83.達人級のたたずまいのおじいさん
俺たちの前に突如として現れた人たちは、人族や妖精族ではなく、『河童族』だった。
『河童族』という種族は、初めて見る。
存在は確認されているが、『カントール王国』ではほとんど見ることがない、幻の種族だ。
妖精族に近い感じで、縁のない種族と言える。
「お前たち、何者だ!? ここから上は、我ら『河童族』の支配領域だ! すぐに立ち去れ! さもなくば、容赦はせぬぞ!」
威嚇を込めて誰何してきたのは、黒髪を長く伸ばしためっちゃ色っぽい女性騎士だ。
騎士と言ったのは、その纏っている雰囲気だけではなく、ある生物に騎乗しているからだ。
「あの騎乗生物は……カッパル? という事は……河童族?」
クラウディアさんが、そんな声を漏らした。
博識な彼女は、騎乗生物との関係から『河童族』だと見当をつけたようだ。
まぁ彼女の持っている『小剣者』を使えば、俺と同じように『アナライズ』機能を使って、ステータスを見ることもできるのだが、それはやっていないようだ。
『カッパル』という騎乗生物は、『河童族』と同様に普通では出会うことがない極めて珍しい生物である。
大きなトカゲのような四つ足の体で、背中に亀の甲羅のようなものを付けている。
口が鳥のクチバシのようになっていて、頭には大きな皿のようなものが乗っているのである。
『カッパル』は、『幻獣』と言われる特殊な生物でもある。
この世界には、通常の生物のほかに、通常生物が大量の魔素浴びて変質した『魔物』と、大量の霊素により覚醒した『霊獣』という生物がいる。
また聖なる生き物として『聖獣』もいると言われている。
あと、極めて稀に、通常生物が大量の魔素を浴びても、『魔物』化せずに、踏みとどまった『魔獣』という存在もあると何かで読んだ記憶があるが、これはごく例外のようだ。
『魔物』はよく目にするわけだが、『霊獣』は希少である。
『霊獣』は、ごく稀に人族の住む場所にも現れることがあり、言葉を話すとも言われている。
『聖獣』は、『聖域』と言われる場所にいるらしく、実物を見たものは、ほとんどいない。
伝説上の生き物と言っていい存在だ。
それらとは別に存在している『幻獣』は、かなりレアな存在である。
『聖獣』ほど出会うのが難しいわけではないが、存在自体が稀で、数も非常に少ないと言われている。
『カッパル』以外に有名な『幻獣』と言えば、『ツチノコ』であるが、その他には思い浮かばないくらい少なかったはずだ。
『カッパル』は、しばしば『河童族』と混同されることもある。
『河童族』が『カッパル』を使役するとされていることから、いくつかの物語などでは、混同されて描かれていたりするのだ。
結びつきが深い故のことだろう。
おっといけない、ついそんな思考が駆け巡り、返事が遅くなった。
「すみません、私たちは魔物狩りをしていただけです。
あなたたちの支配領域だとは知りませんでした。
この山に住んでいることも知りませんでした。
無断での立ち入りをお詫びします」
俺は、謝った。
まさか『河童族』が住んでるなんて思わなかったし、相手の立場に立ったら、いきなりわけのわからない奴らが里に近づいて来ている状況だから、警戒するのも無理はない。
俺の言葉に、先程の女性騎士は、部下らしき者と話をしているが、警戒を解いてくれる感じは無い。
さて、どうするか……。
おや、後から猛烈な勢いで『カッパル』が走って来た。
上には……白髪白髭のヨレヨレな感じのおじいさんが、何故か正座で座っている。
しかも手綱とかを持たずに、甲羅の上に乗った座布団の上に正座をして、お茶を飲んでいるのだ。
何この人!?
激しく揺れているはずなのに、それを感じさせず平然とお茶をすすっている。
もしかしたら、凄い達人なのかもしれない。
そして騎乗していた『カッパル』は、俺の前で土煙を上げながら急ブレーキで止まった。
横向きで止まったのだが、甲羅に乗っていたおじいさんの座布団がくるりと四分の一回転して、俺の方に向いた。
凄! これだけでも、達人級の動きだとわかる。
「おぬしが、この魔境に住みつこうとしておる人族じゃな?」
おじいさんは、座布団の上に正座したまま、淡々と問い掛けてきた。
「はい、私はヤマトと申します。
この山の南側にある台地に住もうと思っています。
この山に皆様が住んでいるとは知らず、大変失礼しました」
俺は挨拶し、非礼を詫びる。
「それは良いのだが、なぜにここまで来た?」
「はい、実はレベル上げをするために、周辺の魔物狩りをしていました。皆様の領域とは知らず、踏み入れてしまったのです」
「なるほど、そういうことか。まぁそれは、いいじゃろう。
ところで、先日出現した悪魔を倒したのは、おぬしじゃな?」
「はい。ご存知なのですか?」
「そりゃそうじゃ。我らの領域の膝元だからのう。
人族よ、いや、ヤマトとやら、なぜわざわざ魔境に住むのじゃ?
魔境に住むと言うからには、それなりの力を持っているのだろう?
その力を使えば、国を取ることもできるのではないか?」
おじいさんは、相変わらず淡々とした感じで訊いてくる。
「今ある国を、どうにかしようとは思っていません。ただ私は、のんびりと生きる場所が欲しかっただけです」
「ほほう、のんびりと生きる場所か……面白いのう」
「ただ私の思いとは裏腹に、先日は悪魔が出現しましたし、残念ながら『魔王』の『称号』を得た者もいます。
それを倒さなければ、のんびりと生活などできないと思っています」
「ふっはっは、面白い! のんびりと生活するために、真逆のことをするわけじゃな。面白いのう。
だがなぜに、おぬしがそんな大変な役目を引き受ける?」
「……そうですね……私の得た力というか、私が持っている力は、『日曜神テラス』様から与えられたものです。
その力は、力なく虐げられる者を救うために使いたいと思ったのです。
私自身が、国から捨てられ追放された身ですから……」
俺は、少し自虐を含めて言った。
「ほほう、国から捨てられたとは、面白い男じゃのう。
そしておぬしの力の源は、テラス様か。テラス様は、我らも信仰している素晴らしい神様じゃ」
「そうなんですか。テラス様から力をいただくときに、私の下に集う者たちをどうすると問われ、家族として大切に守ると誓いました。
そのために、この西側の台地に国を作ろうと思っています。
了承いただけないでしょうか?」
「ふっはっは、ワシに了承を求めるのか?
そんな必要はない。
我らの領域を犯さなければ、それでいい。
この魔境は誰のものでもないからのう。
おぬしが国を作っても、責めるものなぞおらん。ふっはっは」
おじいさんはそう言うと、豪快に笑った。
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
「ふっはっは、面白い。おぬしを気に入ったぞ。よろしく頼むわい。名乗りが遅れたのう。ワシは、『河童族』をまとめる族長ドキアじゃ」
おじいさんはそう言って、俺に手を差し伸べた。
やはり族長だったようだ。
そして、握手をしてくれるということのようだ。
俺も手を差し伸べ、握手を交わす。
——パチンッ
おお、なんだ!?
握手した瞬間、静電気のようなものが、体を駆け巡った。
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