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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第8章 王都動乱編
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第141話 母の矜持と治療

どうも、ヌマサンです!

今回はジョシュアとセーラたちの話になります。

今回で王都での戦いは決着するので、楽しんでもらえればと思います。

それでは、第141話「母の矜持と治療」をお楽しみに!

「アンタたち、思っていた以上に強いわね」


 カミラは両手に持つ槍を振るいながら、目の前で彼女の攻撃を防いで見せるジョシュアとセーラに感心の言葉を投げかけた。


 ジョシュアは槍一本で果敢にカミラへと反撃の突きを見舞い、セーラもレイピアと共に華麗な剣舞を見せていた。


 カミラも槍の腕には相当な自信があったが、この二人を同時に相手取るのは困難だと戦いの中で感じ取っていた。


 正直、一対一でなら僅差で勝てる。だが、二人同時となるとさすがにキツかった。


「“影突シャドウスラスト”ッ!」


 黒いオーラを纏う突きが左右から連続して突き出される。ジョシュアは槍の柄を用いて軌道を逸らし、セーラは後ろに跳び退くことで回避した。


 だが、セーラが距離を取ったその一瞬。ここを見逃さずにカミラはジョシュアをロックオンした。


 立て続けにとてつもない速度で繰り出される突き。その一つ一つが繊細で、思いきりのいいモノであった。


 ジョシュアも必死になって防ぐも、防ぐだけで手いっぱい。カミラからの一方的な攻撃にジョシュアの背を冷や汗が流れ落ちる。カミラが槍を二本同時に使って来ることもあり、手数が多いのも実に厄介なところであった。


 しかし、ジョシュアには自分の帰りを待つマリエルたち運送ギルドのメンバーの顔、自らが槍術の手ほどきをした夏海の表情が脳裏をちらついた。


 それらが、彼を奮起させ、戦意を取り戻させた。


「僕はこんなところで負けるわけにはいかないんだ!」


 ジョシュアの渾身の突き。それはカミラに届くかに見えたが、槍を交差させて防がれた。そこから豪快に左へ薙ぎ払われたことで、ジョシュアは前のめりになる。体制が崩したところで、カミラからの疾風の如き突きが頭部目がけて繰り出される。


「させません!」


 そこへセーラが割り込み、カミラの槍を側面から蹴り飛ばした。それと同時にレイピアでの突きを見舞うという器用な動きをした。


 カミラはセーラの突きを上半身を斜めに捻ってかわし、もう一本の槍でセーラのわき腹を打ち据えた。


「クッ……!」


 セーラは石畳の上何度も跳ね、カミラから少々距離が離れた。そんな邪魔者が消えた隙にジョシュアへと再び集中砲火が行なわれる。


 ……ジョシュアはカミラに対して、魔法を使うことが出来ない分、不利な局面に立たされている。


 ジョシュアの魔法、魔法反射魔法はその名の通り魔法を反射するモノ。しかし、カミラの魔法は影の魔法槍であり、物理攻撃と魔法攻撃の双方を組み合わさっている。ゆえに、魔法しか反射できない魔法反射の魔法では対処のしようがないのである。


「アタシはアンタたちを殺して、逃げた連中も始末する。そうすれば……!」


 カミラの言いたいことはジョシュアは薄々勘付いていた。要するにローカラトの冒険者たちを逃がさないために()を狙ってきたのだ。


(そうまでして、ローカラトの冒険者たちを殺そうとする目的はなんだ?)


 ジョシュアの頭の中を様々な考えが巡るが、どれも結論を出すには至らなかった。


「何にせよ、それって僕がここで君を倒せば問題ないってことだよね!」


 ジョシュアの槍はカミラの頬を掠めた。これがカミラに与えた初めてのダメージ。ジョシュアは手ごたえを感じ、希望の光が見えた。


 怒涛の突きに今度はカミラが防戦一方に追い込まれる。ジョシュアの本領発揮といったところだった。


 ジョシュアもローカラト防衛線の際には単独で魔人カトリオナを足止めしていたほどだ。また、戦闘経験も豊富である。それらのすべてを活かして戦えば、カミラと同等以上にやり合える潜在能力ポテンシャルを秘めている。


