5:ウォーノッドヴァンガード(後編
休憩がてら覚えた人員を記憶しとくため不思議そうな材質の紙―多分WV特産で
さっきの姉妹工作主任の2人が作ったものだな―に羽ペンを奔らせる最中、
誰かがさっきまでにぎやかだった共同スペースだろうここに入ってくる。
「うん?」
「あら」
この前看板の更にプロペラントタンクの間にある柱周りで戦闘していたウサギ獣人の少女だ。
胸はウーリと同じくらい、ただ…こちらのモデル体型が非常に男の嗜好を刺激しそうな毛皮の付き方などをした少女だ。
そして気の強そうなエメラルド色の目がオレの顔を映し出す。
「そういうのは手馴れてまして?」
こちらを慮って言ったのか、声音に戦場で聞いた苛烈さはない。
「元からこういう業務は叩き込まれた側なんだぜ。
…ふと思ったんだが、あの天使の自己紹介がおざなりだったな」
「レウフ部隊長の召喚するレイサールのですの?むしろしない方が良いとも言えますわ」
「そりゃまたなんで?」
彼女のウサギの耳が鮮やかに揺れている。そのピクピク動く耳に栓をするような形で、
魔法石のようなものが生えているようだ。
これまた珍しい力を持つ亜人の希少種なんだろうかねと思う彼女の口から返事が来る。
「神から与えられた権能は誓約外の事を奇跡とすらいえる御業で可能にしますわ。
天使とは悪魔の相半でも命の味方ではありません。
魔族が悪魔と呼ばれない理由は天使と相反しないのもありますが何より彼らの誓約を監視している役目もありますの」
「ってことは天使達は自身に定められた秩序の為に動くって事か」
「レイサールに課せられた制約は【危害を加えない】と言うものですの。
でも、それ以上は知らない方がいいかと思いますわ」
「ご忠告どうも。それであんた―ええと、名前は?」
「まだ、お互い名前も知りませわよ?」
いつの間にか美しいほど鮮烈な目がすぐ近くにあった。
顔をあと少しおろせば唇を奪えるほどの。しかし、下せない。彼女の細い人差し指がオレの口を封じていた。
「戦術本部部隊の次、最後を飾るのが私の部隊です。あなたは仮が取れたらどの部隊配属になるのかしら?」
身体能力は間違いなくオレの方が上だったはずだ。だが最後まで彼女のペースだった。
*
「戦術本部部隊、統括のズィーゲルだ。最底淵穴に隣接した下層である騎士団長をしていた」
「宜しくお願いしますなぁ」
握手をしたが相当な手練れだ。
間違いない、
オレが所属した騎士団の団長より遥かに上の強さがこの魔族の男からは感じられる。
「…ム」
「ラヴァは普段から俺以上にものを喋らない質だ。察してくれると助か―」
ズィーゲルのダンナが言う以前にオレは動いた。
パアン!!
ラヴァとオレの掌底が小気味良く鳴り響く。ビリビリと震える余韻すら波紋のように鮮やかに。
「…ム」
「ヘッ」
お互いに口の端に笑みが浮かぶ。成程、これがラヴァっつー漢か…誤字じゃねえよ?
こいつは多分生まれた時から性根がそうあるよう生まれた奴なんだろうと。肌で感じた。でもなぁ…
「2人を引き取った経緯はあるんかい?」
オレはあえて2人に尋ねる。
あの2人の事についてオレや死んでいったオレ達の隊長は2つ名を知っている程度の面識しかない。
魔法大国との戦争の可能性がその王国では流布されていた。
そして、その真偽を確かめるためにオレ達旅の途中だった傭兵団は調査兵として国境へ一部部隊派遣する事を決定。
森を抜けた丘陵がその国境だったわけだが、騎馬の機動力でかけ、周囲を好きなく警戒していたオレが一番に気付いた。
森が途切れ丘陵に出られない。そう、幻惑魔法で同じ森の景色を映し出していたんだ。
気付いた時にはもう遅い、オレ達は魔法大国と呼ばれていたその国で噂される新兵器魔導大砲に
ハチの巣にされた。
既に部隊が展開されているという事自体侵攻の
部隊は当然壊滅、オレは殿として隊長と同じく首を差し出す形となる。
それが何より奴らが攻めてきたという示しになるからだ。
間違いなくあの2人はあの国の軍服を纏っていた。
砲台の隣に並んでいる人物達の服が一斉に同じものだったのだから忘れるわけがない。
オレにとっては数日前の話だからな。
「…2人はある国で特別な待遇を受ける予定だった。数十年前に起きたある巨大な事件の最大級功労者としてな。
しかし、何か良からぬ事を企む者達の手を取りかけた所を自分が拾う事で何とか危機を脱したのだ」
「待て、何だそりゃ」
数十年前の事件?あいつら、生きてたのか?しかもその事件の最大級功労者?
確かにオレですら実力者としての強さは感じた。他の召喚士と同じ非常に強い力を持つのも。
だが…あの見た目で数十歳と言うのは…
「あの2人はどういうわけか20を過ぎた時から成長が止まった、と聞いている」
「はぁ?」
一度休ませたはずなのに頭が混乱し始めている。
「ああ、貴殿でもそんな反応はすると思っていた」
「失礼ではあるが2人とも二十歳に見えないんで思わず」
種族としてもう1人の戦士の亜人種族は憶えている。
希少種族古代竜型亜人。食物連鎖の頂点に立つ巨体と肉食のものは凶暴性もあったと聞く。
鳥の始祖であるものやトカゲに退化したと伝えられるかぎ爪持ち。
盾や岩のような頭の飾りを持つものも。
象も余裕で越える巨体と凶暴性も持ち海に住んでいたものもいたと【師匠がた】から聞いている。
実際討伐もしたしな。
その特徴を彼女が任意で使えると。そう考えると非常に油断ならない。
しかし、20で成長が止まったというと今は何歳だ?
