16.討伐失敗、そして流れる血(勇者サイドストーリー)
勇者ジャスティス視点です。
なんてことだ、勇者であるこの俺様が深手を追い、他のメンバーも戦えるような状態じゃない。
だが、だからと言って、この状況……
「ユーリシア、あいつらが使えない状況なのはよくわかったが、だからと言って、この状況で逃げられると思ってんのか? 魔物に後ろから追撃されて終わりだぞ」
「じゃあ、どうしろっていうの?」
「そうだなぁ……勇者の俺を生かすのが最優先事項だ。俺を生かすための時間が必要だ。早くマルリッテとボールドウィンを回復しろ」
「この状況で、どうやって?」
「今魔物たちは、ガードルのところに集まっている。今のうちならできるだろ」
バッファロー魔物たちは、ガードルの体を角で突き上げたりして、まるで遊んでいるかのようだ。
タンクで頑丈さが売りなはずのあいつが、ここ二日は完全な体たらく、おまけに死にやがった。
そう、あいつはもう死んでいるのだ。
魔物たちに遊ばれて、体がボロボロになり、腕もちぎれそうになってるが、死んでるから痛みも何もないだろう。
だがあいつも、死んだ後で役に立ってる。
あいつがおもちゃになっているお陰で、俺たちは今一息つけている。
だが俺たちが逃げ出したら、それを察知し、一斉に襲ってくるだろう。
俺が生きて戻るためには、魔物を惹きつけておく囮が必要だ。
……ふっふっふ。
「お前たち、ここは一旦逃げるぞ!」
マルリッテとボールドウィンの回復は、ユーリシアによって終わったので、撤退の指示を出し、静かにフロアの出口を目指す——
……! だが気づかれたか。
皆もわかったらしく、凍りつくように動きを止めた。
「ボールドウィン、悪いが逃げる時間を稼いでくれ」
俺は奴に近づき、指示する。
ただ素直に了承わけもなく……
「ふざけ——ぐあぁぁぁ」
俺は、ボールドウィンの右足を斬り落とした。
「悪いが、お前にできることはこれぐらいなんだよ!」
ボールドウィンの体をバッファロー魔物に向かって、蹴り飛ばす——
「さあ行くぞ!」
事態を驚きの表情で見ていたマルリッテとユーリシアは、俺の指示に一瞬固まっていた。
だがお構いなしだ。
逃げないなら、お前たちも一緒に死ぬだけだ。
そしてこのフロアの外の通路で待機していたサポート部隊にも、逃げろとだけ声をかけ、駆け抜ける。
あいつらの移動速度でバッファロー魔物から逃げられるとは思えないが、それはそれで俺が逃げる時間稼ぎになるだろう。
俺さえ生き残れば、後のメンバーはどうとでも補充できる。
そう、俺さえ生き残ればいいんだ!
この国の為にも。
◇
迷宮の外に出た。
どうやら俺についてこれたのは、魔法使いのマルリッテ、ヒーラーのユーリシアだけのようだ。
サポート部隊の十人は、やはり逃げ切れなかったのだろう。
「勇者様、一体何があったのです!?」
迷宮の外で待っていた、『勇者選定機構』の長官が俺に駆け寄る。
迷宮攻略訓練など、たまにしか来ないはずなのに、昨日のふがいない戦いが伝わったらしく、来てやがる。
「迷宮で、小規模だが、『連鎖暴走』が起きた。突然のことで、一旦退くしかなかった」
「なんと、『連鎖暴走』ですか!?」
「タンクのガードルと弓使いのボールドウィンは、すぐにやられてしまった。あいつらは、実際のところ実力がなかったから、やむを得ないだろう」
「な、なんと二人も戦死者が……」
さすがに、勇者パーティーのメンバーが二人も死んだのは、衝撃だったようで、長官が青ざめている。
「サポート部隊にも、すぐに逃げるように指示を出したが、取り乱してバラバラに逃げ出してしまって、俺も助けてやることができなかった」
「で、ではサポート部隊は……全滅……」
長官が、更に青ざめた。
ちなみにサポート部隊の奴らなんて、初めから助ける気はなかったが、適当な作り話をした。
真実を知っているのは、マルリッテとユーリシアのみだ。
口止めの意味も含め、二人に視線を送ったが、二人とも呆然としている。
死にかけたのがショックだったようだ。
俺の撤退するという的確な判断がなかったら、こいつらも死んでいた。
俺に感謝してほしいものだ。
「ほんとに、『連鎖暴走』が起きたのですか?」
長官が、信じられないといった顔つきをしている。
こいつ俺を疑うのか。
「ああ、そうだ! 小規模ではあるが、バッファロー魔物が何十体も襲ってきた」
もちろん作り話だ。
実際には、三体現れただけだからな。
そして、その対応にしくじっただけの話だ。
だが、その一度のしくじりで命を落とす冒険者なんて、世の中にはザラだ。
運悪く、今回はたまたま俺たちがそうなってしまっただけのことだ。
だが勇者である俺が、そんなことを言えば、みんな不安になる。
大体このしくじりは、俺のせいではなく、無能な周りの奴らのせいなんだから。
そして勇者である俺様が生きていれば、いくらでも仕切り直せる。
「……とにかく、休息用のテントでお休み下さい」
長官は、混乱したままのようだが、俺とマルリッテ、ユーリシアを休息用のテントに案内した。
「まだわかっていないようね。これが今の私たちパーティーの実力だってことを」
冷たい視線を俺に向けながら、ユーリシアがそんなことを言った。
こいつ……やはり最近気に食わない。
「おい、確かに今回は失敗した。そして力のない奴らは、命を落とした。それが現実だ。だが、これが実力なわけじゃねぇ! 今まで俺たちは、迷宮での討伐訓練で勝利し、その結果ポイントで一位になった。それで、『勇者選抜レース』を勝ち抜いたんだ!」
「それは、ヤマト君がいたときのパーティーです!」
こいつ何言ってやがる。
なんでヤマトの話が出てくるんだ!
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この物語は、私の書いているもう一つの連載「異世界を魅了するファンタジスタ 〜『限界突破ステータス』『チートスキル』『大勢の生物(仲間)達』で無双ですが、のんびり生きたいと思います〜」と、同一世界線の違う時代の違う場所の物語です。
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