06
ギルドマスターの部屋は、一言で言うなら図書館。
壁一面、そして机や床にうず高く積まれた本・本・本。
「やあ、いきなり呼びつけて申し訳ないね」
見たところ、20代半ば…くらいか?
頭にヤギのような角を持つ、丸眼鏡をかけた女性がにこやかに声をかけてきた。
呼びつけた…という事は、この人がギルドマスターか。
その隣には、何故か親の仇でも見るような目でこちらを睨みつける少女。
猫耳だ。大事なことなのでもう一度、猫耳だ。
そして、俺と同じオッドアイ。色こそ違えど、何となく親近感。
「私はギルドマスターのマリーレインと言う。こっちはカリナ」
「初めまして…俺に何か用ですか?」
「うん、確認したい事があってね」
何だろう、この人ニコニコしてるけど隙がない。
おまけに、カリナって猫耳少女はずっと睨みつけてくるし…
頭上のハクを撫でつつ、気持ちを落ち着かせる。
「まあ座って、紅茶は好きかな?」
「おかまいなく」
「私のお気に入りの銘柄でね、絶品なんだよ」
ギルドマスター自ら入れてくれた紅茶。
毒々しいピンク色は飲むのに勇気がいる…
「ところで、そのタイグーンだが…」
「ギルドマスター!話なんていいからこいつを捕まえてよ!!」
「まあ落ち着いて」
「だって!こいつは聖獣様を!!」
聖獣…ハクのことか?
頭上のハクを膝に下ろして、カリナの方を向ける。
「ハク、この人知り合いか?」
(しらない!)
「ハクは知らないと言ってますが」
手にじゃれついてくるハクを撫でる手はそのままに、ギルドマスターに説明を求める。
「そんな、聖獣様…あんた、聖獣様をどうやって洗脳したのよ!」
いや、飯食わせただけなんですがね。
「ずっと、ずっと待ってたのに…っ……うわぁぁ〜〜んっ!!」
「カリナ落ち着きなさい、ほら泣き止んで」
ギルドマスターが猫耳少女を宥めている間、ピンク色の紅茶をいただきます。
あ、美味しいコレ。
◇◇◇◇
「ぐすっ…急に怒鳴りつけて、ごめんなさい…」
「いや、とにかく説明してもらえるかな?」
説明は、ギルドマスターがしてくれた。
そもそも聖獣とは神の使いであり、個体数も少ない。
中でも帝王種とはその頂点に立つ伝説の存在で、神にも等しい存在と語り継がれている。
「ハク…お前神の使いだったのか」
こてん、と首を傾げるハク。
本人はよく分かってないようだ。
「通常、聖獣は獣王国にある神殿で誕生するんだ」
「え…でも、ハクは町の外の森で…」
代々、獣王国では王位継承者が聖獣と従魔契約を結ぶのが慣例になっているらしい。
だが、今回は神から聖獣誕生のお告げはあったものの、誕生する場所は獣王国ではないという。
「私は、聖獣様の魔力を感じることが出来るの…」
「それで、ちょうどカリナからこの付近で聖獣様の魔力を強く感じたと報告を受けていたら…」
タイミングよく俺がハクと現れたと。
「俺はこの町の近くにある森で、腹を空かせてるハクと出会ったんだ」
「なるほどねぇ、今は君がテイムしてるのかな?」
「餌やったらテイム出来てたんだよ」
カリナは思い詰めた表情でハクを見つめている。
「聖獣様と契約で出来ない王位継承者…前代未聞なんだそうだ」
「うわ…それって、俺の立場ヤバいんじゃ…」
「だね、君を殺してでも聖獣様を手に入れたいと思う輩は多いだろう」
…そもそもハクとの出会いって女神様が仕組んだんじゃ?
神の使いって、あの女神様のって事だよね?
本来ならば、ハクは獣王国の神殿で誕生し、王家の庇護のもと不自由なく育つはずだった。
王位継承者も、聖獣と契約し安泰のはずだった。
「ついでにね、君の目の色だけど…人族でオッドアイって珍しいよね」
「え?は、はあ…」
「オッドアイは、獣王国の王家にのみ受け継がれている特徴だって知ってる?」
めーがーみーさーまー?!
「ちなみに、カリナもオッドアイ。この意味わかるよね?」
涙で揺らめく、淡いピンクと紫色のオッドアイ。
「カリナの本名は、カリーナ・ダーワット・レンブラント。獣王国レンブラントの姫君だ」
マジですか…
知らなかったとは言え、自分が契約するはずだった聖獣横取りされればキレるよなぁ
おまけに、『聖獣と契約出来なかった前代未聞の王位継承者』なんて不名誉な称号まで。
八つ当たりだってしたくなるってもんだ。うん、カリナに非はない。
諸悪の根源はあの女神様だろ。
ちょっと、叶うならあの女神様一発殴りたい……
読んでくださってありがとうございます。
ヒロイン登場!