76.初の本格的な移住者たち
守護屋敷で、守護に言いたいことを言った俺は、書状を渡して立ち去った。
その帰り道で、先導してくれている衛兵に案内され、路地裏に入った。
そこで待っていたのは、前に助けた衛兵小隊の小隊長さんだった。
名前は確か、ラッカランさんだ。
「ヤマト殿、よかったぁ、お会いしたかったのです」
ラッカランさんは、そう言って俺の手を握り締めた。
なんかすごい歓迎ムードだ。
そして男性に、熱く手を握られるのも、少し微妙だ……。
「いやぁ、実はヤマト殿に頼まれた通り、密かに移民を募っておりました。
そして、希望者が集まり、準備も整ったので、どうにかしてヤマト殿に連絡を取りたいと思っていたところなのです」
おっと、確かに移民募集のお願いをしていた。
そして、どうやって連絡を取るかとかいう事は、何も詰めていなかった。
望み薄と思っていたが……希望してくれた人がいたということか。
嬉しい限りだ。
「ありがとうございます。じゃぁ移民希望の方がいるんですね?」
「はい、そうです。実は……この街にいてもしょうがない、新天地を求めたいとの思いを抱いている者は、初めから結構いました。
ただそうは言っても、魔境で暮らすのは、かなりみんな不安が大きかったようです。
ですが、我々を助けてくれた後に、二度の軍の出兵があって、二度ともヤマト殿が退け、逆に魔物や悪魔から兵士たちを助けたという話が広まっているのです。
それもあって、皆決断してくれました」
「そうだったんですか。ところで何人ぐらいですか?」
「五十六名です」
「五十六名ですか!? この街の人口の半分ぐらいになりますよね?」
「はい、そうなります。それで、実際どうやってヤマト殿の暮らす場所まで行くのか、ご相談したいのですが?」
「そうですね……それだけの人数が目立たずに動くとなると、やはり夜がいいですよね……」
「はい、昼動けば確実に目につきますので」
「それでは夜に、どこかから外壁を乗り越えて、魔境に入ってもらいます。壁を乗り越える手段は、ありますので」
『オートホース』を使って、ピストン輸送で壁を乗り越えればいい。
「いいえ、その必要はありません。もし今夜であれば、我々第一小隊が北門の門番です。密かに門を開放して、出ることができます」
なるほど。それはいい。
「では今夜実行しましょう」
「夜に魔物の領域を進むのは、かなり危険と思うのですが、大丈夫でしょうか?」
「それなら問題ありません。皆さんを輸送できる特別な戦車がありますから」
「ほんとですか? 五十人も乗れるのですか?」
「ええ、大丈夫です」
人員輸送用の戦車は、五十人分ぐらいの座席があるし、もう一台のマルチ輸送戦車は、席数が半分だが、その分荷物を置けるようになっている。
俺は、そんな特別な戦車があることを説明し、ある程度のものなら荷物も運べると説明した。
もちろん『大剣者』の『亜空間収納』があるから、巨大な物でも運べるのだが、それは一応秘匿しておく。
「分りました。では、皆が寝静まる十時くらいが良いかと思います」
「はい、そうしましょう。北門の前でお待ちしています」
俺はそう言って、固い握手を交わした。
そして、別れた。
思わぬ朗報だ。
移民してきてくれる人が、五十六人もいるなんて。
ちょっとだけ国らしくなった。
というか、村レベルだが。
◇
約束の時間になり、北門の外で待っていると、門が開き大勢の人たちが出て来た。
すごいな。
改めて人数を目の当たりにすると、変な実感がある。
ただ、感慨にふけっている暇は無いので、早速馬車に入ってもらう。
中が五倍に拡張されているので、皆驚いているが、お構いなしにどんどん入ってもらった。
一部の人が飼っていた家畜の鶏やヤギも連れて来てくれたので、マルチ輸送戦車に入れた。
ラッカランさんと打ち合わせをしたときに、動物がいたら運べるから連れてきてほしいとお願いしてあったのだ。
鶏は二十羽ほどで、ヤギは三頭だが、全くいないよりはいい。
速やかに人々と物資の積み込みを終えて、出発した。
ちなみにここに来ているのは、俺とラッシュだけだ。
他のみんなは、『魔境台地』で受け入れ準備をしてくれている。
少しして、『魔境台地』に着いた。
ここまでの道中で、もちろん魔物が襲ってきたりしたが、すべてラッシュが倒してしまった。
『魔境台地』に着いたのはいいが、この人数では、断崖の上の台地に上がるのが結構大変だ。
戦車は空を飛べないから、三人ずつ『オートホース』に乗せて、ピストン輸送で運ぶしかない。
ちなみに戦車や『クマゴロウ』たちは、一旦『大剣者』の『亜空間収納』に回収してしまえば良いので、釣り上げる必要は無い。
今後、この断崖に緩やかな接続道を作るつもりだ。
断崖の上の台地から、なだらかな坂道で地上まで道を通すのだ。
これがあれば今後、馬車等が通行することができる。
もちろん切り立った断崖に道を作るという事は、せっかくの断崖としての防衛機能を半減させてしまう。
だが、人が増えた以上、やはり道は必要と考えた。
その分当初予定していたように、断崖の上に改めて外壁を立てれば問題ないのだ。
また断崖の周囲には穴を掘って、掘を作るつもりだ。
断崖に、直接取り付くことができない構造にするのだ。
これによって、仮に敵が攻めて来たとしても、断崖に接続している坂道を登ってくるほかなく、逆に迎撃しやすい状態になるだろう。
少しして、『オートホース』でのピストン輸送が終わり、『魔境台地』の断崖側に全員を運び終わった。
ここから生活スペースとなっている奥側、北側にある丸太小屋のところまでは、かなり距離があるので、改めて戦車で輸送した。
まだ家はないから、今日はとりあえずテントを張って寝てもらうことになる。
野宿みたいな感じになるが、みんなそのつもりで来てくれたらしく、なんだか楽しそうに準備をしてくれた。
テントを持って来てくれた人も、多いのだ。
今日は、一旦休んで、明日ゆっくり今後の話をしようと思う。
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