表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/37

9話:包囲

本日1話目


次の話は本日18時に投稿です(血反吐




「へぇ…随分暖まってんな」

虹色の亀裂の周りにいる部隊の奮闘を見て思わずオレはそんな感想が零れた。

間近で見なければ信じられなかったが、成程確かに大地の果てに大地がない。

浮遊島って言うのは間違いないんだろう。


そして、虹色の切った傷痕のようなものが虚空で揺らめいている。

あれが、オレ等みたいな世界の外にいる外来種を招き寄せるための穴、と。

時折世界にはこういう穴が開くように『天使が作り出した』んだそうだ。

善も悪も聖も邪も区別なく世界から放逐されるあらゆるモノを

この浮遊島世界に変革やら確信やら可能性やらをもたらす為に生まれた要素。


成程、こいつは本当に天の使いも信用できないだろうな…。

次元の亀裂からジャイアントみたいなものも出てくれば、気圧の摩擦で起きる巨大な竜巻と言う現象そのものまで区別が全くない。

どんなものでも飛び出てくる厄災と希望の源泉だ。


そしてそのもっともたるものがこの世に齎された故にこの次元の亀裂を容認せざるを得ないというのが憎らしい話だ。


誰もが察している通り、それは水だ。

この世には天高き所から次元の亀裂を通して水天球と言うものを召喚び出している技術を生み出している。

夜になっても決して沈まず輝き天から底へ水の恵みを生み出す第2の太陽。

それを固定化させた神と人物が200年近く前に封印され崇められながらどこかで深き眠りについているんだそうだが…


何はともあれ現在の時刻は20時。

飯を食べて風呂に入る手前になってカジメラのオカミさんがアンソニーの嬢ちゃんに尋ねたところ、

その次元の穴がソムロの館の裏手にある森。

それが開けた丘陵の上空に発生するとアンソニーの召喚獣である竜アジーってのが観測していた。


彼女の召喚獣であるその竜は概念存在としても受肉存在としても両方の状態を使い分けることができるような凶悪な存在と言えるらしい。

まあ普通にやばいと予感はしている。


言ってしまえば空飛ぶ魔法大砲みたいなもの。

しかしてオレですらその脅威度は知っている。

空を飛べる魔法使いを予測できなかった末路はオレが生きた世界ですらも時代の転換期を知覚できなかった弱者となると知っていた。


戦場の常識がそう言った存在がいるだけで塗り替えられるのだ。

爆発する鉛を飛ばせるようになった時も起きたような戦争常識の更新。


平面の戦場が多面体となる事はそこから遠くなかったが、

その多面体にする戦力が1人や2人で可能になり、

縦横無尽に蹂躪できるようになる形になるなんて15になる前のオレも想像できなかったんだ。

いや、それでも15では死ななかったけどな。

相手が攻撃できない高度からの一方的な殺りく。

地面に横たわる屍にオレ達がならないのはオレ達を見下ろすその魔術士がオレの師匠の1人であったからでしかない。


しかし、その亀裂から出てくる来訪者相手にその竜は使わないんだそうだ。

使うまでもないとも。やっぱり規格外な部隊だな、このWVって部隊は。

虹色の亀裂は2部隊10人が包囲している。

次元の亀裂の周囲にはムニューリムって娘の魔術認識阻害の欺瞞魔術であるスペルチャフが撒かれ、

トパードローズの部隊は亀裂の斜め下方に部隊などを展開している。


彼女の従者であるメイドのリタバーゼが死霊の魂達を引き連れているようだ。

小さな天使の翼を持つ光の玉が足元の死霊の魂と違い彼女の肩に乗っている。

丘陵が開ける前の森の方にある高所の崖には後方攻撃班として

エドウィックとドアスト、アーシェ、ティエレッタ、ウーリがムニューリムを護っている。

ティエレッタの召喚獣は竜の軍勢ドラクロト・レギオン。

本体の鬣の数だけある竜の軍勢だが今は10体程度にとどめておいている。

総数10×2部隊を亀裂の真上と前方に配置している。


森や崖にいる彼女達を狙う事があっても天使の加護を得た聖なる死霊の軍勢に背を向ける事になる、

上からは竜の軍勢の火炎が無数に降り注ぎ前方の方には魔弓の矢や大砲に魔糸の罠が数十二張り巡らされている。

余程の化け物でないと生き残るのも困難な包囲状態だ。

あ、一つ目の巨人がたかられた死霊達に肉体を食い破られてくたばった。

そう言うのを横目で見ながらオレは尋ねる。


「んで、こういう時は臨機応変に動いていいよとアンチクショウの領主から許可を得ているというわけで?」

「そうさね、まあ発生はすぐに感知できる強力な助っ人がいる。

アタイ達は有事の時も自然体で臨める。

艦の方も今は手薄だけど普段はご覧の布陣が基本的になる時もあるからね。

アタイ達はもしもの保険だけど」


「まあ」と後ろで神妙にしているエクリアとミュウを見ながらカジメラはこう付け足す。

「件の目標は最大の護衛を付けないと安心できないだろうからアタイ達が本命なんだよ?

