91.惨劇の始まり
『カントール王国』王都、王城の一画
国王により新たな『勇者』と認定された『優勝選抜レース』第二位パーティーの勇者候補だったジェイスーンは、心を躍らせていた。
いよいよ『北端魔境』に乗り込み、ヤマトから『聖剣 カントローム』を奪還するのだ。
王命で第一大隊も同行する。
「クックック、ヤマト、お前も終わりだ。聖剣は俺のものだ。陛下から賜ったこの『魔剣 時置』と俺の『縮地』スキルを使えば、ジャスティスの時のように、背後から刺せる。クックック」
ジェイスーンは、魔剣の力と自分のスキルの組み合わせにより、ヤマトを倒す完璧なイメージに酔いしれていた。
「勇者殿、腕がなりますなぁ。周辺の魔物とヤマトにつき従う目障りな者供は、我らにお任せを」
ジェイスーンに敬意を払うように声をかけたのは、第一大隊に同行する王国軍全体を束ねる大将軍モブドッグだった。
ただ、それは本当の敬意ではなく、保身のための“おべっか”でしかない。
この男は、上級貴族の出身でありながら、腰が低く力のある者にへつらう事を苦にしない、それが自分より身分が低い者でも関係ないのだ。ある意味、稀な能力の持ち主である。
大した能力もないのに、大将軍を任せられたのは、過去に何度か将軍を輩出している家名の力もあるが、この男の性格にも由来しているのである。
任命権を持つ国王はもとより、国の中枢の者たちとの人間関係でなし得た地位なのだ。
一部の兵士たちの間では、“腰巾着大将軍”などと揶揄されているが、ある意味優れた“ご機嫌取り能力”の持ち主なのである。
平時ならば、良く言えば調整型の能力を持つ大将軍も、ありだったかもしれない。
だが、戦時においては、人々に絶望的な状況をもたらすことになる。
「よし、モブドッグ大将軍、出発するぞ!」
ジェイスーンがそう言って、転移門のある建物に入ろうとした時、王城内に警鐘が鳴り響いた。
それは、敵襲を告げる警鐘音である。
「な、何事だ!?」
大将軍が驚き、部下の顔を見る。
部下たちは慌てて、事態を把握するために走りだす。
そこへ、大慌てて転がるように走り込んでくる兵士。
「大変です! 王都に魔物と思われる生物が現れています! 悪魔らしき者もいると!
王城内にも出現しているようです!」
「なんだと!」
兵士の一報に驚きの声を上げ、絶句する大将軍。
周囲の兵士たちにも、動揺が広がる。
「馬鹿な……まだ聖剣を手に入れていないというのに……」
ジェイスーンは、苛立ちの声を上げ拳を握りしめる。
「くそっ、急いで『北端魔境』に行くぞ! 大将軍」
ジェイスーンは、気を取り直し、大将軍に告げる。
その言葉は、いかに無能な大将軍であっても、耳を疑うような言葉であった。
この状態で、今から『北端魔境』に行くなどありえない。
戻ってくる頃には、手遅れになっている可能性が高いし、下手をしたら逃げ出したと思われる。
切迫した状況なのである。
「勇者殿、魔物や悪魔が襲って来ているのです。聖剣を取りに行っている間に、王城が陥落する可能性もあります……」
大将軍の言葉は、今のジェイスーンには全く響かない。
「王城が陥落しようとも、勇者である俺が無事で、聖剣さえ手に入れれば問題ない! 要は、魔物と悪魔を倒せばいいのだ!」
なかなかうまく話をしたと、ジェイスーンは満足していた。
もちろん、本当にそう思っているわけだが、もう一つ考えていたのは、消耗戦を避けたいということだった。
聖剣を奪いに行っている間に、王国軍や騎士団が奮戦し、敵の数を減らしておいてくれるはず。
最後に美味しいところを持っていくのが、勇者にふさわしい。
そんな自分勝手なストーリーを描いていたのだった。
「しかしそれでは、陛下や宰相閣下に、万が一のことがあるかもしれません!」
なおも食い下がる大将軍。
「避難シェルターがあるだろう! それに万が一があったとして、王族の血筋はいくらでもいるだろ!」
ジェイスーンのあり得ない発言に、さすがの大将軍も眉をひそめる。
彼とて、心から国王に忠誠を誓っているわけではない。
それでも、今のジェイスーンの発言は、あってはならない発言だった。
普通なら不敬罪で死罪になる発言である。
「勇者殿! 我々の仕事は陛下を守りすることです!
それに、陛下から賜ったその魔剣があれば、魔物も悪魔も倒せるはずでしょう!?」
大将軍は、たまらず声を荒らげた。
そして彼の言っていることは、筋が通っている。
魔剣とスキルで、中級悪魔を退けたヤマトを倒せる自信を持っているならば、聖剣に頼らなくても魔物など倒せるはずなのである。
だが今の大将軍の発言は、ジェイスーンをいらだたせた。
ジェイスーンは、大将軍を睨み付け、剣に手をかける。
「勇者殿、お待ちください! この状況で、一個大隊を『北端魔境』に送るわけにはいきません! 王城、そして陛下を守りすることが最優先です!」
叫びながら走ってきたのは、宰相だった。
「宰相! だが聖剣がなければ——」
「であれば、お一人で行ってください! 第一大隊は、至急王宮本殿に行け! 陛下をお守りするのだ! 王命である!」
宰相は、ジェイスーンの抗議を遮るように、大声を張り上げた。
「はは」
モブドッグ大将軍は、すぐに返事をし、大隊を動かした。
「くそっ、俺一人で『北端魔境』に行けるわけねーじゃねーか!」
ジェイスーンは、臍を噛む。
「うふふふふ。元気そうね、ジェイスーン」
そんな言葉とともに、気配もなく現れたのは、ユーリシアだった。
元勇者パーティーのヒーラーで、聖女とも言われていた者、そして悪魔契約者である。
「お前は、ユーリシア! この襲撃は、お前の仕業か!?」
「あらあら、怖いのね。一端の勇者気取り?」
——グサッ
「うぐぅ……」
突然、ジェイスーンは動きを止めた。
いや動けなくなったのだ。
口から血を吐き、激痛の中で視線を下げると、自分の腹から剣が突き出ている。
突然後ろから腹を刺されたのだ。
「うぐぅ」
その剣を引き抜かれると、また口から血があふれた。
痛みに耐えながら、ゆっくり振り向くと、そこにはなんと……ジャスティスがいた。
「お、お前……どうして……なぜ生きている? 俺が殺したはず……」
声にもならない声を、振り絞るジェイスーン。
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