それすら分からない人生の間でどういう経緯でこの特殊部隊に来た?
「彼女達はいったい何者だ?」
「彼女達から信頼を得て聞けるようになった方がいい」
「ム」
ラヴァもそれが最善と頷くだけだった。オレは何も言えなかった。
「私の名はトパードローズ!しかと覚えなさい」
「へへーっ」
思わず両膝折り崇め姿勢したくなるほど高貴さが満ち溢れとるがな。
あかん、エクリアさん負けてまう。胸のサイズは圧倒的に勝つのに。
「もしかしてその月夜のような髪なのに耳の中にあるトパードみたいな
魔法石でトパードローズなのな?」
「ええ、遊撃隊は斥候の役目を持っていますの。何かしら魔術を感知する力に長け、
魔力を譲渡したりするのにも私の耳にある魔石は使えますわ。
偉大なるご先祖から受け継いだ由緒正しき希少種の証で誇りに持っていますの」
と主人が話している横でシュバッと出てきた揺れる超魔乳持ちのメイドが一言。
「初めからネタバレと行きましょう!」
「は?」「また始まりましたわ…」
いきなり話が最豊最巨の胸を持つメイドにさえぎられた。
あれサイズ幾つくらいなんでっしゃろ…
「3話で出てきた兄妹は出番カットが基本です!!本編には余り絡んでこないのでご注意です!!」
「「「…」」」
うん、残念美人だこのメイドの方は。
俗にいう、どこかオレ等でも見えない別の何かが見えてるとかそういう。
女アルトレートと第一印象で思った事を後であいつに土下座しとくか…いや、
髪も目も同じ色で似た髪型してんだよな。こっちはセミロングで切ってるけど。
「そんなわけで痒い所に手が届くネタバレ要員のリタバーゼですよ~
よろしく!」
「凄いなー憧れちゃうなー」
「ほう経験が生きたな、果実水を後で9本おすそ分けしときます」
「その辺にしときなさい」
やけに鋭い速さで突っ込みが入る。ん、やけに声が若いな。男性の姿をした女性かもだが問題はそこじゃない。
この人、首の所とかに人形のような付け根が見える。まさか…
「私は女性型アンドロイドのユキだ。召喚者も天使の一柱を持つ」
「簡単に打ち明ける…これは」
それだけじゃない、立ち居振る舞いが非常に紳士的だ。当然服装も
執事のそれにちなんだ鳥の翼に近い鋭い腰回りが膝近くまで広げ伸びている。
これはオレが…
【師事し損ねたあるもの】を持ち得ていると直感で察せられたぞ。
「突然ですが師匠と呼ばせて下さいオナシャス!」
「何を、と思うが私から学べるものがあるなら存分にするといい」
「流石どの相手にも紳士たれたる私の従者ですわ。誇らしい」
「やはりトパードローズ嬢からそういう…」
「長いのでローズと愛称で呼んで下さって?私の種族も希少なので追い立てられた理由は理解してますわ。
追い立てられた事実を是とはいたしませんけど」
「最後にボクだね、ちょっと他の2人は師匠と他の行商などに赴いてるから今度紹介になるだろうけど、
外部への交渉要因でもある部隊担当商人の1人、フォールビットだよ」
「消しきれてない匂いから察するに薬ものの類や植物系の支給要員か?宜しくな」
商人。
この手の伝が無くなれば流石のこういった部隊などでも問題だとこの時のオレはそう思った。
そう思うオレをよそにカジメラのオカミは締めくくる。
「さて、通常の船点検も紹介した部隊ごとに済ませた事だし
夕飯の前にアルトレートにも受けて貰ってた任務内容を2人に言わないとね」
「加入任務、って言ってたか」
「それされね。随分あくどい事してる各国の要人共を始末して来い、との依頼だよ。
済んだらすぐに拾える秘策があるから気にせんでええけどね、
開始日程は3日後の春終わりの月40日。
それまでの心の準備も任務に持ち込む準備も済ませとかないとね」
この世界の季節は4つで月の巡りは8つだそうだ。この辺りは天使のお姉さんからも聞いている。
カジメラは最後にこう話した。
「少なくとも、ご主人の下を離れて10日近くはこの浮遊島への帰還は禁止となる。
お姫様と3日はちゃんと付き合う事さね」
「カジメラのオカミさんよ、…それだけか?」
「あんたはまだ没年で二十歳過ぎてない小僧だろう?死者はこの世界だと真っ先に駆逐される。
例外は駆逐するはずの天使が作った魂の器さね。
天使や妖精に気を付けな」
それだけ言ってカジメラはオレが出てきたソムロの館を親指で指さした。
エクリア達がいる、そう考えても向かう足がおっくうになりそうだった。
ソムロの館に行く時に少しだけこぼした。
「おとぎ話の本の中でしか見た事ない存在に気を付けろ言われてもな…」
6話目は本日18時更新です
コラム:魔法と魔術の違い(???曰く
魔術は魔力を使い何かを動かす術を指し
魔法は空間を魔の力で定義する
前者は紋に刻まれたプログラムを魔力が介して簡単なものまで
実現する。
魔法の方は本当に巨大な空間、力さえも実現しうるものなので
非常に問題が多い。手段を択ばない者には便利かもしれないが