7:度胸
1話目です。2話目は18時に投稿されます
ミュウが打ち明けた点は3つだった。
曰く、呪われた子として魔物から侵略を受け村が壊滅した
曰く、その後性奴隷で売られたが処女を抜かれそうな所を騎士がちょうどその雇い手の領地経営の裏帳簿を掴んでおり屋敷の使用人として自身の無実が証明され騎士の侍従となる
曰く、その騎士が国の裏切り者で領土戦争を仕掛けようとしていた噂を聞いてしまいまた侍従の立場からまた売られる羽目になった
因みに先程証拠とされた裏帳簿は騎士のねつ造した騎士の持つ領地の横領証拠が大半だったとの事
「そして私はご主人様の下へ売られたのです。正確にはご主人様のお父上がミュウを買ってくれたのです」
「それから3年、あたし達は姉妹のように幸せな日々を送っていたの。
ただ…」
破滅は簡単に訪れる。エクリアとある男の帝国役職決定試験。
そういう名前をした出来レース。
エクリアはどう足掻いても失敗するだろう要人の殺害に失敗し。
その男の方はそもそも親の金を握らせ試験自体をパス。
とんとん拍子にアカシラは賄賂や裏帳簿などの濡れ衣を着せられ国外へ追放どころか両親は見せしめ処刑確定。
アカシラという家は本来帝国でも有数の王族輩出の伯爵家の1つだった。
しかし、エクリアだけしか今回は生まれず。それでも権力やらを笠に着る気質ではなく軍属魔術で領地の民に圧制をしていたわけでもない。
オレが魔力を通して感じたエクリアの力は魔術、魔法のどちらの形態にしてもそれを簡単に手放すわけにはいかない代物だと分かる。
それをどうして奴隷にまでしようとしたのか。研究材料にでもする理由が欲しかったとか?
それにしたって強引が過ぎる気がする。もっと大きな陰謀みたいなものがエクリアとミュウを襲おうとしているのか。
「何にしても、うちのご主人まで奴隷にされそうになる運びになりかけ。
公国へ亡命する羽目になった、と」
エクリアの言葉をオレが引き継ぐ。
「なるへそ、何としても追いたいと思う者共は沢山いるわけだ。
そしてそういった風の噂みたいなものを問答無用でミュウは引き付けてしまうと」
「さっきから誰が名前で呼んでいいなんて言ったのです…」
「じゃあ何て呼べばいいわけ?」
「……ミュウでいいのです」
「ただ帝国の中でも敵ばかり、という事はなかったのだけどね…」
ミュウも椅子に座り自分の作った野菜包をつまみ出した。
エクリアとミュウを何としても奴隷にしようとした奴は既に失敗ともいえる。
しかし、問題はその後だ。
その後まで手が回ってない保証なんざどこにもない。
「公国で誰か伝はないのか?商人とか、何かしら魔技術に詳しい人とか」
「全くいないわ、私達が子供の頃から公国と帝国は宿敵宣告をお互いしていたもの」
「ゾルス連邦とやらや他の国々は?」
「誰もが帝国の出身というだけで、いい人が寄って来る事は無いはず。しかもアカシラは王族側近家系よ。
悪意と打算で近づく物以外後を絶たないわ。そうじゃなくても…
上層の人間って選民思想がどこまで根付いているか分からないもの」
一言でいって、ここまで来れた事自体が奇跡と言えるくらいには詰んでる状況なのか。
「味方を増やせる当てはないと?」
「あの賊部隊にもどれだけの間者がいるかなんてアタシでも知らないわ。
どこの国からの間者かまで含めて、ね」
思わず天井を見上げる。
今すぐ声を上げて「お手上げだから何もかもぶちまけたい」という言葉を呑み込む。
考えろ…情報の質は非常に大きい。しかし、それを手になんとかできる方法が浮かばない。
「やっぱり女将さん達かなあ」
「裏表、なさそうだものね。ぶつかってみる?」
「うんにゃ、選択肢はもう1つある。あえて何もしないという道もだ」
「何が言いたいのです?」
盛大に流れをぶった切ったオレに盛大にツッコミを入れてくれたミュウに向き直り言う。
「選び取るのはミュウ自身だから。抱えているものが大きいって言うのはさっきの話で分かった。それを他の誰かにも拡散するか、だ。
オレ達3人で何かできるかと言えばそうでもないが、『今は何も起きてない』。
3人の秘密にするか、他の誰かも巻き込みに行くか。