「やあっ!」


 加えて、セーラの加勢もある。そこからはカミラが圧倒されっぱなしであった。多少は反撃し、ジョシュアとセーラの腕を掠めたりするものの、それだけにとどまっていた。


 二人の強さは同時にかかれば白金プラチナランクの冒険者であり、八英雄の一人でもあるウィルフレッドも「面白い」と評するほど。


 そんな二人を相手取るのはカミラには荷が重すぎた。


「クッ!」


 セーラの回し蹴りを受け、カミラは地面に二つの直線を引きながら、後退を余儀なくされる。


「これでどうだ!」


 ジョシュア渾身の突きは交差した二本の槍の交差点を貫き、カミラの胸部を穿った。カミラも血を吐きながら、石畳の上へと崩れ落ちる。


 心臓を外れたことをジョシュアは惜しがっていたが、カミラにとっては十分な一撃であった。カミラは地面にうつ伏せに倒れる中で、一矢報いる方法を模索していた。


「何ッ!?」


 そして、薙いだ。倒れゆく中で、体勢を180度変えて槍を左へ薙いだ。槍の穂先は付くことで最大限の威力を出すことが出来るが、別に斬れないわけではない。


 カミラの一閃はジョシュアの胸部に二か所の直線を引いた。ジョシュアがまともに攻撃を受けたのを見て、セーラも顔色を真っ青にした。


 そうしてカミラは仰向けで石畳に倒れるまま、影の中へと姿を消した。


「ジョシュア、大丈夫ですか!?」


「ああ、僕は大丈夫。だから、早くカミラを……!」


 カミラが影に消えた。今、カミラの姿を見失うのはマズい。二人に勝てると踏んだから、カミラは戦うことを選んだ。そして、勝機が無いと悟ったカミラがどう動くか。


「マリエルさんたちが……!」


 そう、逃げたマリエルたち運送ギルドのメンバーを直接始末しに行くに違いない。


「僕もすぐに行く。だから、君は先にみんなの保護を……!」


 セーラはジョシュアの眼を見て、断るわけにはいかなかった。


「分かりました。ワタクシ、セーラ・リラードが命に代えても守ってみせます!」


 それだけを言い残して、セーラは走り去った。そのスプリンググリーンの髪をなびかせながら風を切って走る後姿は絵画のように美しかった。


 セーラは大急ぎで、かつ見落としの無いように逃げ惑う大勢の人の中からマリエルたちを探した。


「居た!」


 セーラはマリエルたちを発見し、糸魔法を用いて立体的に移動。ほんの数秒で彼女たちに追いついた。


「あれ、セーラさん?」


 マリエルが驚く中で、セーラは無事な運送ギルドのメンバーたちの表情を見て安堵の表情を浮かべた。


 刹那、セーラの視界にマリエル目がけて闇を駆け抜けてくる槍が映った時、事態は一変した。


 反射的にマリエルを突き飛ばした直後、セーラの腹部を槍が貫いた。セーラは力尽きる寸前、レイピアを槍が飛んできた方へと投擲。それは的確にカミラの腹部へ突き立った。そこへジョシュアが走って来るのが見えたカミラは任務遂行を諦め、腹部に突き立つレイピアを引き抜き、撤退を選択した。


「セーラさんっ!セーラさん……っ!」


 マリエルはセーラの元に駆け寄り、声をかけ続ける。しかし、セーラは優しく笑うのみで眼を開けようとしなかった。


「何があったんだ……!?」


 遅れてやって来たジョシュアが驚きを帯びた声を放つ。マリエルは状況の説明とを涙声で話し、泣きじゃくるばかりであった。


「……っ、そうだ!確か、馬車の積み荷に回復薬ポーションの残りがあった!あれ、どこにしまった?」


「確か……マスターのベッドの下に収納しました!」


 ジョシュアの言葉を聞き、運送ギルドの中年男が思い出したようであった。ジョシュアはすぐさまその男と隣にいた若い男と一緒に回復薬ポーションを取りに行くように指示した。


「セーラ、眼を開けろ!君は娘二人を置いていくつもりなのか!?」


 ジョシュアはセーラに必死に訴える。ローカラトの町で待つ、エミリーとオリビア。娘二人を話題に出して、生きるように促す。これで、ようやくセーラもうっすらと目を開けた。


「そう……ですね。エミリーとオリビアが帰りを……」


 娘二人を路頭に迷わせるわけにはいかない、とセーラの母としての矜持が自らを生かそうとしているかのようであった。


「マスター!回復薬ポーション持ってきました!」


 数分が経ち、息を切らしながら走って来た若い男から受け取った回復薬ポーションの蓋を開け、隣にいるマリエルにそれを預ける。預かった時にはマリエルも泣いてはいなかった。


