61.崩壊に向かう愚かな決断
三人称視点です。
王都、王城、謁見の間
「エドガー将軍、その報告は本当なのか!?」
もたらされた驚愕の知らせに、うろたえ、声を震わせる国王。
「はい、陛下、本当です。
勇者ジャスティスは闇に落ち、『魔王』の『称号』を得ていました。
そしてあの聖女と言われたユーリシアが画策していたようです。悪魔契約者だと自ら言っていました。
そして実際に、下級悪魔さらには中級悪魔まで召喚致しました」
「なんということだ。だが魔王になったジャスティスは、ジェイスーンが倒してくれたのだろう?」
「はい陛下、私が確かに倒しました。ご安心ください」
エドガー将軍の報告に、どうしても同席すると言い張ったジェイスーンが胸を張る。
隣で顔をしかめるエドガー将軍。
「おおそれは何より。良くやった。魔王を倒したそなたこそ、真の勇者である」
「ありがたきお言葉、このジェイスーン、この身をかけまして勇者の使命を全う致します」
ジェイスーンは声を弾ませる。
そして密かにほくそ笑む。
この時を待っていたのだ。自分が勇者となる時を。
おまけに、あのジャスティスが魔王になってくれたお陰で、それを討伐した英雄になるのは間違いない。
こぼれ出る笑みをこらえるのに必死だった。
「お待ちください陛下。ユーリシアの話しぶりからして、ジャスティスは死んでいない可能性があります。現にジャスティスを連れて転移しています。このまま終わるとは思えません」
「それは、確かなのか?」
「実際に死んだか、生きているかは分かりません。
ですが、魔王というのは特別な力を持っているはず。生きている可能性があると考え、対策を練るべきかと」
「そうか……であればなおのこと、勇者が必要である。
仮に死んでいなかったとは言え、一度は致命傷を与えたジェイスーンに勇者を引き継がせ、民の希望とする。
それしかあるまい」
国王の考えは、ある意味理論的な選択ではあるが、ある意味絶望的な選択でもあった。
勇者としての素養に欠けるジャスティスを勇者として認定した反省が、どこにもない。
同様な気質を持つジェイスーンを問題なく勇者と認定しようとするこの決断が、民に希望を与えるどころか、不幸をもたらす結果となる。
エドガー将軍の心では、そんな絶望的な思考が巡っていた。
つくづく嫌気が差し、放り出してこの場を立ち去りたい気持ちを何とか押さえ込み、話を続ける。
「陛下、現れた中級悪魔を倒したのは、この国が追放したあのヤマトなのです。ヤマト殿は、『光の聖者』という称号を得ていました」
「『光の聖者』の称号を得るなど、信じられん」
「確かに私の部下が、『鑑定』スキルで確認しています。何よりの証拠に、聖剣を使いこなしていたのです。勇者以外で聖剣を使いこなせるのは、聖者や聖女だけではないでしょうか」
「だが、報告によれば、『鑑定』で見たのは、一瞬なのだろう? 見間違いではないのか?」
「おそらく、何か『鑑定』を阻害するスキルか、魔法道具を使ったのでしょう。ですが一度は確実に鑑定しています」
「にわかには信じられん。それよりも、なぜ聖剣を取り戻さなかったのだ!? あれは王家に伝わる伝家の宝刀だぞ!」
「私は取り返すように強く主張したのです。この責任は、全て将軍にあります。厳しい罰を与えるべきかと」
ここぞとばかりに、ジェイスーンが口を挟んでくる。
「申し訳ございません。
ですが陛下、あれはジャスティスが破壊され、廃棄してきたもの。
それを拾って、どうしたか分かりませんが、修復したようです。
返せという道理がありません。
何よりも、聖剣をあそこまで使いこなしていたのは、驚くべきことです。
聖剣の力を十分に引き出せた勇者は、この国の歴史の中で、数人しかいなかったはず
彼の力はすでに、歴代の勇者の中でも最強の部類に匹敵していると考えるべきです。
ヤマト殿に頭を下げ、助力を求めるべきかと」
「なに! そなたは、余に頭を下げろと申すのか!?」
激昂する国王。
「ですが陛下、これから魔王もしくは悪魔と戦わねばならない状況です。
この国難を救い、民を守るには、聖剣を使いこなす者の力が必要です」
「だからこそ聖剣を取り返さねばならん!
こちらには『勇者の可能性』の称号を持つジェイスーンがいるではないか!