この選択でも誰かの未来は変わるだろ。オレ達であれ、他の誰かであれな」
そういいながらオレは野菜包とスープを腹にながし込む。動く準備はミュウが考えいる間に済ましとかないとな。
しばらく野菜包を食べたミュウがまず椅子から立ち上がった。
「アホ騎士、礼は一応言うのです」
「クオンだ、名前くらい覚えてくれよ」
「気分で覚えるべきか決めとくのです。あのでかいオカミさんに会いに行くのです」
*
―視点:3人称―
場所は変わりグリフォニアテンペスの中央付近厨房。そこでは3人が話をしていた。
「んーで、アタイの所に来たってのかい」
「アホ騎士…惜しい奴を無くしたのです」
「死んだみたいに言うんじゃないよ、うそメイド」
「炊事洗濯風呂掃除までできて侍従を名乗れないってここの仕事場はどこまで厳しいのです?」
厨房にいたのはエクリア、ミュウ、カジメラの3人だけだった。
普段はレウフもいるのがこのWVでの日常でもあるのだが今日は何かレウフは用事で出払っている。
時刻は夕刻。
カジメラを探していた3人は途中でアンソニーとケーラに会った。
ちょうど良かったとクオンは捕まってアンソニーの私室へ連行された。
アンソニー達にカジメラが今どこにいるか尋ねた所夕飯を作っている厨房の場所を教えてもらい、
部屋を探すも途中で艦の複雑な構造に迷い込んでしまう。
結局辿り着くまでアルトレートに会って口説かれるわ、
トパードローズの余計なおせっかいにミュウが遭うわと辿り着く頃には夕飯の鍋が煮あがる頃だった。
(おいしそうな臭いね)
エクリアは他人のように思う。
自分もこの艦の部隊にクオンが入れば自分も付いて行かなくてはならない事を忘れる煮食材の香りだった。
「そんな大層な秘密抱えて気付かなかったウチの乗員は何人いたと思う?
家事の問題を問うたんじゃないよ。
俗にいう希少魔力の波長は既に数人がアンタを目にした時から識ってたようさね」
「…」
エクリアは答えることができない。
たとえ属性が特殊なものでもそう言うのを感知できるものを特定できるかは別の話だ。
その中で誰がどのようにミュウの中にある魔力の色をどう識ったかはエクリアも知らない。
「ま、詳細は識っている本人が語らない事にゃ分からんね」と言うがエクリアはカジメラを見上げ考える。
このエルフはどこまで分かっていただろうか?だが、今はそれを考える程エクリア達に余裕があるわけでもなく。
「何かしら不幸はあの館を中心に起こり続けかねない事態になりますわ。
それはあなた方も望む所ではないと思うのですけど」
あえて強気に出なければなめられる。こういう居場所がない場合の交渉はエクリアも経験した事はあった。
自分にも力はある。利便性がある力を持った自分からの頼みなら無碍にはしないはずだと。
(尤も、あたしは…)
そう言いながらエクリアはWVの面々と彼女自身が契約した騎士の顔を思い浮かべ、しかして頭を振る。
クオンの上斜めをとった帝国の戦艦を容易く破壊した時の真剣な顔に胸が高鳴りかけたのを否定したかった。
何にせよ。皆、憎めないし力になるならもう決めている。多分この場所はそこまで悪い場所じゃないと予感はしていた。
外部協力者は考えるにしても。そう考えている内にカジメラが口にする。
「そうさねえ、お嬢ちゃん…鉄火場に潜り込む度胸はあるかい?」
ふくよかな体に似合う甲斐甲斐しい母性ある目つきから一転カジメラの目つきが戦場の戦士が持つそれに変わる。
それはさながら齢数千を生きた竜すら平気で飯の窯に投げ込む程の凄みを帯びていた。
「俗にいうその言葉で大体合点はついたよ。星の下に生まれたとか、そういう希少さならいずれは向き合わなければならない問題さね。
何も死ぬような思いを必ずしろ、とは言わない。でも、アタイ達はそれにかけられる宛てくらいなら知っている。
期限は2人のナイトになってくれそうな若人共が行く前に済ませときたいが、ねえ」
ニヤリと豪快に笑いビルオラは提案を持ちかけた。
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