1:呼び声
機械的な音声がオレの耳に響く
―召喚プロセス:前体との適合乖離あり―
―召喚器との適合率15%低下―
あんまり理解したくない現実的な要素を耳にしながら
オレ自身の自己紹介でもしとこうか
名前はクオン。家名?あったらしいけど知らん
何てことはない寒村の長男生まれ
寒波の奇襲で農作物が育たずしかし生まれついて狩りの腕を磨いて。
それが功を奏して熊を狩猟し家に帰ると両親が食いものから奇形の病を貰い溶解。
弟と妹になけなしの備蓄を全部預けて1人旅立とうとした所で奇襲を撃退。
最早死を待つのみだった身を別の豊かな土地へ逃げようとしていた流れの傭兵団に拾われ、
そこで10年世の中やら時代やら戦場を知る。
そして副団長の座にのぼって間もなく逃れた国とは別の国と戦争に会い、死んだのが18の頃。
まあどこにでもいる雇われ兵のしがない一生ってやつだ。
そんなオレでも何か凄い豪運があったらしく、世界に召喚される英雄の1柱とされるくらいには戦国乱世を我が物顔で歩いてたそうだ。
でも、オレここまで経歴持ってても女知りません。ハイ。
絶対次の生では女を知るんだオレ…さっきも女教えてください!ってド直球で言ったら優雅にあしらわれたけどなぁ!!(血涙
第2の人生をくれたのはハスキーで麗人みたいな顔の天使ちゃんでした。
何でも、何かオレの人生何か仕組まれておっちんでしまったようで。
おお ゆうしゃよ しんでしまうとはなさけない?
いや、意味わからないけど女性の下着を見る挑戦的な勇者とかの事じゃないらしい。
そんな感じでこの死んでも蘇られるシステムに魂を置かれたんだそうな。
それならオレが率いていた部隊の皆も事故死みたいな扱いで転生の輪廻に人間補償のオプション付きだって。
や、小難しい話だったからちょっと理解がないけど、次の生はしかと真っ当な人の生まれが保障されたらしい。
オレが会える日はそうそうあるとは無いそうだが。
―特異点加入演算による完全保全を拒否―
―召喚先の安全保障が得られません―
もうどうにでもしてくれ、第2の生があるっていう事自体幸運だと思うんだが、
よくよく考えてみると生まれ変わった先が人であるという保障とかもないんだよなあ…と思ったその時。
「―助けて」
涼やかで泣きそうな少女の声がオレの意識を持ち上げる。意識が目覚めろと鎌首をもたげた。
ああ、そうさ。いつだって―
心から泣きそうな声上げた女の子の助けに応えない男なんざ股間のブツもないヘタレ微生物未満に決まってる!!
意識が浮上する、視覚が銀河のような夢のような空間から光の先へ開けてくる。
そしてその日 オレは召喚び出された。世界の残骸が集まる浮遊島世界へ
*
船体の揺れに体を持っていかれそうになりながらその少女はオレの依代だろうフルプレートアーマーを離すまいと両手で必死に縋りついている。
少女が縋りついている鎧の掛け軸は見覚えのある魔術言語で
<契約><召喚><魂固>
とあった。
成程、オレはこれからこの子専属の…えーとなんだっけ?南の紫な国で言うキョンシーだっけか?
になるのか。オレの意志まで8割封じ込められないといいなあ…と思った所であれ?とオレは思う。
掛け軸の後ろに出現した1つの円と複数の8面体みたいな紋様を見て首をひねる。
ただ、その魔法陣どこかで見たなあ?と思いながらも思い出せなかったので疑問を頭の隅に追いやり、
自分が入るその体へ飛び込んでいくイメージで近づく。すると
キィィィイイイイン…
鎧だったものにそって俺の体が大気中にある何かを糧に構築されていく。
オレ自身他人事のように神秘的だと思いながら自分の体に感覚というのが生まれてくるのを確認する。
いつの間にか視界はその鎧を中心に構成された自分自身の体のものであると自覚し
ギシッ…
その腕が動いた時余りに違和感がない事に驚く。これ、完全にオレの体なのかよ。
そりゃ、馬上でもでかい大剣2本両の手に持って暴れ回ってたけどさ、こう…
生まれついて動かす体が別のモノで構成されていたら普通何かしら弊害でも起きないか?
って思うじゃん?
そういう違和感らしきものが一切ない。
試しに籠手と一体化したのか拳に視線を落としてニギニギしてみる。
間違いない、これがオレの手と同じように動かせる。
それを確認したところで視界を前方に―退いた彼女に向ける。
至近距離で見ていた少女が随分オレと距離を置いていた。どうにも歓迎されていない?
ザッ…
オレは自分の背と頭1つ分くらい違いそうな少女に向けて歩いていく。まじまじと見るとこの子、すごい美人だ。
気の強そうな紫の瞳に少し後ろの両端でそれぞれ尾のようにまとめた艶やかな黒髪。
これ、薬草を液体と混ぜた専用の薬洗剤で現れているのがわかる。
やったぜ、国を回ってた時は不細工しかいない国もあったけど、こっちは少なくとも容姿は当たりに入る近場を引いたかもしれない。
しかもいいのは顔だけじゃない。
身なりも魔法使い然としたローブとドレス。
両の手袋や腰元の上着が終わるギザギザの基点に何か魔術的な光輪やら光る珠みたいなものが宙を浮いている。
そして何より可愛い顔以上に自己主張がある胸にどうしても目が行きそうになる。
それを必死で耐えながらオレは次に起こす行動を考える。
ここは気障ったらしく顔に手を添えて支えようかなとか思いかけたけど、
初手で白い目で見られるとオレのガラスの心が砕け散りかねないので無難に少女の目を見て尋ねる事にした。
「君が、オレのご主人なわけ?」
「な、何よ…文句あるの?」
やけにつっけんどんな返答。あれ、声音同じでざますよ?
あのさっき聞こえた「助けて」って声と。
空気読めてない?
「求められてきたんだと思ったんだけどな?」
「そ、そうよ!でも信じられる?いきなり呼ばれて―「なあ」」
矢継ぎ早に色々言われそうになって展開止まりそうだったんで口を挟んでしまったが、
まさか凄く何かにおびえるように体を固めるとは思わなかった。
でもやる事は変わらないんだ。さっきと今と一致している彼女の共通項は存在している。
だからそこをしかと尋ねればいい。
「助けて、って聞こえたんだ。オレはどうすれば君を助けられる?それとも何を助ければいい?」
そんな言葉にようやく目の前の少女の顔が縋りついて来そうなほどの安堵の顔になりかけ…
「バカバカバカっ!教えてやんない、教えてやんないんだからっ!」
すごく…頑なです…おおう…オレとしたことが依代として召喚ばれる所選択ミスったかも…と思った所で
ズズゥウウウン…!!
どうやら、そこまで話をしている時間もなさそうだ。
どうにもオレ達がいる場はすぐ近くまで何かしら災いが来てるらしい。
それが人災か天災かは知らんけど。膝を抱えそうにうずくまった少女と同じくらいの目線になっていった。
「まずは、出口と状況どうなってんの?」
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