閑話:ギルドマスターは興味を抱く
私の名前はマリーレイン。
かつては「炎舞のマリーレイン』と呼ばれた元A級冒険者。
愛用のハルバードに火魔法を纏わせた姿からそう呼ばれてたんだけど…
今となっては恥ずかしいったらないよ。
まあ、今はしがないギルドマスターさ。
かつての教え子、カリナが押しかけてきたのはつい先日のこと。
え?書き置き残して城を抜け出してきた?
君ね、自分が姫君だって自覚ある?
おまけに隣国の王位継承者。外交問題になったらどうするの。
「聖獣様が神殿に降臨なさらなかったのよ!」
何でも、聖獣様誕生のお告げはあったらしい。
が、何故か今回は獣王国の神殿ではなく、別の場所に降臨なさると。
獣王国にとって、聖獣様は特別な存在だ。
代々の国王は皆、聖獣様と契約を結ぶのが習わし。
神の使いである聖獣様が守護する国として、その名を知らしめてきた。
「今回は獣王国のための聖獣様ではないということかな…?」
「 そんな…!だって、聖獣様は獣王国と、私っ…」
「ほら泣かないの」
「ふえぇぇ〜〜…っ」
だが、あえて神殿ではない場所に降臨なさるのなら、理由があるはず。
カリナには悪いが、獣王国と関係がない聖獣様の可能性もある。
「私、聖獣様の魔力をこの近くで感じたの。それで先生に協力を……っ?!」
「カリナ?」
「 これは、聖獣様の気配!!」
ガバっと窓に張り付いたカリナ。
ギルドマスターの部屋は2階にあり、大通りに面している。
何事だと一緒に窓の外を見てみれば…
「嘘、あれ…聖獣様だわ…」
「 あの白いタイグーンかい?」
カリナと同年代らしい少年の頭上。
まだ幼いタイグーンが、尻尾をユラユラさせながら楽しげに少年にじゃれついていた。
「………」
「カリナ?」
「 あいつ!あいつが聖獣様を攫ったのね!!」
今にも部屋を飛び出そうとするカリナの首根っこを間一髪捕まえる。
「落ち着きなさい!どう見てもあのタイグーンは少年に懐いてる」
「だけど!!」
「今ここに呼ばせるから、落ち着いて話をすること、いいね?」
「………はい」
やれやれ、面倒な事になった……
◇◇◇◇
奇妙、それがその少年への第一印象だった。
黒髪に一房の銀髪、そして人族なのにオッドアイ。
動きなどは素人のそれでありながら、底知れない力を感じさせる。
………実に興味深いね。ちょっとステータスを見せてもらおうかな。
出来立てホヤホヤの彼のギルドカード。
この不自然なステータスは偽装だろうからね。
鑑定。
(え…レジストされた…!?)
おかしい、私の鑑定をレジストするなんて…
それじゃあ、この少年の実力は私より上だとでも?!
……いいね、ますます気に入ったよ。
カリナが食って掛かっても涼しい顔のまま。
え?紅茶が美味しい?
そうだろう、それは私のお気に入りの銘柄でね。はっはっは。
「いや、とにかく説明してもらえるかな?」
「私が説明しよう」
聖獣様について、簡単に説明を。
聖獣様とは神の使いであり、個体数も少ない。
中でも帝王種とはその頂点に立つ、いわば伝説の存在で神にも等しいと語り継がれている。
「ハク…お前神の使いだったのか」
どうやら聖獣様についての基本的な知識がないらしい。
ということは、もう少し詳しい説明が必要かな?
「うわ、それって俺の立場ヤバいんじゃ…」
うん、理解して貰えて何よりだ。
ついでに、オッドアイについても一言。
獣王国の王家にのみ受け継がれてるはずの特徴、何故君が持ってるの?
慌ててるところを見ると、何かしら心当たりがあるのかな?
いずれ問い詰めてみよう。
この時は、夢にも思っていなかったよ。
翌日、彼の力量を測るための戦いで負かされるとはね。
まさに手も足も出ないってヤツさ。
悔しいが、私では彼の足元にも及ばないらしい。
「ヨシト…ね」
この私を負かした男なんて、何年ぶりかな?
ギルドマスターとしてではなく、マリーレイン個人として興味を持ったよ。
ねぇヨシト、年上の女性に興味はあるかい?
読んでくださって、ありがとうございます。