01-日常
駅のホーム。通勤通学の時間だけに沢山の人が並んでいる。
アナウンスと話し声、それに人の歩く足音が混ざり合う。
誰が何を話していても気にしないような冷たさがいつだってそこにはあった。
ただ、大きな話し声は迷惑そうに顔を歪める者もいる。
「ねえねえ、聞いた?隣のクラスの火野、能力者だったらしいよ。」
小声で話しているつもりなのだろうが女子高生の声は思いの外響いており周りの人間にも聞こえていた。
よくある噂話。
「え、マジ?」
「マジマジ。ミホが親に聞いたんだって。ほら、あいつの親ってアレじゃん?」
アレとは能力者管理委員会だろうか。
もしそうなら守秘義務違反である。
「かっこいいと思ってたのにショックだわ。バケモノだったなんて。」
バケモノ。
世間では未だにそういう認識なのかと思えば悲しさよりも虚しさを覚える。
三人組なのに一人だけ会話に入っていない少女は他の二人と少し、毛色が違う。派手な二人に対してやや地味で大人しそうな可愛い子だ。
よくあるパシリというかやられ役という奴なのかもしれない。
「ホント、バケモノが近くにいたなんて怖いよね。ちゃんと隔離してて欲しいわ。」
「能力者はバケモノじゃなくて人間だよ...。」
控えめな声が二人に反論する。
「は?あんたバケモノの味方なの?」
「ヒヨコちゃんが反論するなんて珍しいじゃん。あんたもしかして能力者バケモノなんじゃないの?」
馬鹿にしたように笑いながら一人の少女に詰め寄る二人は見ていて気持ちのいいものじゃない。何人かの人たちが迷惑そうに、あるいは何かを言いたげに三人を見ている。
能力者の話だからか聞き耳を立てている人が多い様に思える。
「能力者も人間だよ。私たちと同じように感情のある普通の人間。足が速い人や目がいい人、運動が得意な人や勉強が得意な人がいるのと同じ。別に私のことは本当は嫌だけど、幾ら虐めて蔑んだって構わない。でもあんまりそうやって生きてるといつかとんでもない事が起きるよ。」
気弱げな表情は消え二人を見据える少女からは強い意志を感じた。
その表情に古い記憶が揺すぶられる。
見覚えなんてあるはずがないのにその目に懐かしさを感じた。
電車が到着し靚しずかは三人を気にしながらもその場から離れ学校へと向かう。
能力者が一般に認知され始めてから100年近くが経つ。偏見は消えない。
国連がなんと言おうと気にしない国は気にせず能力者への差別的な法律の残る国は多い。
日本ですら30年前までは普通に差別的な法律が存在した。今では廃止されてはいるがそれでも人々の中から差別意識は消えていない。
人は自分とは違うものを受け入れない。マイノリティへの偏見はどの分野でも変わらないのだろう。正しい知識を、教育を、国が主導して行うべきなのだ。
しかし、多くの国で軍事利用が検討、採用され、日本でもその風潮が高まっている。
「みーさき!おはよ、また考え事?」
唐突に後ろから肩を叩かれた。
考え事をしていると注意力が散漫になってしまうのは実咲靚みさきしずかの悪い癖だ。
「おはよう、皆木。うん、朝駅でちょっとあってね。」
クラスメイトの皆木司みなぎつかさはクラスのムードメーカーでいつも中心にいる人間の一人だ。性別をあまり感じさせないところが人気がある。らしい。
靚に声をかけてくる珍しい人間の一人でもある。
すれ違う生徒の多くが皆木に挨拶をして皆木も挨拶を返す。
いつもの朝の風景。
幸せな日常だ。
もしも靚が能力者だと知ったら一瞬で消えて無くなる風景でもある。
靚はこの日常を愛していた。
そしてこの日常を与えてくれた全ての人に感謝もしている。
読んでくださりありがとうございます。