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世界革命最前線より  作者: 気変 ユウユウ
3/3

妄想のプロローグ

「――あー、やっぱり駄目! うん、ぜんっぜん駄目だね! こんなのありきたりすぎてもーつまんない! 可愛い女の子にちやほやされて、俺つえぇーうぃー! なんてやってるだけじゃねえかよ!」

ぐしゃぐしゃと原稿用紙を丸め、頭を掻きむしる人影。

黒ぶち眼鏡に透き通るような不思議な色をした長髪、柔らかそうな体を包むはだけた部屋着、頭のそれは王冠のような形をしており、うさ耳リボンがくたびれている、腰の翼もだらけていた。

「んー……やっぱり三日坊主なんだよなぁ、ボク」

尖らせた唇にペンを乗せる少女。

「なんかこーう……ビリビリっと来て、ズガガーンって感じのー、うーん……うぅぅうううっ!」

作業机を叩き、立ち上がった少女は急ぎ足で向かう。

「好奇心が足りない……冒険が足りない……ワクワクも、ドキドキもないっ!」

締めきっていたカーテンを開け放ち、眩しい光を浴びるように窓を全開にする。

「あーあ、こんな時、あの子がいてくれたらなぁ......」

窓辺に頬杖をつきながら、少女は思い浮かべる。

あの楽しかった日々のことを。

あの輝かしい冒険の日々を。

「............あ、いいのできた」

すぐさま少女は机の前に座り、原稿用紙に筆先を走らせる。

そこに、いつか訪れてくれる「あの時」を込めながら。

「あの子」との再会を願いながら、彼女は――アリスは『妄想』する。

――帰ってきて、ドロシー…………。



――昔々、あるところに、冒険が大好きな女の子ドロシーと物語が大好きな女の子、アリスがいました。

二人はとても仲が良く、いつも一緒に遊んでいました。

ですがある日、世界が変わってしまった日のことでした。

ドロシーは悪い王様、オズに封印されてしまい、何百年も眠りについてしまいました。

アリスはひとりぼっちになってしまいました。

そんなアリスは悲しみを紛らわせるために、今日も冒険話を書き続けています。

いつか来るであろう救世主と、相棒ドロシーとの再会を待ちわびながら…………


しかし、アリスは知らない。

彼女のそんな『願い』が、世界の形を変えていたことに。

彼女のそんな『妄想』が、人の心さえも変えてしまうことに。

たった一日、たった数時間で、アリスの不思議の国は変わってしまう。

そう、アリスの『妄想』のように…………



「…………なに、これ」

アリスは驚愕に目を見開く。

覚えのある街並み、覚えのある服装、覚えのある景色…………もう言葉も出ない。

「一体……何が……」

ただ食料を買いに来ただけなのに、見渡せば見渡すほど、あの『妄想』の数々が思い浮かぶ。

思い描いた冒険の日々が、鮮明にかつ悲しく、アリスの胸を突き刺す。

「まさか……そ、んな……嘘だよ……だって、だって、今まで……ずっと」

アリスは後ずさる、現実から目を背けるように。そこで、ある「弱い心」が手招く。

――そうだ、そう、これが現実じゃない。きっと夢だ、妄想、そう、『妄想』なんだよ。だって、こんな都合のいい話はないもの。

逃げてしまえばいい。そう、逃げてしまえば何の問題もない。

こんなことになったなんて、まさかなるとも思ってなかった。

――今の今までなかったのに、まさか……いや、まさか……そんなはず。

『妄想』、それがアリスに与えられた権限だった。

考えたどんな現象でも起こさせてしまう、アリスにはそれが許されていた。ある時期までは。

ここ数か月は全く発動することなく、気に掛けることすら忘れるほど。

それが、なぜ今になって発動したのか、アリスには到底理解ができなかった。

だけど、だけど……アリスの胸を叩くこの感情だけは、分かっている。

「…………ドロシー、ボクは……一人でも、できるかな?」

いない右隣を見つめるが、もちろん返事はない。

分かっている、だが、どうしても聞かなければいけない気がした。だって――

「――そこのお嬢さーん、お困りでございますかー?」

アリスは知っている。この物語は……いいや、この『妄想のプロローグ』は、彼女が最後に願った希望なのだから。

「あらー、誰かと思えばアリス・キャロルさんじゃないですかぁー……ようやっと会えましたよ、『運命の人』?」

まるで挑発するように目を細め、にっこりと笑みを描く少女。

一言でいえば死神を模したような少女だ。

黒髪ロングに黒目、片目を花で覆われ、フリルとレースに包まれたゴシックロリータに身を包んでいる。そして何より、古ぼけたそのトランクが異質感をさらに引き立てていた。

「待ってたよ、ボクの『運命の人』……さぁ、世界を救いに行こうじゃないか!」

「はい、そのためにわざわざ来たんですから」

アリスの駆け足に続く少女。

こうして、本来の物語が幕を開け始めていた。

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