26.二つの頼み事
後半は、勇者ジャスティス視点です。
「ヤマト殿、助けていただき、ありがとうございます。命を救われました」
俺に斬りかかろうとした衛兵を止めた小隊長らしき人が、改めてお礼を言ってくれた。
「いいんです。事なきを得て、良かったです」
「あなたを捕まえに来た我らを、なぜ助けてくださったのですか?」
「そうですね……正直言うと、助けるつもりで来たわけではありません。ただ、あなたたちが上官に……国に捨てられたのを見て、他人事とは思えなかったんです」
「ははは、なるほど、そういうことですな。妙に納得です。
私たちに、あなたを捕まえる事は物理的にもできないでしょう。何よりも、命を救っていただいたあなたを、捕まえることなどできません。心情的に無理なのです。
こんな辺鄙な場所の衛兵といえど、それぐらいの心持ちはあります。どうぞ、お行きください」
「良いのですか?」
「あなたたちに遭遇した事は、報告します。嘘をつくわけにはいきませんから。
ただ正直に、助けられたと報告します。
全滅しそうになっている我々を救う実力があるあなたを、捕縛する力など我々にはない。
報告をあげれば、その事は理解してもらえるはずです。
だから大丈夫です。
何よりも我々を見捨てた後ろめたさがあるはずだから、表立って処断するような事はないでしょう。
それに私は……あなたのことが嫌いじゃありません。
まだこの街に来て数日ですが、街の人たちともよく話をしているようですね。皆好感を持っているようです。
ですから、逆に街のみんなに命を助けられたと吹聴しますよ。ワッハッハ」
小隊長らしき人はそう言ってわらい、周りの兵士たちもほとんどの人が、大きく頷いている。
「ありがとうございます。よろしければ、名前をお伺いしても?」
「あぁこれは失礼しました。私は、衛兵隊の第一小隊の隊長をしているラッカランと申します」
「改めまして、ヤマトです。やはり小隊長さんだったんですね」
「まぁ小隊長と言っても、この街の衛兵隊には小隊は三つしかありませんけどね。ワッハッハ」
豪快に笑うラッカランさんと、俺は改めて握手を交わした。
「あの……二つお願いしてもいいでしょうか……?」
そして、ダメ元でお願いする。
「ほほう。私にできることならば……」
「ありがとうございます。
まず一つは、守護殿に伝言してほしいのです。勇者ジャスティスに伝えろと。
……ジャスティスのパーティーに加わるつもりはない。俺はこの国を捨てる。『北端魔境』で静かに暮らすから放って置け……
そう伝えて欲しいのです」
「ほほう。ヤマト殿は、『北端魔境』で暮らされるのですか?」
「はい。普通では考えられないことと思いますが、そうしようと思います」
「今の戦いぶりを見る限り、三人ともかなりお強い。だからといって、魔境で暮らすなど本当にできるのですか?」
「はい。実は生活に適した場所も見つけています。そこならば、魔物の脅威にさらされずに暮らせそうなのです。豊かな森もあります」
「なんと、そんなところが……」
驚き、そして懐疑的だったらラッカランさんが、妙に納得したように頷いている。
「はい」
「分りました。伝言確かに伝えましょう。二つ目のお願いというのは?」
「ありがとうございます。
実は、二つ目のお願いは、街の人たちに向けてのことなのです。
先程おっしゃっていただいた……私に助けられたという評判を流してくださるときに、私が移住者を歓迎するという話も、一緒に流してほしいのです。
本当は、ゆっくり準備をして、街の人たちに一緒に来てくれる人がいないか、声をかけようと思っていたのです。
それが召集命令のせいで、できなくなってしまったもので」
「そうなのですか。ただ……魔物の領域で暮らす気持ちになる者がいるとはあまり思えませんが。……一応、そんな話も流しましょう」
「ありがとうございます。助かります」
俺は最後に、ここにいる二十名ほどの衛兵全員に、回復魔法をかけてあげた。
そして見送った。
◇
「勇者殿、たった今、『北端魔境』の『ショウナイの街』の守護から連絡ありました。
『勇者選定機構』の長官が報告に来た。
やっとだ、全く仕事ができない奴め。
「それで、あのクソヤマトは、いつ来るんだ?」
「そ、それが……召集命令を拒否して、『北端魔境』に逃げ込んだとのことです」
「なに!? あいつは馬鹿なのか? 魔境に逃げ込んだ? 今まで生きていたことも驚きだが、気でもふれたのか?」
「それが……捜索に出た衛兵隊が魔物に襲われて、危ういところを助けたとのことです。そしてジャスティス様に伝言を伝えろと託したとのことです……」
「なんだと、俺に伝言!? 生意気な……。それで、なんと言ってるんだ?」
「はい。
…… ジャスティスのパーティーに加わるつもりはない。俺はこの国を捨てる。『北端魔境』で静かに暮らすから放って置け……
そう伝えろと言われたそうです」
「なんだと! ふざけやがって! おのれヤマト、どこまでも俺をなめやがって!」
「勇者様、もう諦めてはどうですか? 魔境の中で暮らすなど不可能。直ぐに死ぬでしょう」
「ふざけるな! 今まで数日とは言え、生きてるんだぞ。
魔境に逃げ込むなんて……きっと何かあるんだ。何か魔物が寄り付かない道具とか、そういう物を見つけたに違いない。
あいつ……俺が直々に捕まえてやる」
「え! 『北端魔境』に行かれるのですか?」
「ああ、そうだ。訓練としてもちょうどいい。勇者パーティーで行くぞ。
露払いで、中隊クラスでいいから同行させろ。
そうだなぁ……今すぐ行きたいところだが、明日だ。明日行くから、手配をしておけ!」
「はい、わかりました。こ、国王陛下や宰相閣下にも……」
「わかってる! 陛下と宰相には、この俺が話をつけておく」
まったく、くそヤマト、どこまでも俺を苛立たせやがって!
あいつ、絶対奴隷にして、ボロボロにしてやる。
「『北端魔境』に出向くの? 私たちは巻き添えね」
ヒーラーのユーリシアが、声をかけてきた。
こいつ、この部屋にいたのか……。
俺が怒りに震える姿を、覗いていやがったのか?
まったく……何が聖女だ。
最近のこいつは、気味が悪いくらいだぜ。
「のぞきとは、いい趣味してるな。だいたい巻き添えってなんだ? 俺のパーティーなんだから、巻き添えも何もないだろう?」
「ふん、まぁいいわ。パーティーメンバーには、私から言っておくから」
なんだ?
やけに物わかりがいいじゃないか。
「ああ、頼んだぞ」
ユーリシア……ますますわけのわからない奴だ。
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この物語は、私の書いているもう一つの連載「異世界を魅了するファンタジスタ 〜『限界突破ステータス』『チートスキル』『大勢の生物(仲間)達』で無双ですが、のんびり生きたいと思います〜」と、同一世界線の違う時代の違う場所の物語です。
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