そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)3.9 < chapter.8 >
二回目の世界でも、私の人生は散々だった。
私と兄は一回目と同じように家を出て、同じ時間に地震に遭い、あの高台で、一回目と同じように町が崩れ落ちていくさまを目撃した。
まだ小学生だった私たちにとって、生まれ育ったあの町、ラ・パチュカは、世界のすべてだった。
出発の時刻を変えることはできないし、山へ行くことは中止できない。
『せかいのおわり』を直視して、兄の心は壊れる。
私は不思議な力に目覚めて、自分の身体を抜け出し、兄の身体に憑依する。
町はなくなって、私と兄の二人だけが生き残る。
ここまでは絶対に変えられない決定事項。ただし、その後の生き方だけは好きなように選べた。
一回目の世界で中学校までの勉強は終えていたから、二回目の世界では飛び級をして、十歳で中学校を卒業。そして特待生として、全寮制の魔法学校に入学した。
王立魔法学校は、魔法省への入省を条件に学費、生活費のすべてが無料になる特別学級が存在する。私はそこで、魔法、呪詛、ゴーレム巫術を身に着けた。
問題が起こったのは三年の前期だった。私の成績は思わしくなく、このままでは中央の本省勤務ではなく、地方の下部組織に配属されると告げられた。兄は中央市内の病院にいる。地方勤務では、私は兄に会えなくなってしまう。
そんな私に、王宮式部省から出向していた講師の一人がこう言った。
「私のお願いを聞いてくれるなら、君が式部省に入れるよう、口を利いてあげてもいいんだがね?」
見た目こそ十三歳の子供だが、私はこれが二度目の人生だ。その男の求めている物が、まだ未成熟な女の身体であることはすぐに察しがついた。私は何も知らない無垢な子供のふりをして、素直に男の寝床に連れ込まれてやった。
私は男の助手として王宮式部省に就職。未成年の私は一人暮らしもできず、男の家に住み込むことになった。そしてそこでは朝から晩まで、いつでもどこでも、日に何度でも犯される地獄の日々が待っていた。
日増しに酷くなる要求と、変態性を増していく行為の数々。仕事中も膣にセックストイを挿入していなければいけないとか、小用を足すときは必ず男に見せなければいけないとか、わけのわからないルールが次々とできていく。
それでも私は、黙って命令に従っていた。兄のすぐ近くにいられるなら、何をされても我慢していられた。
十五で妊娠し、堕胎するまでは。
そのときになって、私はようやく気付いた。
こんなことをして生かされていても、兄は絶対に喜ばない。
胎児を殺した罪悪感に耐えきれず、私は男を刺し殺した。それからすぐに自分も死のうとしたが、邪魔が入った。
「ごめんください。ご近所の方から、悲鳴のようなものが聞こえたとの通報を受けたのですが……どなたかいらっしゃいますか? いらっしゃいますよね? 開けますよ? いいですね?」
現れたのは、一回目の世界で私が殺した騎士団員だった。
治安維持部隊の制服を着たその騎士団員は、玄関の扉をこじ開けて、血まみれの私を見つけた。
「……武器を放しなさい」
「いや! 来ないで!」
「落ち着いて。まず、話をしましょう。ね?」
「お前と話すことなんて何もない! 消えろ! 私の前から消えろオオオォォォーッ!!」
と、刃物を振り回してみても、相手は訓練を受けた騎士団員だ。十五の小娘など、いともたやすく取り押さえられてしまった。
けれども組み敷かれた瞬間、私は自分の体を抜け出していた。そして兄の身体を使い、仕事を終えて帰宅中の、油断しきった騎士団員を背後から――。