「セーラ、引き抜くぞ!」


「ええ、お願いします……」


 セーラに突き立ったままの槍へジョシュアは手をかける。そして、一息に槍を引き抜いた。その時の激痛にセーラから声が吐き出された。その声を聞くだけで想像を絶する痛みだというのが伝わってくる。


 その後、間髪入れずにかけられた回復薬ポーションによって、無事に傷が塞がったためにセーラは何とか一命をとりとめた。


 ジョシュアの傷も同時に回復薬ポーションで癒した後、槍を引き抜いた痛みで気絶しているセーラをジョシュアが横抱きにして一行は宿屋へと向かったのだった。


 ◇


「大丈夫か!?しっかりするんだ!」


 そんな声が3階へと続く階段前の空間にこだまする。そこで倒れているのは黒髪ロングの少女、紗希。それを抱き起こしているのは銀髪の青年。それはクラレンスである。クラレンスたちは1階で洋介と寛之を助けた後、2階へ上がって夏海を助けてここまでやって来たのである。


「エレノア、回復薬ポーションはまだあるか?」


「はい、これですよ!」


 エレノアはクラレンスの言葉を聞いてすぐ、カバンから回復薬ポーションを取り出して渡した。


 クラレンスは慎重に紗希に薬を飲ませるが、紗希は回復薬ポーションを上手く呑み込めず、こぼれていくばかりだった。


「あれ、これって毒の症状だよ?どういうわけか、毒は消えてるみたいだけど……」


 エレノアの妹、レベッカは母であるフェリシアから借りた薬の本で読んだ知識を率直に述べる。レベッカからさらに詳しい話を聞き、クラレンスは足の速いマルケルとイリナに再び薬室に行き、毒の傷を癒やす薬を取って来るように指示を出した。


 二人が弾かれるようにその場を後にする。その後に訪れたのは静寂。そんな空間で唯一響くのは激しく息を荒げ、今にも死んでしまいそうなほどに青くなった紗希の呼吸音のみ。


 そんな紗希を目の前にして、何もしてやれないことを誰もが口惜し気にしていた。そして、1分が経過したころ。窓ガラスが割れ、その向こうに生えたツタが小瓶を持っていた。


 それを近くに居たライオネルが受け取り、クラレンスへと渡す。


「さあ、これを飲むんだ」


 クラレンスは瓶のフタを開けて紗希の口から流し込む。しかし、紗希は咳き込むばかりで薬を飲ませられなかった。


「こうなった以上、やむを得ない」


 クラレンスは自ら解毒薬を飲み、口移しで紗希へ解毒薬を飲ませた。その甲斐あってか、蒼ざめていた紗希の表情に血色が戻っていく。


「これでよし、といったところだな――」


 クラレンスがそこから続きの言葉を紡ごうとするのを待たずに、エレノアがクラレンスへと掴みかかる。


「毒で眠っている少女にく、口移しで解毒薬を飲ませるなんて……ッ!」


 そう言うエレノアの顔は真っ赤であった。目の前で男女が唇を重ねるなど、エレノアは初めて見てしまったため、刺激が強すぎたのだ。また、エレノア同様、洋介の隣にいる夏海も顔を朱に染めていた。


 レベッカは取り乱す姉をクラレンスから引きはがし、落ち着くようにと諫めた。


「とりあえず、彼女が目覚めたら、その事についてはキチンと謝罪せねばな」


 クラレンスはさして動揺するわけでもなく、淡々としている風であった。が、心の中では大パニック状態であった。


 そんなことなどつゆ知らず、全員は平然としているクラレンスを様々な目で見ていた。その後、マルケルとイリナが戻ったタイミングで、その場にいる9人の男女は階段へと足をかけ、3階へと続く道を進み始めたのであった。

第141話「母の矜持と治療」はいかがでしたか?

今回はセーラがマリエルを庇って槍を受けたわけですが、今回ばかりはカミラが退いたので命拾いした感じでした。

からの、ラストでクラレンスが紗希に口移しで薬を飲ませるというね……

果たして、直哉がそのことを知ったらどうなるやらって感じですよね~

――次回「ハンパ者」

更新は6/5(土)の20時になりますので、お楽しみに!

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