魔王となったジャスティスに致命傷も与えている。
ジェイスーンなら、ヤマトよりも聖剣を使いこなせると思わないのか!?
古来より、聖剣は勇者に授けられるもの。
仮に『聖者』の称号が本当だとして、それによって聖剣が使えたとしても、勇者の適性にはかなうまい」
国王の言葉を受けて、うつむき笑みをかみ殺すジェイスーン。
「お言葉ですが、過去に聖剣の力を引き出した勇者は、皆『称号』に『勇者』を持っていたはずです。ジェイスーン殿は、未だ『勇者の可能性』でしかありません。あのジャスティスも『勇者の可能性』だったのですぞ」
ついつい語気を強めてしまうエドガー将軍。
「貴様、余を愚弄するのか!?」
激昂する国王に、エドガー将軍はいよいよ辟易し、心が折れそうになるが、何とか踏みとどまる。
「はっきり申し上げます。ジェイスーン殿よりも、ヤマト殿の方が遥かに上です」
「彼は、未だレベル36ながら、レベル58の中級悪魔を倒したのです。
そしてすぐに下級悪魔四体と戦っていた我々の応援に駆けつけ、二体を瞬殺したのです。もう一体は、彼の仲間が倒しました。
我々は、一体を倒すのがやっとでした。
その時、どこかに隠れていた『勇者の可能性』殿とは、大違いです。比べ物になりません」
「何を馬鹿なことを! 将軍、俺は状況の確認をしていたのだ。隠れていたわけではない!
決定的なタイミングで、『縮地』スキルを使って、倒すつもりでいたのだ!
それを、ヤマトが聖剣の力で割り込んできただけのこと。
俺が聖剣を持っていれば、慎重にならずに戦えた。
ヤマトよりも、早く倒していたはずだ!」
ジェイスーンの呆れた自己弁護に、エドガー将軍は呆れるばかりだが、国王は頷いている。
そんな様子を見たエドガー将軍は、再び折れそうになるが、最後まで言うだけ言って去ろうという開き直りで、言葉を続ける。
「陛下、ヤマト殿は、中級悪魔を倒したのですぞ!
この国のどこに、彼と勝負して聖剣を取り戻せる者がいますか?
ジェイスーン殿ができるなら、自分で取り返してきたらどうです?」
皮肉のつもりで言ったのだが……
「陛下、私にお任せください。途中の魔物の対処が面倒ですので、再び一個大隊をつけていただければ、必ずやヤマトから聖剣を取り返して参ります」
エドガー将軍は、ジェイスーンの言葉に、開いた口が塞がらなかった。
“全く彼我の戦力差が認識できない愚か者”……そうとしか言いようがない。心の中で呟いた。
ところがこの言葉に、国王はまたも満足げに頷いているのであった。
「よかろう。では十分に準備をして出発するがよい。もう聖なる武器は残っておらぬが、魔剣があるからそれを貸出そう」
「ありがとうございます」
「陛下、この後に及んで、まだヤマト殿にちょっかいを出すんですか?
そんな場合ではありません。
いつ魔王が、悪魔が攻めてくるか分からないのです! それに対する体制を整えねば」
「愚か者め! だからこそだ! なぜわからん! だからこそ、聖剣を早く取り戻さねばならんのだ! エドガーよ、いかにお前でも、これ以上の無礼は許さぬぞ!」
国王が、エドガー将軍の言葉を遮り、喚き立てる。
今までのやりとりを、渋い顔で聞いていた宰相は、国王の顔色を窺い、エドガー将軍に退出するように促した。
謁見の間から出てきたエドガーは、拳を握り締め、唇をかみしめる。
「腐ってるとは思っていたが、ここまでとはな。
まったく、やってられん。
いまだにヤマト殿にちょっかいを出そうとするとは……。
あれほど聖剣に執着しているとは……。
まぁ聖剣のことに頭がいっぱいで、捨ててきた戦車の事は触れられなかった。
今の謁見で良かったのは、それぐらいだ。
まったく、やってられん」
エドガーは、なんともやるせない、あきらめの笑みを浮かべるほかなかった。
読んでいただき、誠にありがとうございます。
ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。
評価していただいた方、ありがとうございます。
次話の投稿は、本日の予定です。
もしよろしければ、下の評価欄から評価をお願いします。
励みになります。
ブックマークも、よろしくお願いします。




