71.悪魔出現の余波
王都、十神教会総本部、教皇の間
「『光の聖者』の『称号』など、あるはずがない! 現に何の神託も降りておらぬ」
王城にもたらされた情報を、独自の手段で入手した教会幹部の報告に、教皇が吐き捨てるように言う。
「ですが猊下……」
「『聖者』の出現などあるはずがない。正式な『聖女』の出現の神託すら降りていないというのに」
再度吐き捨てる教皇。
「猊下、巫女長フィルミーヌ、まかり越しました」
「おお、巫女長、待っていた。改めて問う。『聖者』出現の神託は降りていないのだな?」
「はい、降りておりません。最近の神託は、約一年前の魔王出現の神託のみです」
「そうか。諜報担当の報告では、『勇者の可能性』であったジャスティスが『魔王』になったとの事だが、そんな事はあり得るのか?」
「分りません。そんな神託は降りておりませんし、普通であれば『勇者の可能性』が魔王化するなど、あってはならぬことです」
「そうか。どう考えたものか……」
「猊下、『聖者』の『称号』が確かかどうか、ヤマトに会って確認しなくてよろしいのでしょうか?」
そばに控えていた司祭長が口を挟むが、教皇は露骨に不愉快な表情を作る。
「何を馬鹿なことを。その者は、罪人として『北端魔境』送りになった者だろう。確認する必要などない。何よりも我々は、神の使徒。そんな重要なことがあれば、神託が降りるはず。無駄な事は、する必要無い」
教皇の強硬な主張に、周りの者は、頷くほかなかった。
「何が神の使徒ですか。神を侮っているくせに。神がこの腐った組織を愛でるとでも思っているのか……全く嘆かわしい」
教皇の間を後にした巫女長フィルミーヌは、つい本音を吐露してしまったのだった。
もちろん、誰にも聞かれていないが。
少しして……十神教会総本部、厩舎前
「フィルミーヌ様、それでは行って参ります」
巫女長フィルミーヌに元気よく挨拶したのは、見習い巫女ナナリーであった。
「気をつけて行くんですよ。サザリー、ナナリーのことを頼みますよ」
「はは、お任せ下さい」
キリリとした表情で、胸に手を当てたのは女性神殿騎士のサザリーだ。
これからナナリーと共に、旅立つのである。
ナナリーに密かに降りた神託を果たすために。
目指すは、北だ。
◇
王家直轄領の一つ北前領、王国最果ての街『ショウナイの街』、とある場所
「みんな、そんな感じで準備しといてくれ。本当に、よく決断してくれた」
集まっている住民の有志に声をかけたのは、衛兵隊の第一小隊隊長のラッカランだ。
彼は、魔境でヤマトに命を救われた小隊の隊長である。
ヤマトに託された頼み事の一つである移住希望者の募集を、密かに数日かけて行っていたのだ。
その間に、二度の王国軍の出兵があり、二度ともヤマトが撃退、初回には、軍を魔物の群れから救い、先日は現れた悪魔を倒した。
そして瀕死の兵士たちを救った。
この話は、もう街中に広がっていた。
悪魔討伐の話に至っては、エドガー将軍が帰り際に、大きな声で街中に吹聴していたのだ。
そんなヤマトの活躍は、即席の英雄譚のようにすらなっていた。
そんなこともあり、新天地に行きたいと希望しつつも、魔物の領域で暮らすことに不安を覚えていた人々に、強い確信を与えていたのだ。
この見捨てられた街に住むよりも、魔物の領域であってもヤマトの下で暮らしたほうが安全であると。
そして、人らしく生きられるのだと。
そうして、移住を希望する者たちの密かな集まりができていた。
まとめる中心的な役割を、ラッカラン小隊長が担っていたことも大きい。
彼は、この街の住民の多くに信頼をされている。
そんな人物だったのだ。
「何とかしてヤマト殿に連絡を取りたいが……そのためには、彼がいるであろう奥地までいかねばならない。私がなんとかするから、皆はいつでも旅立てるように、最善の準備を頼む」
ラッカランは、そう声をかけ、席を立った。
◇
『北端魔境』のとある場所
「族長、間違いありません。この魔境に悪魔が出現したようです。
しばらくして反応が消えましたので、何者かが討伐したと思います」
「そうか。……それで、やはり人族が住みつこうとしているのか?」
「そのようです。おそらく、その者が悪魔を倒したのでしょう」
「人族が悪魔を倒したのか……。まぁ人族でありながら、この魔境に住むと考える時点で、それなりの力を持った者なのであろうが。
本当に、この魔境に住もうとする人族が現れるとは。
これは喜ぶべきことか、忌むべきことか……」
「族長、これからどうなるのでしょうか?」
「さて、神のみぞ知るだが……この魔境に大きな変化が訪れるのは、間違いないだろうのう。面白くなりそうじゃわい」
族長はそう言うと、引き続き周辺情報の取得を、部下に命じたのだった。
◇
『北端魔境』にある、とある山
「おお、戻ったか。それで、やはり悪魔が現れた痕跡はあるのか?」
調査に出した部下の報告を急かすのは、山で採掘をしながら暮らす妖精族『ノッカー』のマイニング氏族の族長であった。
「はい。おそらく間違いないでしょう。ですが、すぐに倒されたようです」
「倒したやつは、何者じゃ」
「人族のようです。そしてどうやら、魔境に住むつもりのようです」
「ほほう、それは面白い。何か特別な力を持った者やも知れぬ。まぁ我らには、関係ないがの」
「はい。ただ、引き続きの調査は怠らぬようにしておきます」
「うむ、頼む」
「父様、キュキュがいないの!」
慌てて飛び込んできたのは、族長の娘のラキュだった。
「また遠くまで遊びに行っとるだけじゃろ」
「それならいいんだけど、悪魔が現れたんでしょう?
この魔境自体が、ざわついている感じがするの。何か嫌な予感がするのよ!」
勘の鋭いラキュの言葉に、族長も、深刻に考え始める。
「そうか……。わかった、手の空いてる者は、すまんがキュキュを探してくれ」
「はい、分りました」
『ノッカー』の里から、慌ただしく捜索の手勢が出て行った。
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