32.称号によって試される資質
「それから……『勇者の可能性』を飛び越えて、いきなり『勇者』の『称号』を得る者もいるみたい。
というか、それが本来のかたちだったみたいなんだけどね」
クラウディアさんが、思い出したように再び話を始めた。
「というと?」
「その本によれば、かなり古い時代には『勇者の可能性』という『称号』は、なかったみたいなの。
比較的最近できた『称号』ではないかと推測されていたわ。
神様が、強い想念を持つ者を明らかにするために、教えてくれるために、新たに作った『称号』ではないかとも推測されていたわ」
「それは……一体何のために?」
「研究責任者の私見だとは思うけど……そういう大きな力を持つ可能性のある者を明示することによって、周りの者たちに、その者が道を踏み外さないように、見守り支えさせる為ではないかと書かれていたわ」
「なるほど。環境、その他の要因で悪に染まることがないように、良い方向に向かうように、導き守るという意味なのかもしれないですね」
「あとは、本人の自覚も促してるのかも」
確かに。
ラッシュが言う通り、この『称号』によって、本人も自覚したり、いろんなことを深慮するきっかけになるだろう。
「そうね。だから国としても『勇者の可能性』の『称号』を持つ者を集めて教育して、心身ともに勇者にふさわしい存在になれるように、保護を始めたみたい。
魔王の出現が予言されていない平時でも、その活動はしていたのよ。
むしろ平時の方が、保護し教育するという趣旨は全うされていたみたいだけど、魔王の出現が予言された乱時には、うまく機能できなかったわけよね。皮肉な話だけど。
乱時になると、いやがおうでも国が勇者を認定し、魔王に対抗する体制を整えなければいけないからね。
『勇者選抜レース』が始まれば、もう競争原理しかないから、教育もないがしろにされてしまう。
特権意識だけを持ったジャスティスみたいな存在が、できてしまうのよ。
まぁこれも、本人の心持ち次第なんだけどね」
「そうですね。確かに皮肉な結果ですね」
「でも『勇者選抜レース』をしていたからって、ちゃんとした人はいますけどね。ヤマト先輩みたいな」
ラッシュがそう言って、俺の腕に抱きついてきた。
「まぁいずれにしろ、長い歴史の中で、疲弊し機能しなくなった制度である事は間違いないわ」
クラウディアさんが、渋い顔で吐き捨てるように言った。
クラウディアさんが教えてくれた情報で、なんとなく少し理解できた気がする。
『勇者の可能性』の『称号』は、あくまで可能性を指示す『称号』であって、『勇者』の『称号』とは次元の違う、質的に異なるものということだろう。
おそらく『勇者』の『称号』を得るには、何らかの厳しい条件があるんだと思う。
その中には、クラウディアさんが基準にしているような人間性のようなものもあるのかもしれない。
というか、そうであって欲しい。
ところが『勇者の可能性』については、一旦そういうものを度外視し、何か大きな力……想念の力を秘めた者に与えられる『称号』なのだろう。
その者が間違った方向に行かないように、本人及び周りの者に注意を促すために。
いつの頃からか、そんな意味で神様が新たに作ってくれた『称号』なのだろう。
直感的にそう思ってしまった。
勝手な想像というか妄想だが、『勇者の可能性』という『称号』がなかったと思われる古い時代には、大きな力を持つ可能性のある者が、悪に落ちることが多かったのではないだろうか。
それを防止するために、『勇者の可能性』という『称号』を、神様が作ってくれたんじゃないかという気がした。
『勇者の可能性』と言うと、すごく聞こえがいいが、実は、『巨悪になる可能性』を示している『称号』とも言える。
『勇者の可能性』という名前になっているのは、本人も良い意味で自覚が持てるように、と言うことなのかもしれない。
そして、ふと思ったが、この『称号』自体、その本人を試し、選別する意味があるのかもしれない。
『勇者の可能性』という『称号』を得て、責任感や希望を感じる者は当然努力し、素晴らしい勇者として覚醒する。
逆に、その『称号』に特権意識を感じるような者は、必然的に他者を見下し堕落するということになるだろう。
最終的には、本人の心持ち次第ということになるわけだ。
ある意味恐ろしい『称号』かもしれない。
自分が試されるわけだ。
『勇者の可能性』なんて『称号』を得たら、“俺は特別な人間なんだ”と傲慢になってしまう可能性は、誰にでもある。
「話は戻りますけど……クラウディアさんが、理想の勇者パーティーのメンバーとして考えていた魔法使いのイリーナさんと、ヒーラーのフランソワさんが仲間になってくれることになって、よかったですよね」
『勇者の可能性』の『称号』に関する話が一段落したところで、ラッシュが改めて、嬉しそうに言った。
「そうね。ほんとによかったわ」
「後は……タンクとロングアタッカーができる人がいれば、ヤマト先輩を中心とした理想のパーティーができるんですけどね」
ラッシュが屈託のない笑顔を、俺に向ける。
「よく考えたら、遠距離攻撃を担当するロングアタッカーポジションは、私が魔法銃で担当すればいいわね。
壁役のタンクとはちょっと違うけど、敵を引き付ける役目は、ラッシュができるから、すでに、私たちだけですごいパーティーになる可能性があるわ!」
クラウディアさんが目を輝かせた。
「そうですね! じゃぁ後は、女性勇者の人さえ来てくれれば、完璧じゃないですか!」
ラッシュが、ノリノリで言った。
そういえば……
「クラウディアさん、第三位になった勇者候補パーティーのメンバーは、どうなったのですか?」
素朴な疑問が浮かんだ。
今まで深く考えてなかったが、どうなっているのだろう?
「解散したはずよ。
第二位のパーティーは、何かあったときの為の補充要員として、今まで通り『勇者選定機構』の管轄下で活動するけど、第三位のパーティーは必要ないから、解散したはず。
事実上は、解雇というかたちになったはずよ。
ただ、人によっては軍にスカウトされたりして、再入隊した人もいると思うけど」
「え、解雇なんですか?」
「優秀な人材を、簡単に解雇するなんて、やっぱり国はおかしいですね」
俺は驚き、ラッシュはほっぺたを膨らませた。
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この物語は、私の書いているもう一つの連載「異世界を魅了するファンタジスタ 〜『限界突破ステータス』『チートスキル』『大勢の生物(仲間)達』で無双ですが、のんびり生きたいと思います〜」と、同一世界線の違う時代の違う場所の物語です。
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