40.勇者ジャスティスとエドガー将軍
進軍して来ている王国軍の大部隊は、もうすぐ『魔境台地』の前の草原に到着する。
俺は、台地の上から『望遠』スキルを使って観察している。
よくよく見ると、勇者ジャスティスの他に、第二位の勇者候補パーティーの勇者がいる。
正式には、勇者候補だった奴だが。
名前は確か……ジェイスーン。
前回の時は、奴だけ来ていなかったが、今回は来ている。
なぜなのかは、もちろんわからないが。
前回来ていた勇者パーティーの他のメンバーも、もちろん全員いる。
俺たちの仲間になってくれる第二位パーティーの魔法使いイリーナさんと、ヒーラーのフランソワさんも一緒だ。
彼女たちには、どこかのタイミングで、この部隊から抜けて、身を潜めて欲しい。
前回別れる時に簡単に打ち合わせしているので、うまくやってくれるとは思うが。
——王国軍は森を抜けて、いよいよ、『魔境台地』前の草原に入った。
「まったくどうなってるんだ? 罪人ヤマトとその一味は出てこないではないか? 本当に、この規模の部隊で来る必要があったのか? 勇者様のお守りも、骨が折れるな……」
大部隊の隊長エドガー将軍が、大きな声で独り言を言っている。
『聴力強化』スキルで強化した聴力で聴き取ったが、どうも、あえてジャスティスに聞こえるように嫌味を言っているようだ。
エドガー将軍のことは、顔を知っているだけで、話をしたこともなければ、人となりも知らない。
三十代後半くらいの若い将軍だけに、勇者と認定されたジャスティスにも、遠慮がないのかもしれない。
「ほんとに、勇者様にも困ったもんだ。大した魔物も出てこないところに、一個大隊を動員するとは……」
将軍は、よほど今回の出兵に不満があるのか、ジャスティスに対する嫌味を続けている。
「前回逃げ帰ったって言うから、どれほどの魔物が出るのかと思ったら……拍子抜けだ」
「勇者というのは……勇気のある者のことでは無いのかなぁ?」
「「「はっはっは」」」
将軍の側にいる幹部将校たちが、将軍に追随して、嫌味な言葉をジャスティスに投げかけている。
なんか予想外の光景だ。
あの周りを見下し、うぬぼれていたジャスティスが、馬鹿にされているとは。
まぁ自業自得だが。
そういえば、エドガー将軍の部隊は、豪胆で遠慮がない者の集まりだとか、荒くれ者の集まりなんていう噂を耳にしたことがある。
国が認めた『勇者』という権威で押さえつけたいジャスティスにとっては、一番やりにくい部隊に思える。
なぜこんな人選を?
もしかして……国王や宰相のジャスティスに対するスタンスが変わったのか?
いや、それはないな。
そしてそんな事は、俺にとってはどうでもいい。
いずれにしろ、前回敗走するように逃げ帰っているし、イリーナさんやフランソワさんから聞いた話によれば、通常訓練の迷宮攻略でも失敗したらしいから、そんな評判が広まっているのだろう。
それに伴って、立場が弱くなっているのかもしれない。
あのプライドの高い、そして自分の感情を抑えられないジャスティスが、あからさまな嫌味を言われても苦虫をかみつぶしたような顔をしながら耐えている。
いつもなら激昂して、斬りかかるのに、今日は我慢している。
ここで将軍たちと揉めたら、俺を捕らえるどころの話ではなくなってしまうからだろう。
さて、そろそろ挨拶に行くか。
そして、早々にお帰りいただこう。
「勇者ジャスティス、また性懲りもなく来たのか!? 何度来ても同じだぞ! それに前回の約束は、やはり反故にしたのか? 俺が勝ったら、ここには来ない約束だろう?」
俺は、台地の先端に立ち、声を張り上げた。
ジャスティスたちには、断崖の上に立っていると見えるだろう。
「ヤマト! やっと現れたか! 約束も何もねえんだよ! お前は、国家反逆罪の大罪人だ!」
ジャスティスが前に出て、大声を張り上げた。
激昂している感じだ。
さっきとは大違いで、いつものジャスティスだ。
「おいジャスティス! また一対一で勝負するなら受けてやるぞ!」
俺はあえてジャスティスを挑発し、手招きする。
「ふざけるな! お前は大罪人だ。勝負する価値などない! 将軍、弓兵の一斉掃射だ! 射殺せ!」
ジャスティスは、エドガー将軍に向けて叫んだ。
「おいおい、捕らえに来たんじゃないのか? 殺しちまうのかよ」
将軍は、半笑いで頭を掻いた。
呆れているようだ。
「将軍、いいから矢を放て! こんな奴、最早利用する価値もない!」
「ちっ、しょうがねぇなぁ。とんだ貧乏くじだぜ。まぁやり合うのは嫌いじゃねーから、勇者様のご指示に従ってやるか」
将軍が辟易した感じで、そしてやる気無さそうに腕を上げ、指示を出した。
この将軍、大丈夫なんだろうか?
おっと、そんなことを思っている場合ではなかった。
弓兵が前に出て、一斉に俺に向けて矢を放つ——
「聖なる赤土壁!」
俺は、『聖剣 カントローム』を取り出し、発動真言と共に、地面に突き刺した!
瞬時に、剣の少し前方に、二メートル四方の土壁が現れる——
——ドスッ
——ドスッ
——ドスッ
俺に注がれた矢は、ほとんどが土壁に突き刺さった。
狙いは俺で、俺に向かって一直線に飛んでくるので、二メートル四方もあれば充分なのである。
土木工事……道作りの為に、聖剣をこの数日間、使い込んだ。
このぐらいの土壁を出すなんて、造作もない。
自分で自分を褒めてやりたいのは、土壁を硬くしすぎなかったことだ。
うまく矢が土壁に突き刺さっている。
もっと硬くして弾き返す手もあったのだが、それだと矢が壊れてしまう可能性があった。
あえて強度を落としたのだ。
実は、矢が欲しかったのである。
今後のことを考えると、何本あってもいい。
そして今、俺は大量の矢を、ただで確保したのだ!
すごい収穫だ!
ジャスティスに礼を言いたいくらいだ。
だが今はそんな場合ではない。
戦闘中だった。
俺は、ニヤけた顔を元に戻しつつ、今作り出した土壁の上に乗る。
厚みがかなりあるから、余裕で立つことができる。
勇者ジャスティスとエドガー将軍……いや、そこにいる兵士全てが、驚愕の表情を見せている。
「お前……ヤマト……今のは……まさか『聖剣 カントローム』……?」
勇者ジャスティスが声を絞り出すようにして、俺に問いかける。
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この物語は、私の書いているもう一つの連載「異世界を魅了するファンタジスタ 〜『限界突破ステータス』『チートスキル』『大勢の生物(仲間)達』で無双ですが、のんびり生きたいと思います〜」と、同一世界線の違う時代の違う場所の物語です。
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