70.国を憂う者たち
王都、元大将軍ルブランド・モーリス侯爵邸
「エドガー、アガサ、よく来たなぁ」
訪れたエドガー将軍と情報館のアガサを満面の笑みで出迎えたのは、彼らを見いだした元大将軍ルブランド・モーリス侯爵だった。
モーリス侯爵家は、代々将軍を輩出する武門に優れた家系であり、領地こそ持たないが王都の貴族社会のみならず地方貴族にまで影響力を持つ上級貴族である。
そして大将軍として尊敬を集めていたモーリス侯爵は、現役を退いた今も、大きな影響力を持つ実力者であった。
「“よく来たな”じゃねーよ、昨日も来たんだけど。どこ行ってたんだよ?」
わざと悪態をつくエドガー。
「すまんのう。ちょっと出かけるところがあってな。ワシもいろいろ忙しいんじゃよ」
「相変わらず、お元気そうで良かったです。現役復帰したほうがいいんじゃないですか?」
普段真面目なアガサが、イタズラな笑顔を作る。
「ガッハッハ、やっとストレスなくのんびり生きてるんだ、現実に引き戻すでない」
豪快に笑うモーリス大将軍だが、その瞳には、まだ現役の眼光の鋭さを残している。
「エドガー将軍、お久しぶりです」
そう言って声をかけてきたのは、先客のランドルだった。
「おお、ランドル、お前が来てるとは、これも何かの計らいか?」
エドガーがそう声をかけたのも無理はない。
彼は、最初にジャスティスとともに『北端魔境』に出向いた特務中隊の隊長なのである。
「どうやら、ここに来た目的は同じみたいですね」
意味ありげに笑うランドル。
「エドガー、ランドル、改めて『北端魔境』であったことを、教えてくれるか? 直に見たお前たちの口から聞きたい」
待ち切れないとばかりに、元大将軍モーリスが応接室に誘う。
「……なるほど。そんなことがあったのか。
中級悪魔をよく倒したものだ……。
そして陛下の反応が、そんな風だとはな。
まぁ予測できたことではあるが……」
モーリスは、深いため息をつく。
「全く以て、やんなっちまうぜ。あそこで陛下に暴言を吐かないで出てきて俺は、だいぶ成長しちまったなぁ、ハハハハハ」
自虐的に笑うエドガー。
「ほんとだな。今までのお前なら、悪態をついて不敬罪で投獄されてるところだな。ガッハッハ」
モーリスも愉快そうに笑う。
「モーリス閣下、この国は一体どうなってしまうのでしょう?」
情報官アガサが、真剣に問う。
「相変わらずお前は真面目だな。まぁ心配になるわなぁ。だが……なるようにしかならん」
「そんな、閣下」
「あの国王では、何を言っても無駄じゃ。そして軍人は国、国王の命に従って動かねばならん。悩むだけ無駄だな。どうにかしたいと真剣に考えるなら、軍事クーデターでも起こすしかないぞ、ガッハッハ」
「そんな……」
「閣下、相変わらず過激ですな」
アガサは涙目になり、ランドルは少し呆れ気味に言う。
「相変わらずだな、このクソじじいは。相談に来たかいが、まったくねーじゃねーか!」
エドガーは、ニヤけながら悪態をつく。
「ちょっと将軍、“クソじじい”はダメですよ! 本人に向かって」
慌てて将軍の口を塞ぐアガサ。
「ガッハッハ、どうせワシのいないところで、いつもクソじじい呼ばわりしてるんじゃろ。そんなことは、分かっとるぞ!」
「このまま見てるしかねーのか?」
モーリスのツッコミを無視して、エドガーが尋ねる。
「そうじゃのう……これから大きな動乱が起きるだろう。お前たち、改めて決めておけ。この国を守るのか、それとも民を守るのか」
「決めるまでもねぇ。今のこの国はクソじゃねーか! 俺が軍人やってんのは、初めから国を守るためじゃねえ、力のない者を守るためなんだよ」
エドガーは即答した。
「ガッハッハ、相変わらず、いい青臭さをしてるのう、エドガー」
