36.兵士たちの反感と勇者の焦り(勇者サイドストーリー)
三人称視点です。
王城内の一画、多くの兵士たちがへたりこんでいる。
勇者ジャスティスの命により、『北端魔境』に同行させられていた兵士たちが、疲労困憊で座り込んでいるのだ。
勇者ジャスティスが追放したヤマトが召集に応じず、出奔したために、捕らえに出向いたわけだが、勇者ジャスティスはヤマトに完敗、おまけに魔物の群れに襲われて、大打撃を受けたのだ。
しかも魔物に襲われたこんな状態の中で、一番最初に逃げ出したのが、勇者ジャスティスだった。
「宰相閣下、納得がいきません。あれでもほんとに勇者なのですか? いの一番に逃げ出すとは。
しかも役立たずと追放したヤマトに完敗でした。
おまけに伝家の宝刀『聖剣 カントローム』を破壊されてしまったのです」
部隊を率いていた隊長が、まくしたてる。
報告とも抗議とも取れる隊長の話に、宰相は頭を抱える。
「すぐに陛下に報告しなければ……。それにしても、勇者が敗北するなんて……。聖剣まで折られて……」
『勇者選抜レース』で勝ち抜き正式な勇者と認められた者が、度重なる失態。
こんな事態など過去に例を見ない。
宰相は混乱し、大きく動揺していた。
「おい、つべこべうるさいんだよ! お前らは、俺の指示に従っておけばいいんだよ!」
そこに、不穏な気配を察知した勇者ジャスティスがやって来て、口を挟む。
「勇者様、ほんとにあなたは勇者なのですか? なぜ我々を置いて逃げたのです?」
普段ならただ従うだけの隊長が、感情を抑えられず、問い詰めるように言葉を発する。
「馬鹿め! そんなこともわからないのか!
それは俺が勇者だからだ! 俺に万が一のことがあったらどうする? お前が勇者になれるのか?
お前ら兵士はいくらでも替えが効くが、勇者の替えは効かないんだよ!」
ジャスティスの酷い言いように、聞いていた宰相は辟易する。
本人はわかっていないようだが、勇者も替えは効くのである。
そのために第二位の勇者候補パーティーが控えているのだから。
ただそんなことを言っても、ジャスティスが激昂するだけなので、宰相は口を閉ざす。
「なんだと!」
隊長が怒りの声を上げ、周囲にいた兵士たちが一斉にジャスティスを睨む。
「ちっ、お前たち……勇者である俺に、そんな目を向けるのか? 今までは、ろくに目を合わせられなかったくせに」
ジャスティスが激昂する。
「ジャスティス、相変わらず何もわかっていないのね。みんな、あなたが勇者であることに疑問を感じているのよ。
それに、勇者に替えはいないって言うけど、あなたにもしものことがあったときのために、第二位だったパーティーの勇者ジェイスーンがいるんじゃない。だからあなたにも、替えはいるのよ!」
勇者パーティーのヒーラー、ユーリシアが冷たく告げる。
自分が言えなかったことを言われた宰相は、驚きつつも、なぜか頬が緩んでしまうのだった。
「ユーリシア、お前、公衆の面前で俺を愚弄するのか!?」
「愚弄も何も、本当のことを言ってるだけよ」
「今回は、ヤマトの想定外の武装に不意打ちを喰らっただけだ。
それに魔物の『連鎖暴走』なんて想定外だ!
部隊を再編成すれば何の問題もない。
ヤマトは今度こそ倒してやる!」
「あら、そう。負けず嫌いなあなたなら、そう言うと思ったけど……」
予想通りの反応に、笑みを浮かべるユーリシア。
「はっきり言って、もうあなたに従軍するつもりはない。他の部隊をあたってくれ!」
会話を聞いていた隊長が吐き捨てる。
「お前、勇者に向かってそんな態度、許されると思ってるのか!
ふん、まぁいいだろう。
お前の部隊は、全員クビだ!
