8:危機は既にそばに
注!タイトルがネタバレです。
また後半から他人視点が入っています
「待っていろ…!オレは必ず蘇る!
そしてオレはこの世に混沌と闘争を再びもたらしにこの地へ降りてくるだろう…!
その時こそがこの世の平穏の最後だ…!」
「何を言ってるんでしょう…」
「や、何か言わなければいけない気がして」
「脳みそ手術はベガちゃんとアーちゃんが特注してくれた2人の魔糸A3の繊維で作られた手袋が有効…
「あー待った待った!分かったもう大人しく真面目に検査されっから!」
いきなり引っ張ってきたのは済みませんけど少し騒ぎすぎですよ」
ピッピッピッピ…
オレの体に警戒も少なく測定機みたいなものを張り付け
そこからどんな生き物にも流れてる脈拍やら魔力鼓動調やらを測定しているんだそうだ。
ただ、オレの場合は違うようだけど。
(まあ当然だよな)
この部屋にはオレが検査のため用意された椅子に座った瞬間から様々な角度と高度から鋼の糸が張り巡らされている。
どういうわけかこの糸はケーラがいつでもオレの首を締め上げ関節を外すためにあるらしい。
ここで詳しくオレの体の話を聞いたことによると。
オレは魂だけでありながら自分で「死」を自覚する事で一時的にこの世とオサラバはする事になるらしい。
それも一時的なものな上、このままで終われるかなんて気持ちが少しでもあれば意地でも立ち上がれる可能性があるとか、
気持ちだけ不屈なら戦えるって何の戦闘民族だよ…でもまあオレの精神力はたかが知れている。
少なくとも
死後の世界なんぞにオレはそんな興味はなかったし。
でもまあそれは…と検査結果の詳細を記した投影盤を見せてくれるらしい。
「出力は安定していますね…そしてこのまま魔法次元論回路の定着が進めば
生身と早々変わらない魂魄として望むままに見聞きした服装なども想像だけで着替えられるようになりますよ。
あえて男の娘みたいな服装も可能です」
待て待て待て確かに騎士団じゃ女顔言われたりしたオレだけど!?
ここでもそのネタ使うのかよ!?え、オレの顔?知りたいの?
茶色い目に黄色に近い橙の髪を首の後ろ辺りでひもで結んでいたのも死んだ瞬間と同じだった。
そこ!髪を伸ばして男の気を引こうとしたんじゃとか思うな。
オレ180は身長あるから間違われねーだろ、…間違われませんよね?
改めて首周りに切られた痕が無いかガラスで確認したがそれはなかった。
今も呼び出す媒介となった鎧を外したので改めて首を擦ってみたが切られた痕は影も形もない。
まあ腰回りに丸い穴が開いた状態で召喚び出されたじゃ堪らないもんな。
冷静に考えればその通りだろうが。
「この検査終わった後訪ねたい事があるんだが」
「…」
ジロ、と少し無機質にケーラがオレの方を見る。
「ケーラの方じゃない、魔術とか魔法とか神秘に博識な人に聞きたいんだ。
まあ聞いてくれてもいいがそこだけの話な」
「…」
ケーラの視線がオレから外れる…と思ったら壁に頭傾けて寝た!?いや、
襲おうとかは思わないが女性二人しかいない所だぞ…不用意過ぎないか?
部屋にある罠を無効化させられない自信があるとでもいうのか、それとも…
と思っている間に
「ケーラは大体私生活がズボラなの。戦う時は相当苛烈だけど…はい、終わったよ」
オレの体からピトピトと張り付いていた測定端末を外す音と共に
アンソニーが肌に直接触れて確認みたいな真似もしている中でオレは訪ねる。
「えーとだな、何か不幸体質みたいな生まれ持って何か引き付けてしまう概念みたいなものってどうすりゃいいと思う?
魔術士みたいな専門家ならそう言うのを切り離す術はあると思うんだが」
言った後でしまったとオレは思った。これ、ミュウ自身が口にした内容のまんまだった。
情報を遠回りに言えねえ…そんなこっちの気はしないのか、
それともそれすら汲んでるのか、アンソニーの嬢ちゃんは返答してくれた。
「生まれ持ったものを切り離せられるかと言うと難しいよ。それこそ今までの自分自身を否定する、とか
くらいな努力が必要になっちゃうんじゃないかな…」
それは少しでも変わるしかないと周囲の環境に流される諦めなのか?
