第78話 風の大精霊
その日、樹はリビングのソファーに座り、コーヒーをすすっていた。
『やって見つけた。適性者様』
樹の脳内に女性の声が聞こえた気がした。
「ん? アリア、今、何か言ったか?」
後ろに立っていたアリアに尋ねた。
「いえ、何も言っておりませんが」
「そうか。なら勘違いか……」
そして、樹はまたコーヒーをすすった。
『適正者様。聞こえていますよね?』
またも、樹の脳内に女性の声が響いた。
樹は辺りを見回したが、そこにはアリアとディルクしか居ない。
「どうかされましたか?」
辺りを見回す樹を不思議そうな目で見ていたアリアが聞いてきた。
「なんか、女の人の声が聞こえたんだよね。最初はアリアかと思ったんだけど……」
『適正者さま。適正者さま』
次第にその声が強く、大きくなっていくのを感じた。
「なんだこれは……」
そう思った刹那、リビングに風が巻き起こった。
「どうなっているんだ……」
思わず目を瞑ってしまった樹だったが、風が収まった頃、目を開いた。
すると、そこには、緑色の髪の毛を腰まで伸ばし、同じく緑色の瞳をした色白で綺麗な顔立ちをした女性が立っていた。
「あ、あなたは?」
「お初にお目にかかります。私、風の精霊でありますシルフィルと申します」
そう言うとシルフィルは一礼した。
「なんと、シルフィル様ですと……」
騒ぎを聞きつけてやってきたセザールが口を開けて驚いていた。
「なんだ、セザールは知っているのか?」
「はい、風の大精霊様でございます」
「大精霊……」
「ほう、この世界にもまだ私のことを知る者が居ましたか」
シルフィルが少し嬉しそうに口を開いた。
「それで、シルフィルさん。俺のことを適正者さまと言っていたのはあんたか?」
「はい、私はあなた様と契約させて頂きたく参上した次第です」
「契約……それは、俺じゃないとだめなのか」
「はい、普通の人間が私と契約しようとすると、マナの量に耐えられなくて発狂してしまいます。しかし、私以上のマナをお持ちのあなた様なら何の問題もございません」
この世界にはマナという魔力エネルギーがいたる所に存在する。
人間も例外なくこのマナを保有しており、このマナの大きさにより、保有できる魔力量が決まるとされている。
「私よりマナを多く保有している人間など300年ぶりにお会いしました」
「大精霊様より、マナを保有しているとはやはりとんでもないお方ですな……」
セザールは驚きを通り越していた。
「それで、シルフィルさんと契約すると何が出来るようになるんだ?」
「はい、加護に風の大精霊が追加され、契約した者はこの世界の風を自在に操ることが可能になります」
「ほう、そいつは面白いな。よし、俺はシルフィルと契約を結ぼう」
「ありがとうございます」
こうして樹は風の大精霊と契約を結ぶのであった。
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