73.悲鳴の主は、妖精族の少女
俺は、悲鳴が聞こえた方角に急行した。
悲鳴の主は、すぐにわかった。
なんと小さな女の子だった。十歳くらいの女の子だ。
魔境に、こんな小さな女の子が一人でいるなんて……。
だが驚いている暇はない。
狼魔物の群れが、取り囲んでいるのだ。
女の子は、弓で応戦したらしく、何体かの狼魔物が倒れている。
だが、女の子も手と足から血を出している。
「オートホース、蹴散らせ!」
——ヒヒィィィン
俺は、『オートホース』に攻撃の指示を出して、ラッシュとともに飛び降りた。
暗黙の役割分担で、俺が女の子のもとに駆け寄り、ラッシュは狼魔物に突っ込んだ。
俺は、すぐに女の子に『光魔法——光の癒し手』を発動して、回復する。
ラッシュは、新装備の『小剣者』と『笹穂剣 トンボ』を使い、瞬く間に、狼魔物を斬り倒している。
『オートホース』も、襲ってくる狼魔物を蹴り倒している。
俺は、ラッシュと距離がある狼魔物を『光魔法——太陽光線』で狙撃して、瞬殺した。
二十体以上いた狼魔物を、あっという間に殲滅してしまった。
それにしても、よくこれだけの数に囲まれて、無事でいたものだ。
まぁ怪我をしていたので、無事でいたというわけではないが、命を落としていてもおかしくない状況だった。
「あの、ありがとなのです」
赤髪の女の子が、ほっとした表情でお礼を言ってくれた。
「危ないところだったね。一人なの? どこから来たの?」
「えっと、一人で薬草探ししてたら、いつの間にか遠くに来ちゃって、気がついたら魔物がいっぱいいたのです」
一人で薬草探し……もしかして……?
「この近くで暮らしているのかい?」
「そうなのです。あの山に住んでいるです」
彼女が指差した方向には、大きな山が見える。
ほんとに魔境に住んでいるようだ。
あの山なら、遠くない。
「じゃぁ、そこまで送ろうか?」
「いいのです?」
「ああ、かまわないよ」
「ありがとなのです」
「マスター、この子は、人族ではありません。妖精族の『ノッカー』です」
『大剣者』が『アナライズ』を使ったようで、教えてくれた。
「君は、妖精族の子かい?」
「そうなのです。『ノッカー』のマイニング氏族のキュキュなのです」
「そうなんだ。キュキュちゃんは、いくつなの?」
「十歳なのです」
やはり十歳なのか。
妖精族とは言え、子供が一人でいるのは、ほんとに危険な場所だ。
「じゃぁ送って行こう」
「ありがとなのです」
キュキュちゃんは、笑顔を作った。
『小剣者』の通信機能で、クラウディアさんに連絡したところ、すぐ近くまで来ていたので、少し待って合流することにした。
少しして、合流して、キュキュちゃんを送るために出発しようとしていたところ、俺たちは、キュキュちゃんの里の者らしき人たちに、包囲された。
実は、事前に『大剣者』が検知して警報を発していたのだが、あえてそのままにしたのだ。
遠巻きに包囲しながら、矢をつがえている。
「キュキュちゃん、お迎えが来たみたいだね」
俺がそう言うと、キュキュちゃんはコクリと頷いた。
「じじ様、いるのです? この人たちは、キュキュを助けてくれた人たち! だから攻撃しちゃダメなのです!」
キュキュちゃんが、力いっぱい声を張り上げた。
その声に応えるかのように、小柄なあご髭を蓄えた老人が、ゆっくりと歩み出てきた。
「じじ様!」
キュキュちゃんが走る寄り、抱きついた。
そして、事情の説明をしてくれているようだ。
おじいさんは、状況を理解してくれたらしく、周囲の森に潜んでいる人たちに向けて手を挙げた。
攻撃態勢を解けという合図のようだ。
そして俺のほうに、ゆっくりと歩いて来る。
「私は、キュキュの祖父ガガンと申します。妖精族の『ノッカー』のマイニング氏族をまとめている者です。孫娘を助けていただき、感謝いたします」
おじいさんは、丁寧に挨拶をしてくれた。
どうやら族長さんのようだ。
妖精族は、基本的に人と関わらない種族とされている。
一部には、人を見下しているのではないかとも言われている。
西の大陸の方では、妖精族を崇拝するところも多いらしいが、この国では、そこまでではない。
だが神秘的な種族とはされていて、魔法能力などにも長けていることから、怒らせると危険な存在とも思われている。
それ故に、積極的に関わろうとする者は、ほとんどいないのだ。
実際、妖精族と関わる機会など迷宮ぐらいしかない。
迷宮には、冒険者として、妖精族が訪れることがあるのである。
それ以外の場所で妖精族と出会う事は、まずないのだ。
ただ妖精族は、見た目はほとんど人族と変わらないので、普通に暮らしている分には、わからない可能性が高い。
実際には、人族の街に紛れて暮らしている者もいるかもしれない。
『鑑定』スキルでもない限り、わからないだろう。
「たまたま近くを通りかかって、悲鳴が聞こえたので来たのです。間に合ってよかったです。私は、ヤマトと申します」
俺も挨拶を返す。
「ヤマト殿、もしや、あなたがこの魔境に住むという人族の方ですか?」
おっと、なぜそのことを知っているのだろう?
「はい、そうですが……なぜ知っていらっしゃるのですか?」
「我らの近くで起きる事は、だいたい把握しております。中級悪魔を倒したのも、あなたですな?」
「ええ、一応……」
「ふっはっは、人族の身で中級悪魔を倒すなど……面白いですな」
族長さんは、なぜか愉快そうに笑った。
「我々『ノッカー』は、妖精族仲間からは、“人見知りの引きこもり”なんて言われております。じゃが、周辺情報はちゃんと把握しております。ふっはっは。
孫娘が申したかもしれませんが、あの山に里があります。
我々は、山で暮らす山妖精、特に鉱物を掘るのが大好きでしてな。
いずれまたご縁があれば、招待いたしましょう。
今日のところは、ここで失礼させていただきます」
「あ、はい、ありがとうございます」
ほんとに招待してくれるのかな?
少し楽しみだ、いや、かなり楽しみだ。
「あぁ、いかんいかん、忘れるところじゃった。大事な孫娘を助けてもらった礼をせねばならん。これを受け取ってくだされ」
そう言うと族長さんは、大きな板を取り出した。
なんだろう……この板?
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