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SF 花火大会売り

作者: はやまなつお


私は人ごみが嫌いなので普段は人の多い場所には近づかない。

しかし祖母の頼みで八幡宮に飾り矢を買いに行った。


夏祭りの夜に数量限定で販売しているらしい。


八幡宮は八幡山の頂上にあり、表側はロープウェイと長い石段、

裏側は車用の道路と広い駐車場。


私は自転車で裏側の道から上がっていった。

駐車場横の建物の軒下に自転車を停めて上へ。


石段の到着口から本殿まで50メートルほど

平地で、夜店が並んでいた。


こういう場所はヤクザの仕切りであり、不当に値段が高い。

一時的な仮設の店は信用できない。だから足早に通って本殿へ。


飾り矢を買って(私の金銭感覚では不当に高かったが。

日本で値段交渉は特別な品(不動産など)を除いてありえないから買った)。


そして本殿を出ると。

雰囲気が変わっていた。


ぼうっと霧が漂っている。

「夜売り」「雷売り」「あやかし売り」など

夜店の品目が変わっていた。


「千と千尋」の中華街や「電脳コイル」の夜店の場面のイメージ。

多くの人がいるのに、彼らは幽霊のように印象が薄くなっている。


むしろ私にとってはこの方が気楽。

店をゆっくり見て歩くと。


「花火大会売り」と屋台の看板に書いてある。

並べてあるのは多くのロウソクだけ。


「これは?」と私は尋ねる。


店番の麦わら帽子の和服男が手をかざして、

透明なキーボードをタイプするような手真似をする。


すると私の目の前の空間に文章が立体表示された。

音声と同時に文章が現れて流れていく。


「まだこの時代は立体映像技術はありませんから。

花火大会の醍醐味は、その臨場感。録画した立体映像を

体感してみませんか?カップルにおすすめです。

10分、20分、30分物があります」


「じゃあ20分物を」

「500円です」

「ではこれで」

「はい、どうぞこちらへ」


店の裏へ。

実際には樹々があるはずだが、空き地になっていて

長椅子とテーブルがいくつも置いてある。

カップルらしき2人ずつが座っている。


私が空いている長椅子に座ると、和服男は目の前のテーブルにロウソクを置く。

ロウソクの上を手で触ると火が付く。すると。


私は夜の河川敷にいた。長椅子に座ってはいるが。

振り返ると後ろの景色も見える。見物客らしき多くの人びと。

長椅子の座る私を見る人はいない。群衆は映像の中の人物。印象が薄い。


花火大会が始まった。目の前の特等席で夜空で爆発する光の乱舞。

これは映像では・・・360度の立体映像でないと味わえないリアルさ。


映像は、まず映画館、そしてテレビ、ビデオ、DVD、インターネット映像、と

見たい時に見れるように変わってきた。

次は立体映像が来るらしい。


20分が過ぎて元の場所へ。ロウソクは燃え尽きていた。

これはすばらしい。30分物をリクエストしたい。

店の前に行こうとすると。



「何インチキ商売やってんだゴラァ!」

髪を赤く染めたチンピラ3人組が、からんでいた。


「インチキじゃないことを証明しましょう。無料でどうぞ」


立体文字を表示、和服男が案内して3人組を長椅子へ。

黒いロウソクに火をつける。


すると3人組はロウソクと一緒にスッと消えてしまった。


私「・・・あの、連中を消すのは良い事として、どういう仕組みですか?」


和服男が立体映像文字を表示。


「ロウソクは正確に言うと次元転送フィールドです。

普通のロウソクは花火大会をしている時空間に少し次元を変えて

見に行くことができます。

音と視覚は感じられますが実際にその場にはいないので安全です。

ロウソクのエネルギーが無くなると元の次元に戻ります。


黒いロウソクは、地獄に生きながら送り込める一方通行アイテムです」


私「なるほど・・・納得しました。ではこれで」



私は店の表に戻った。すると雰囲気が元に戻っていた。


喧騒。ガラの悪い連中の、獲物を見る殺気の気配。


振り返ると「花火大会売り」屋は、なくなっていた。


あの奇妙な怪しい、しかし妙に安心できる、ルールがわかっていれば

楽しく過ごせる夜店の群れはすべて消えていた。


足を早めて目を合わさずに急いで歩いて、八幡宮の裏の駐車場へ。

自転車で祖母の家に戻って飾り矢を渡した。





手本は田丸雅智の本「ショートショート千夜一夜」。

祭りを題材にしたファンタジー短編小説集。

「人魚すくい」「夕焼き屋」が秀逸。


それにしても最近は著者紹介で男か女か、書いていない本が多い。

ライトノベルのペンネームは何でもアリなので区別つかない。


個人情報だから?書いていいと思う。

田丸雅智の本は、内容は女性っぽいので女性だと思っていた。

今回の本で著者の写真が巻末に載っていて、男とわかった。

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