
クラウディアさんは、最後に出てきた教会関係者とみられる二人以外は全員知っているので、それぞれに挨拶をしていた。
ラッシュも、隊は違うとは言え、同じサポート部隊の隊員だった人たちはみんな知っているようで、声をかけていた。
イリーナとフランソワも、自分たちのパーティーのサポート部隊だった十人に、声をかけ無事を喜んでいた。
なんとなく俺だけが置き去りにされている感じだが。
まぁ、ラッカラン隊長を含めたこの国の国民となってくれた人たちも、同じように置き去りにされているから俺だけではないが。
知っている人同士の簡単な挨拶が終わると、訪れた人たちは、俺の前に集まって来た。
なぜか皆で一斉に俺に頭を下げ、何か俺の言葉を待っているような雰囲気を出している。
「はじめまして、ヤマトと申します」
俺は、先頭にいるデワサザーン伯爵に挨拶をする。
一つの領の領都で上級貴族である伯爵に対し、片膝をついて挨拶したほうがいいかとも思ったが、クラウディアさんが俺は国王なのだから、普通にというか、偉そうに挨拶してくれと言われてしまった。
偉そうに挨拶しろと言われても……どうしていいかわからず、普通に挨拶してしまったわけだ。
「私は、デワサザーン領領主、シュゲン・デワサザーンであります。
『光の聖者』様にお会いできて、光栄でございます」
デワサザーン伯爵は威厳たっぷりに、それでいておそらく丁寧に挨拶してくれたのだと思う。
俺は、改めてクラウディアさんにお世話になっていることの感謝と、この魔境暮らしに引き込んでしまって申し訳ないと謝罪した。
伯爵は笑顔だったのだが、低い声でぼそっと、「その話はまたいずれゆっくりと」と俺だけに聞こえるような感じで言った。
その時の一瞬の目つきが……なんとなくだが、娘についた悪い虫を見るような感じだったのは、気のせいだろうか……?
「なるほど。あなたが『光の聖者』なのですなぁ。
私は、デワサザーン領の沖合に浮かぶ『トブシマー』に住む民をまとめております、族長のシーアと申します。
古の海洋民族『シークレットマリナー』の末裔でもあります」
俺を品定めするかのように視線を動かしていた老婦人が、頷いた後に、襟を正して挨拶をしてくれた。
そしてその挨拶には、何気なく凄い情報がぶち込まれている。
古の海洋民族『シークレットマリナー』って……実在したのか!?
おとぎ話の世界の存在じゃないか!
サクッと明かしちゃってるけど、そんな情報、言って大丈夫なんだろうか?
前にクラウディアさんが、『トブシマー』の人たちは、古の海洋民族の末裔とも言われているとは言っていたが、“なんとなくの言い伝え”のようなものだと思っていた。
実際、“◯◯の末裔”と言われている、みたいな人たちって、結構いるのである。
だが、この『トブシマー』の人たちの、古の海洋民族の末裔という話は、本当だったようだ。
だが、納得である。
空を飛ぶ船なんて、古い時代にあったことは確実みたいだけど、現代でお目にかかることなんて、ほとんどない。
古の海洋民族の末裔と言うなら、そんな船を持っていても不思議ではない。
王立図書館の記録には、何百年前に目撃例があるとか、『魔王戦』で目撃例があるとか、そんな情報が残っているみたいだが、どこの誰が持っているかなんて、全くわかっていないのだ。
だが、二千七百年前に滅んだ古の魔法機械文明の末裔とも言われている古の海洋民族が持っているならば、納得だ。
西の大陸で栄えた魔法機械文明で、確か『マシマグナ第四帝国』という国が中心だったはずだ。
その時の英雄譚などは、この『ジパン群島』にも伝わっている。
ただ何かの本で読んだが、その『マシマグナ第四帝国』に生き残りがいて、海洋民族として海上で暮らしていたという話は、一般には知られていない不確かな情報だったはずだ。
この『ジパン群島』のみに伝わっている、真偽不明の伝承のようなものらしい。
そんなこともあり、古の海洋民族が、『マシマグナ第四帝国』を中心とした魔法機械文明の末裔なのかどうかというのも、真偽不明というのが定説になっている。
そもそも古の海洋民族が実在したかどうかが、真偽不明なのだから、当然と言えば当然だ。
そして、確かめようがないわけである。
だが伝説上の存在である古の海洋民族の末裔がいるんなら、その人たちに聞けば、話は早い。
というか謎が解けるわけだ。
俺的には、世紀の大発見的な感じがするが。
まぁ今は、そこは感動ポイントでは無いから、抑えるが……。
古の海洋民族の存在というか、『古の海洋民族』という言葉は『ジパン群島』に暮らす人なら、大体知っているのではないだろうか。
実在するかどうかもわからないのに、なぜ有名かというと、人気のある英雄譚『海賊女王と無敵艦隊』に登場する謎の存在が、古の海洋民族ではないかと言われているからだ。
その英雄譚が記載されている書物によっては、そして語る吟遊詩人によっては、はっきりと古の海洋民族と語られているのだ。
その者たち……古の海洋民族は、海賊女王たちに無敵艦隊の基になる特別な装置を与えたとされている。
そして出来上がった無敵艦隊の力で、海賊女王は、多くの魔物を倒し、海賊を倒し、果ては悪逆の国をも滅ぼし、人々を救ったとされている。
いろんな要素を含んだ冒険活劇で、大人気なのだ。
吟遊詩人が語る定番英雄譚と言っても良い。
吟遊詩人が語るときに、集まった人々に何が聞きたいかと問えば、真っ先にリクエストされるような演目なのである。
それ故、『古の海洋民族』という言葉を聞いたことがある人は多いわけだが、その名前が『シークレットマリナー』というのは、今日初めて知った。
個人的には、そこら辺のことを詳しく聞きたいが、今は自重するしかない。
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