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93.人々を守りし者たち

 カントール王国、王都


 元大将軍モーリス侯爵の下に集った兵士たちが、王都各所に散らばっていた。


 魔物と悪魔の襲撃の一報を受けて、すぐに行動していたのである。


 王都への襲撃を予測し、ある程度の準備をしていたが、まだ準備半ばであった。

 ただもしもの場合の行動の指針だけは、すり合わせをしていた。

 それに従い、各部隊を預かる隊長たちは、迷うことなく行動に移ったのである。


 彼らの目的はただ一つ、王都にいる人々の避難誘導だ。


 エリアごとに、万が一の時に誘導しようと決めていた避難場所へ人々を向かわせる。


 『カントール王国』の属する『ジパン群島』では、定期的に『魔王戦』と呼ばれる戦いが過去にあった。

 その為、地下の避難シェルターなどが、所々に用意されているのだ。


 それでも、全員がすぐに避難できるような万全の体制ではない。


 近くに地下シェルターがない場所の人々は、事前に決めた広場等に誘導しているのである。

 そして、その周辺を兵士や衛兵が防衛することになっているのだ。


 この独自の動きで人々を守っているのは……元大将軍モーリス侯爵の私兵五十名、エドガー将軍率いる王国軍の第二大隊約千五百名、ランドル隊長率いる特務中隊約六十名、『王国聖騎士団』百五十人の中からの有志約四十名、そして王都全域の衛兵のうち有志約五百名である。

 合計すれば約二千百五十名ほどになるが、広い王都に対しては、カバーしきれない人員規模であった。


 だが彼らは有事のときには、国民の命を第一優先にすることを打ち合わせていたので、何とか機能できていた。


 王命など当てにせず、すぐに動いたのだ。

 初動の速さが、人員規模の少なさをギリギリカバーし、人々を誘導する動きを可能にしたのだ。


 本来守るべき王宮には目もくれず、一人でも多くの人を救うために、最善の行動をとっている彼らは、国民のための独立部隊と言えるような存在になっていた。


 本来であれば、軍規違反で、許されないことである事は、充分承知していたが、モーリス侯爵の下、兵士の本分は国を守ることではなく国民を守ることだという信念で動いているのである。


