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3:入隊任務

本日1話目です。2話目は18時にいつも通り更新されます


森にひっそりと建っていた別荘のような館でオレはその男に問う。

「それは決定事項なわけで?」

「決定事項さ」

オレは目の前にいるエクリアが加入する組織の長に怖気もなくにらむ。

設立から3年で頭角を現しこのサセコルプ公国における3院勢力と相対できる程の怪物が

今大理石の机を隔ててオレと対面しているソムロ・コーコネスという男なんだそうな。


噂によれば10歳にして台頭した数年の間に土地による売買や遺跡の調査、

行政案の提案などにより領地とした浮島を下水道式魔術機関配備やら畑改革やら、動力技術やらと様々な業績を成功させた奇跡の子供だそうだ。

それを可能にしたのはソムロの隣にいる魔女エルフ、ミリエットだった。


ここ十数年で開国宣言したディアノム帝国。

その帝国以外の国々が利用する次元亀裂契約召喚システムは、天使とある少女によってもたらされ、上層だけではなく世界中の危機を救ったのだそうだ。


尤もその少女は史実上その戦いで命を落としたことになっている…そうだがねえ。

何はともあれ、そのシステムにより異次元の裂け目からそれこそ島のような大きなものまで浮かんできてしまう世界がここなわけだ。


かつての世界に未練の無い者達がここへ流れ着いた者達と魔力の【属性道】を契約として結び合う世界。

オレを召喚び出したシステムも大元はそれと同じものだそうだが、今聞くのはそれじゃない。

「おとぎ話のようなやり方が上の人間てなお好みなのかよ?」

こっちの皮肉を笑顔で豆茶を飲みながらかわしていく。


「屍山血河の果てに勇者はお姫様を取り戻しました、とは。陳腐ではある。が、そそる話じゃないかい?」

「それに」といいながらこいつは続ける。

「ここほど安全な所もそうそうないのさ。特務設立から数年の間に一番手勢を集めやすいのはボク達のいる家だからね。

そして―と、入りなさい」

話の途中でオレ達がいる部屋の執務室の扉を叩く音がする。ソムロが入るよう声をかけると

「はいなのです」という声と「はい…」という弱弱しい声が返ってきた。


そして入ってきた少女達は2人とも魔術を付与した魔石を取り付けた輪を首に付けていた。


1人はエクリアの身の回りの世話をするロリ従者で早い内に【ある奴】の伝で公国に予め預けられて、亡命の手筈が整っていたんだそうだ。

白い髪に黒い目という奇形とも神秘的ともとれる容姿を少ないフリルと可愛らしいカンガルーの刺繍が施されたエプロンで着飾り、

両端を尾みたいにまとめたエクリアとお揃いの髪にした容姿。割と似合っている。

彼女が公国へ来る頃にエクリアが何をされてたかって?当主弾劾除籍裁判だと。

因みに胸の大きさはエクリアに2回りほど劣るが相当なものを持っている。


一方の少女の方も美少女といっていい容姿だ。しかし魔力が幽体の如くあふれ出ており魔女の幽体となっている。

【これでも抑えられている】との事らしくシトナフは最早茫洋とした目で双子の姉ミリエットを見下ろす。

因みに目も髪も兄のソムロと瓜二つの色合いだ。

病弱そうに見えるがこの呪いにも近い魔力で長寿が逆に約束されているというのもまた皮肉が効いている。


「ボク等としても彼女がいると何かとありがたいのさ」

一々癪に障る言い方をする男だぜ。股間と鼻を蹴飛ばしてえ。


エクリアの扱う【次元】の力。


それは彼女が指定した範囲を【別のどこかと定義し】元あった場所と切り離し隔離する事も出る。

オレのマスターであるエクリアの力は空戦艦を意図も容易く両断しただけではない。

時や空間も自在にする。

聞いてて頭がおかしくなりそうだとは思うが頭が悪い人間には何でもしまえたり何でも切り取れるって言う考えだけで十分だ。


バカのオレでもわかる。

割と危険な力である属性を彼女の家系は数代にわたり持ち続けていた。

…そしてその家が生まれた場所がディアノム帝国。

そんな彼女が追いだされた。その帰結が誰かを救ったという話を今しており、

これからもその力を利用したいと考えているということだ。


【実験は成功した】。そう、まずはエクリアのお付きのメイドで、次に自身の妹を被験者にした。

患部や症状そのものを一時隔離する事で病の進行などを抑制及び制御下に置けるようになったという事。

その隔離する魔法を付与させた道具を使わせられるようにしたこと。

そしてこの道具や力を研究する名目でこの属性の持ち主唯一の生き残りである彼女をここから出すことは叶わないんだそうな。


彼女の親は殺されている。ディアノム帝国はそういう場所なんだそうだ。


「そういうわけで君のご主人である彼女をここに匿う正当な理由が2つも存在し、

今の彼女の有用性から離れられない理由を付ければ、安全と呼べるのさ。

ボクの最高の妹はこと【道】の範囲が小さすぎるが故の病持ちだけど、

病であるが故に誰にも対処しようがない。悪意があれば浄化魔法すらあれには反応してしまうんだそうだ。

そうだね?」

「そうよ…」


オレはこいつの召喚者が肯定した理由なんて知らない。

どうにもこの公国にもエクリアを快く思わないものが大半な上にむしろ消えて貰った方がいいと企む輩は沢山いるらしい。

エクリアを文字通り実験体にしたい所など沢山あるとも。

「それだけではないが」と前置きしながらこいつは更に言葉を重ねる。


「最後にこの1手だ。

君のご主人の命に一大事があるのならボクの相棒がとびっきりの秘薬の使用する手はずとなる契約書。

そして、君が先程ボクから2種類の任務を見事果たしてきたならば秘薬は永続的に特殊部隊での前線戦力員ウォーノッドヴァンガードに継続的支給を約束する用意がある。

これは文字通りボクの召喚者であるミリエットの世界にある世界樹の雫を支給する契約だよ。

生産できる量は限られるが、君と彼女が配属されるあの部隊に送り出すなら苦でもないさ」


鵜呑みにするつもりはないから言葉を選んで口にしたつもりだった。

「言いたいことは言い終わったか?」

にもかかわらずコイツはこういった。

「それを言った時点でボクの要求を呑んでくれる事は確定してしまう」

答えに関係なく押し付ける、というのが答えだそうだ。クソッタレが。

「マジで女にでもなっちまえよこのド変態が」

瞳が親愛以上に歪んでんだ。やべぇ、変態だぁ…同じ兄として共感しちゃいけない次元だ。


「だからこそボクにとって大切な妹を彼女に捧げているのさ。ボクの命よりも優先するべき可愛くか弱い妹をねぇ」

それを恍惚とした表情で言った面を見て確信した。

仮に天地が逆転してもオレはコイツの為には戦わねえ。

クソヘンタイシスコンなイケメンはウミダマもげるべきって古事記にもあった通りだったわ。


だから館から出る手前の廊下を曲がった時、オレはすぐ隣を歩いた少女と2人の男の事を余り気にかけなかった。

そいつらが公国の特殊部隊へ加入する際、あんまりな事態を呼び込むとは露とも思わなかった。


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