しっかりしておきな」

「そうは言っても、こんな包囲状態を掻い潜ってくるようなバケモンを実質3人で防衛ライン張れとかガキの傭兵団でも―

「自分が可愛いなら逃げりゃいーのです。ミュウは止めないのです」」

オレはついさっきの意趣返しかと思うよりも言い返せたミュウを驚きの目で見てしまった。

もう短い間に覚悟を固めたとでもいうのかこいつ?


でも結局膝は笑ってた。成程なあ…

「紳士が1番に逃げ出してエスコートできないのは不名誉だわ。そこは遠慮させてくれよ?

しっかり寝どこまで送り届けるぜ?」

いい加減眠ぃーしな。

「へーほー…主人ほったらかしにしてまた始めるわけ?」

「はい?当然マスターが最重要でございますが何か」

「みゅみゅみゅ!点数ナチュラルにとられた感じなのです!」

「ハン(笑」

「よろしい」

と、そんな掛け合いの後にそれはやってきた。


ジジジジジ…!ヌゥウウウン…!!!


初めに伸びたのは人の大きさほどのある腕のようなものだ。

次元の狭間から出てきたのは6本の虫のような節足に人間の上半身と回転4連総銃身を持つ機会巨人だ。

装甲の隙間から緑色の風のような光が漏れており後ろへ尾を引いている。


ズズゥウン…


空中で器用に下半身をクルリと回転させてそれは着地した。しかし。


ズズズズズウン!

ドラクロトレギオンの群れの1つが腕を溶かし落とし


ドシュンドシュンドシュシュシュシュシュシュシュシュシュ!

ウーリの部隊の攻撃弓がもう片方の腕をもぐ


シュウウウウウウゥゥウウウウウゥゥウン!

亡霊の群れが一斉に光の射線を作り足の大半を削ぎ落した。


亀裂から飛び出して早々の歓迎。魔矢と火焔砲、背後からは亡霊の魂を狙う食らいつきが殺到する。

その全てが漏れ出していた緑の風なども綺麗に消し飛ばし、

鉄の装甲や節足に腕をやり過ぎなほどにもぎ取っていく。あーうん、もう滅茶苦茶だよ。

出番なかった…と思いかけた所で


そいつは人で言う所の頭部―コックみたいなのを深くかぶったような面をこっちに向けたんだ。

まるで目標がそっちにいるかのように。そしてその光る眼はミュウを綺麗に映していた。

なろう、こっちに来る気か。


ダンッッッ!!!


鉄巨人の行動は早かった。何を構う事もなくこちらへ跳躍し突進してくる。

3本の節足が今さっき跳躍の衝撃で2本になったのすら構わないで緑の燐光のような風を一層纏いながらこちらへ一心不乱に飛んでくる。

だが最早詰み、だ。


ズバン…


何を考えるまでもなくオレは予めエクリアから渡されていた刀身の無い塚からそいつの頭部部分と胴体部分を次元の刃で分断する。

その後刃をクルリと地平に平行から垂直に変えて胴体も切り裂き最後に


バチィン…


女将が事前に張っていた不可視の障壁で墜落。バラバラになった鉄巨人が墜落した所を4人で見下ろす。

「さて、さっき見た何かに見覚えあるかい?」

「あるわけがないのです」

「帝国に似たような種別の自動機械なら見覚えがあるわ。

標的を常に自動で追尾する多目的兵器テンペスタス。その巨大型ね。

貴族の集会で集まる大きな都に1つか2つくらいしか配備されてないから帝国臣民でも知るのは貴族の中でもごく一部かも」

ミュウの受け答えと反しエクリアはしっかりと答えていた。しかし、

こんな異界と繋がる亀裂から出すモンまで利用する奴らもいるとは。


…いや違う。使えるもんはどんなもんでも利用するんだろうな。この世界の常識の1つとして―


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