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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)3.9 < chapter.13 >

 ラピスラズリとピーコックは予定を変更し、その日の最終列車に飛び乗った。サザンビーチ始発、セントラル終点の夜行列車だ。往路に乗車した特急列車は六時間で到着したが、この列車では十二時間かかる。大きな二人は狭い寝台で膝を曲げたまま睡眠をとり、本部到着と同時に調べものに専念できるよう、報告書の類もすべて書き上げてしまった。

 翌十時、中央駅着。

 ターコイズには車内で全てを話してある。二人は真っすぐ旧本部に向かい、滅多に開けられない文書保管庫で、百十年前の特務部隊の任務報告書を調べはじめた。

 442年6月27日。

 日付がハッキリしていたおかげで、この日の記録はすぐに見つけることができた。


〈『神の器』及び『覚醒者』の魔力特性調査への協力〉


 これは魔法学研究所で行われている、特殊能力の研究である。現在でもゴヤ、ベイカー、ラピスラズリが調査対象に指定されていて、種族固有の魔法や他に類を見ない特異な能力について、詳細なデータが集められている。

 110年前のあの日、三人の特務部隊員は調査対象に選ばれた『ユキヒョウ族の覚醒者』を魔法学研究所まで護送していた。

 この『魔力特性調査』では、酷い人体実験が行われるわけでも、非人道的な扱いを受けるわけでもない。本当に簡単な身体検査と、魔力値の測定を行うのみだ。けれども三人がかりの物々しい『お迎え』を見て、怖くなって逃げ出してしまう者も多かったようだ。現代のように小型通信端末が発達していなかった時代では、戦闘力に長けた者、魔法技能に長けた者、通信・記録・ナビゲーション担当の三人一組での行動が義務付けられていた。国家機関からわけの分からない調査協力依頼書が届き、筋肉質な大男が三人も迎えに現れたら、誰だって怖くなるに決まっている。

 あの日、『ユキヒョウ族のグラスファイアさん』は三人の目を盗んで逃げ出そうとした。けれども不注意からホームと列車の隙間に転落し、全身に裂傷・擦過傷・打撲を負った。

 幸い命に別状はなかったが、どういうわけか、彼はいつまでたっても目を覚まさなかった。頭を打ったことが原因かとも思われたが、当時の検査技術では『脳の異常は認められない』との診断が下されている。

 結局、彼はそのまま目を覚ますことなく、脳死の判定が下された。親族に身柄の引き取りを要請したが、彼は分家筋の人間で、親や兄弟、祖父母など、ごく親しい身内はすでに他界していた。

 引き取り手は見つからず、彼は生きたまま、魔法学研究所の『研究材料』となった。

「……ちょっと待て? これ、俺と同じパターンだな……?」

「ター子さん、脳死になって、キメラ実験に使われたんだよね?」

「ああ。それで、キメラ化した時に脳死状態から復活して……」

「ってことは、どっかにいるんじゃない? キメラ化したこの人」

「いや、キメラ実験が本格的に始まったのはここ二十年の話だ。百年ちょっと前に力を入れていた実験というと、魔導兵器と人体の錬成融合だったと思うが?」

「騎士団が絡んだ実験なら、開発部で過去データ漁れるよな?」

「それだ!」

 二人は旧本部を飛び出し、今度は本部敷地内の別棟、魔導兵器開発部へと向かった。

 顔なじみの研究員、ジョリー・ラグー・フィッシャーマンに『錬成融合兵器』の情報が見たいと言うと、彼は眼鏡のレンズから科学的に発生しうるはずのない謎の光を放ち、耳には聞こえぬ『ゴゴゴゴゴ』という心象効果音を奏で始めた。

「クク……クハハハハハ! 錬成融合兵器! 現在では製造が禁止されている、あの武器についての情報ですか!? あります! ありますとも!! 私の大、大、大、大っっっっっ好きな! 錬成融合兵器の情報はこちらになります!!」

 と言って見せられた画面には、一から二十九までの数字が並んでいる。数字の横に武器の名称が記載されたものもあるが、大半は空欄だ。そして武器の名前の隣には、錬成融合の材料にされた人間の名前が明記されている。

「さて、どちらの武器の詳細をお知りになりたいのでしょうか?」

「えーと……」

「あ! あった! これ! 二十二番、バラムンド・グラスファイア! こいつのデータ見せて!」

「ほほーう、これですか。ククク……なかなか面白い武器ですよ、これは……」

 ジョリーは端末を操作し、いくつかのパスワード認証を経てその画面を表示した。

 そこに記されていたのは、武器のスペックをまとめた一覧表だった。


 武器名称: マンマ・ミーア

 基本形態: 二十二口径四連装砲×十二基

 連射性能: 理論上∞

 使用魔弾: 魔法・呪詛・錬金術・ゴーレム巫術等強制解除弾(切り替え不可)

 追加効果: 戦意喪失および強烈な多幸感

 使用条件: 適合率75%以上であること

 特記事項: 使用中は半径100m圏内に原因不明の幻聴、主にレゲエミュージックや人々の笑い声、歓声、拍手、指笛、足を踏み鳴らす音などが聞こえる


「え……なにこれ。マジで武器?」

「冗談じゃなくて、本当にこういう性能なのか?」

「ええ、本当にこういう武器ですよ。少なくとも、誰もが武器のつもりで設計し、融合実験に臨みました。しかし、出来上がったものは武器の形をしたよく分からない物体だった、と。まあ、素材として使われた人間の能力特性が戦闘向きではなかったのだと思いますが……」

「これ、現物は?」

「御覧になりますか? つい数日前にメンテナンスしたばかりですから、使える状態ですよ。ただ、ユキヒョウ族でないと上手く動作しませんがね」

「大丈夫だ。情報部に、この武器の材料になった奴の親族がいる」

「親族!? もちろん血縁者ですよね!? 誰です!? それなら間違いなく使えますよ! ただちにご用意いたします! その方をここに呼んでください! 今すぐに!!」

「あ、ああ。分かった……」

「クハハハハァーッ!! マンマ・ミーアッ!! ついに起動するところが見られる! 見られるんだアアアァァァーッ!!」

 ジョリーは妙なテンションで高笑いしながら、ラボの奥の倉庫へと消えていった。

 ラピスラズリとターコイズは、無言で顔を見合わせる。

 過去の世界でラピスラズリが事故に気付かなければ、グラスファイアという名の青年は列車の車輪に巻き込まれ、バラバラ死体になっていたはずだ。ただの死体では、錬成融合兵器には使えない。つまりこれは、本来であれば作られなかったはずの武器なのだ。

 これまでの時間軸に存在しなかった武器が、今この時間軸には存在している。しかもどうだ。材料になった本人と瓜二つの男が、今まさに、この騎士団本部に存在するではないか。

「……ター子さん、これ、間違いなく歯車噛みあっちゃってるよな?」

「ああ……おそらく……いや、絶対に! ループを抜けられるパターンだぞ、これは!」

「マンマ・ミーア! ここにきて、一気に動き出しやがった……!」

「『なんてこった!』なんて名前の武器があるなんてな!」

 開発者たちがヤケクソでつけた名前であることは容易に想像できるが、今はそれが最高のネーミングであると断言できる。

 二人はアズールを呼び出し、問題の武器の登場を待った。


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