 それに、王城にはまだ王国軍の第一大隊、第三大隊、『王国聖騎士団』、『近衛騎士団』が残っている。

 それだけで、守りとしては充分だと言える。


 むしろ二つある大隊のうち、一つでも人々を救うために出動してくれないかと、モーリス侯爵は淡い期待を抱いていたが、そんな動きは見られなかった。



 王都に散らばった独立部隊とも言うべき者たちは、魔物の撃退よりも避難誘導を優先していたが、ある程度の遭遇戦は避けられなかった。


 必然的に、犠牲が出るのも避けられなかった。


 一般の兵士や衛兵でも、『小悪魔』は敵ではないが、ゾンビ化している魔物は厄介な相手なのであった。

 また、一体では大したことない『小悪魔』も、数で襲われれば脅威なのである。


 そんなこともあり、所々で苦戦を強いられる部隊が増えていった。


 そして、彼らがあらかじめ予想していた通りに、国としては有効な対策をほぼ打てずにいた。


 だんだんと、悲惨な消耗戦の様相を呈していく。


 自らも魔物を倒しながら避難誘導をしていたモーリス侯爵は、ため息を漏らす。


「アガサ、悪いが『北端魔境』に行ってくれ。このままでは王都は陥落する。多くの人の命が失われることになる。聖者殿に助けを請う以外にない……」


 モーリス侯爵は、いざと言う時のために自分の傍に置いていたエドガー将軍配下の情報官アガサに救援の依頼を託す。


「分りました。すぐに向かいます!」


 アガサは、王城に向かって走る——


 王都の多くの人の命が、今託されたのだ。

 そんな使命感に燃えて、走る——


 王城に着くまでも命がけ、王城内の転移門の場所までも、命がけである。

 魔物はもちろんだが、下手をすれば、王城内の兵士たちに遮られる可能性もあるのだ。


 だが、アガサは決死の覚悟で走る——





 ◇





 『河童族』の里で朝ごはんをいただいた後に、俺たちは『魔境台地』に戻って来た。


 もう昼近い時間だ。


 『河童族』の里からは、普通の速度では数時間かかってしまうのだ。

 襲ってくる魔物を倒しながらだから、移動以外の時間も入っているのだが。


 ただ『オートホース』を使って飛行すれば、大した時間はかからずにすぐに到着するだろう。


 俺たちに同行を願い出た『河童族』の女性サクラさんも一緒だ。

 サクラさんの騎乗生物の『カッパル』も、一緒である。

 『カッパル』の名前は、ルンパだそうだ。



 『魔境台地』に残っていたみんなは、昼食の用意をしていてくれた。


 俺は、サクラさんを紹介するとともに、『河童族』との出会いについて話をした。


 そして、一族まとめて仲間になってくれたことも伝えた。


 『河童族』は里があるので、この『魔境台地』に住むわけではないが、『ヤマダイ国』のメンバーになってくれて、協力してくれることになったことも伝えたのだ。


 農業の指導や養殖の指導なども頼んだのだが、快く了承してもらったのだ。

 今後、行き来をしながら、交流を深めることになる。


 彼らは、レベル40くらいの魔物が出てくる山の中腹で暮らしている種族で、戦闘力も高く、いざと言うときには『魔境台地』の防衛にも参加してもらえることになっている。

 そんな話も伝えた。


 皆驚きつつも、喜んでくれていた。


 まぁ『河童族』という種族に出会ったことだけでも驚きで、それ以降俺の説明は、大体の人間は消化しきれない情報となっていたようだ。まぁいいだろう。


 そんな話が落ち着いたところで、食事を始めようかと思ったら……ラッシュが立ち上がり、遠くの上空を見つめた。


 俺もその方向を見ると、遠くにあった点がだんだんと大きくなってくる。

 そして、どんどん大きくなる。近づいてきているのだ!


 『視力強化』スキルで確認すると……船だ!

 空飛ぶ船である。


 帆船が空を飛んで、やって来たのだ。


 そして船の甲板には……見知った顔がある。

 『勇者選抜レース』で第三位だったパーティーの勇者候補ミーアさんだ。

 俺は直接話をした事はないが、顔は見知っているのだ。


 他にも老婦人と、身なりのいい中年の男性が乗っているし、その後方にも何人かいる。


 ミーアさんがいるという事は、おそらくデワサザーン領からやって来たのだろう。

 そう考えると、おそらく身なりのいい男性は、デワサザーン伯爵ではないだろうか?


「クラウディアさん、伯爵が来たみたいですよ」


 ラッシュが言った。

 ラッシュは、俺と同じく『視力強化』スキルを持っているから、確認できたようだ。

 やはりデワサザーン伯爵だったようだ。


 飛行船はさらに近づいて、ゆっくりと下降してきた。


 警戒態勢をとっていたラッカラン隊長率いる守備隊に、警戒を解くように手で合図を送った。


 少しだけドスンという音を立てて、比較的静かに着陸した。


 着陸のときに、船の側面から足のようなパーツが左右三つずつ飛び出て、地面に接地して船を固定していた。


 船体からスロープが降りて来た。


 最初に降りてくるのは、デワサザーン伯爵だ。


「お父様!」


 クラウディアさんが改めて確認し、出迎えた。



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― 新着の感想 ―
[一言]  そういや水虎という中国から概念輸入されて河童と混同された結果、河童の異称だったり仲間だったり親玉(48匹の河童を束ねる)だったりする妖怪って居るのかな? 48匹の河童を束ねる親玉……KAP…
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