人は生まれてこの方学んで適応していける生き物ではあるだろうけどさ―
あれ?待てよ。
「ってことは、その心の持ちようとかが変われば切り離しても代償は小さいってことか?」
「言うには簡単だけどそれを行うのは本当に難しいよ。命が辿って来た道のりを否定しきるなんて」
「……だよな」
命が歩んできた道のりは生まれてからどのようなものでも祝福される。
狩人だからこそ生まれある事に感謝できる。感謝しながら頂いていく。
オレが食った腕を持ってた老婆だって輝かしい人生があったんだ。
殺す事の本当の重さを【あの日】に一番知っておきながら命なんざそんなものと山ができるくらいには殺した日々。
どちらも矛盾していながらどちらも否定できない。
命が本当に単純なものなんかじゃないと分かっていたはずだ。
「次点の案として、それを受け入れ向き合い常に明確化させておくこと。
そっちは?」
「……何とも言えねえ」
「まあ正直にいうと」
アンソニーの口調がいきなり申し訳なさを帯びる。訝しむオレをよそに彼女はこんなことを口にした。
「トラブルが向こうから引き寄せられてくるならそうそうくると思うんだよね」
<<その通りだ、主よ>>
ヴウゥウウンラァァア…
突如響いたその声は部屋中を揺るがさんばかりだった。
瞬時に立ち上がりケーラの鎧を引っぺがそうと部屋中の罠線を掻い潜ろうとした所で
<<待て若人。仲間内で争いを望むと思うか?>>
呼び止める声?関係ないと思うが暗がりが既に部屋全体を包み込む。
クソ、こういう手合いは苦手だ。オレ自身がどんな存在になっても。
「オレはお宅を仲間と思った事はないんだが。姿も見えねえ誰かをな」
<<それは申し訳ない。何分巨大な概念故に影と…ほれ、目だけでもその窓際に見えるようにしたぞ>>
窓全体を巨大な眼球と影がのぞく。影の角や翼で分かる。竜の影だ。
「せっかちさん、とは言わないけど落ち着いて。私の召喚するものは図体の調整と受肉顕現が面倒なんだ。
それと、謝る事はもう1つある」
「ほーへー、とまずは。流石に慌てた粗相を許し願おう、ってな」
「おや、紳士だね。口調のわりに…と言ってる場合じゃない。
アジー、報告を」
<<ウム、次元の亀裂が穴場の付近に発生するだろう。
その確定がすでに出ている>>
「は?」
思わずオレでも絶句した。
今この部屋全体を暗くした竜の影は何て言ったんだ?
次元の亀裂が穴場の付近に発生?そんなものを観測するって…
<<あの娘の魔力属性から干渉・侵蝕確立を逆算するに外来種が出てくる可能性は既に振り切っておるな。
夜中にあ奴の館裏にある森が騒がしくなろうよ。
ただでも知性ある魔の者達の匿い場故な>>
「元からこの特務隊が結成された時点で厄介ごとが吸い寄せられる装置は
【この浮遊島自体】がそう機能されているんだ」
あ、もうオレの頭の許容量突破しました。好きにして下しあ。
*
―他人視点―
壁と言う壁、網と言う網を掻い潜り脱出点を探し出す。
それが任務。
何か魔導反応が近くで感知した時からそういう行為が自分の中で得意となった。
―コッチダヨ ホラ コッチダヨ―
挙動が次第に錆び付いた同胞達のような時の流れに身を任せた結果みたいに動きが制限されていく。
それでも自分の体は動く。
ただ、その役目を果たすためだけに体を前へと走らせる。
自分の下にあるあるモノを届けなければ。届ける?誰に?
―トツニュウ! イリョク テイサツ チュウイー!―
―クスクスクス… クスクスクス…―
向かう先の白い灯が広がっていく。なぜ威力偵察?
と思いながら自分とは?という疑問に今更行き着いた。
なまじ思うという事が生まれた日から他の同胞と離れこの誰ともわからない者の命令に従いあちこちを進み続けた。
どんな意味があるかもわからずに―意味など必要だったか?それすら分からない。
命令は果たさなければ。ただそれだけが自分の全てだったのだと白い光に身を投げ出しながら気づいた
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