次は将軍を連れて行く。大部隊の編成で行く!」
ジャスティスの言葉を受けて、周りの兵士たちが一斉に立ち上がる。
だがそれを隊長と宰相が同時に手を広げて、制止する。
隊長は、自分は処罰されても部下たちにまで累が及ぶのを避けたかった。
宰相としても、精鋭部隊を全員解雇するなんてことは避けたかった。
二人は、これ以上の衝突を望まなかったのだ。
隊長と宰相は、お互いのそんな気持ちを感じ取り、目で合図をして頷き合う。
「我々はこれで失礼する」
隊長はそう言うと、不満そうな部下たちを促し、出て行った。
「宰相閣下、あんな奴の言うことなど真に受ける必要は無い。
あのクズだったヤマトが、何かのきっかけで特別な剣を手に入れたというだけだ。
そう聖剣を折れるほどの剣を。
予想外のその力に遅れをとっただけ。
もうネタはわかっている。
二度とヤマトに遅れをとる事は無い。
悪いのはヤマトだ。
奴は、国家反逆罪の大罪人。
このまま放置しておくことはできない。
俺が改めてヤマトを捕らえに行く。
だから、ヤスィーン将軍の大隊を連れて行く」
ジャスティスは改めて、宰相の説得にかかった。
どうしても名誉を回復しておかなければならないからだ。
「しかし勇者様、大隊の派兵など……」
渋る宰相に、ジャスティスにとっては思わぬ人間から援護射撃が入った。
「宰相閣下、皆勇者ジャスティスの適性に疑問を抱き始めております。このままでは変な評判も広がってしまいますわ。
それを払拭するためにも、勝利の報が必要でしょう。大隊を動かすことになったとしても。
それが国の体裁を保つためでもあります。
それから……閣下をはじめ、改めてジャスティスの適性を見極めたいと思っている人もいるでしょう。
そのためにも、ちょうど良い機会なのです。
勇者ジャスティスと第二位の勇者候補だったジェイスーンを共に向かわせ、共に戦わせればいいのです。
ヤマトの捕縛でも、魔物の討伐でも、競わせてみれば良いのです。
必ず勇者ジャスティスの方が強いということを証明してくれるはずです……」
ユーリシアは、そう宰相を説得しながら、最後にはジャスティスに対して視線を向けた。
ジャスティスは、「何を考えてるこの女」と内心思いつつも、話を受けるしかなかった。
それを断れば、自分に自信がないと思われるからだ。
いつも通り、自分のペースで話を持っていこうと思ったのに、ユーリシアのせいで調子が狂い、かつ屈辱に近い内容になってしまった。
内心憤るジャスティスだった。
宰相はユーリシアに説得され、今回の悲惨な戦果の報告とともに、対策として大隊の派遣を国王に進言することに決めたのだった。
ユーリシアは、密かにほくそ笑んでいた。
「ふふふ、これでまたジャスティスが恥をかくことになる。もう闇落ちはすぐね。早く反転しないかしら。ほんと楽しみだわ」
その愉悦に満ちた呟きを聞いている者は、誰もいなかった。
ユーリシアは、確信していた。
今日の戦いぶりからして、ジャスティスがヤマトに勝てるとは思えない。
もし失敗すれば、その挫折感で完全に闇落ちするだろう。
その仕込みの為にも、予備の勇者であるジェイスーンを同行させ競わせる提案をして、ジャスティスのプライドを傷つけたのだ。
勇者ジャスティスの心は、いつ壊れてもおかしくない、ひび割れたガラスのような状態だった。
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この物語は、私の書いているもう一つの連載「異世界を魅了するファンタジスタ 〜『限界突破ステータス』『チートスキル』『大勢の生物(仲間)達』で無双ですが、のんびり生きたいと思います〜」と、同一世界線の違う時代の違う場所の物語です。
https://ncode.syosetu.com/n8768ff/
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