「閣下、私も国など、もはやどうでもいいです。軍人の責務は、民を守ることだとあなたに教わりました」
ランドルも、気持ちは決まっているようだ。
「私も、人々のために行動すべきと考えています」
アガサも、生真面目に宣言する。
「そうか、では決まりだな。国つまり国王陛下よりも、民の安寧に重きを置くということだな。
いいじゃろう。
いつ魔王や悪魔が襲ってくるかわからん。
お前たちの部隊は、常に動けるように準備しておけ。
物資も十分に備えておくのだ」
「ああ、わかってる。で、実際どうするんだよ? 国の決定を無視して、独自に動くってことか?」
「そう焦るな。いざというときの準備をしておけと言うことだ」
「閣下、ヤマト殿の事は、どうされますか? 本来なら国が頭を下げて、魔王討伐の助力を願い出るべきと思いますが?」
アガサの問いに、腕を組み目を閉じるモーリス。
「難しい問題だな。直接会ってないから、判断しにくいが……仮に自分がその立場だとして、お前たち自分を見捨てた国を助けるか?」
「それはそうですが……『光の聖者』という『称号』があるくらいですから、お願いすれば……。軍の負傷した兵士も助けてくれましたし……」
アガサが、切実な表情で主張する。
「ああ、俺の特務中隊が行った時も、魔物に襲われているところを助けてもらった。そんな義理なんてないのに」
ランドルも、アガサに追随する。
「まぁ“お人好し”的には見えたが……実際はどうだろうなぁ?」
エドガーは、渋い顔をつくる。
「おそらくじゃが……か弱き人々を救う事は、やぶさかでは無いのだろう。
だが、結果としてこの国を救うことになるのは、面白くないのではないかのう。
頼むにしても、まずはこちらから、何かを差し出すべきだろうな」
モーリスは、意味ありげに微笑んだ。
そんな時、扉をノックする音が響く。
「旦那様、おいでになられました」
「そうか通せ」
モーリスは、執事の報告にニヤッと微笑み、すぐに答える。
「客か? じゃあ俺たちは引き上げるか」
席を立とうとするエドガーを、モーリスは手で静止した。
「いいのだ。お前たちの話を聞かせるために、呼んだ人物だ」
「失礼いたします。デワサザーン伯爵家の王都邸を任されております執事長のホンマーと申します」
「わざわざ呼び出してすまない。デワサザーン伯爵の御息女クラウディア嬢の事は聞いている。
端的に言う。
ここに呼んだのは、今回の『北端魔境』での悪魔出現の知らせを受けた国王陛下が、どういう考えでいるかについて、お主に伝える為だ。
その情報を、デワサザーン伯爵とクラウディア嬢に伝えてもらいたい」
モーリスは、伝書鳩の魔法道具を使い、速やかに連絡を取り合えることを見越しているのである。
「はは。ありがたきお気遣いでございます。必ずや速やかにお伝えいたします」
そう言って頭を下げる執事長ホンマーに、国王とのやりとりが語られた。
「……そうですか。私などが意見を述べる立場ではありませんが、厳しい状況ですな」
ホンマーは、冷静を保ちつつも、自然と眉間にシワを寄せていた。
「そうなのだ。お主の口から言えることではないと思うが、デワサザーン伯爵はどう出ると思う?」
モーリスは、答えられないとわかりつつ、少し茶目っ気を乗せて尋ねる。
「それは、私などがお答えすることではありません」
「まぁそうだわな。デワサザーン伯爵に、私からの伝言として伝えてくれ。“考え”は同じだと。これでわかるはずだ」
「はは、かしこまりました」
この後、しばらく意見交換が続き、それぞれが、それぞれに動き出すのであった。
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