05
「先日はご迷惑をおかけして、ごめんなさいなのです」
翌朝。おおよそ気持ちの篭ってない声と表情で、猫耳メイドが頭を下げた。
どうやら俺は、あまり良く思われてないらしい。
まあ、聖獣泥棒くらいに思われてるんだろうなぁ…
背後でカリナが申し訳なさそうに頭を下げてるので、気にするなと軽く頷いておいた。
「じゃ、じゃあ出発しようか?」
「ええ、でもあなたの荷物は?」
「 アイテムボックスに入れてある。良かったらそっちの荷物も…」
「結構なのです!これくらいの荷物、敵の手を借りずとも問題ないのです!」
毛を逆立てた猫みたいに、大きな荷物を背負って威嚇してくる。
やっぱり敵認定されてるのか…
「サマンサ!失礼でしょ!」
「敵に弱みを見せたら負けなのですよ!」
(ますた、てき?)
はは…道中が思いやられる。
うん、さっさと出発しよう。
◇◇◇◇
馬車で半日の道だが、今回は徒歩移動だ。
ドラゴンの正確な居場所は分からないし、移動してる可能性もある。
なので、徒歩で周囲を探索しつつ行く事になったのだ。
昼食は、行儀は悪いが互いに歩きながら済ませた。
俺は事前に買ってアイテムボックスに入れておいたツナマヨおにぎり。
「それはライスなの?」
「ああ、まだあるけど食うか?」
「カリナに怪しいもの食べさせるななのです!」
カリナたちは、宿屋で作ってもらったサンドイッチを食べてた。
ハクは相変わらず俺の頭上が定位置。
(ますた、たのし!)
「良かったな」
ワシャワシャと頭を撫でてやると、喉を鳴らすのが可愛い。
元々犬派だったんだが、今じゃすっかり猫派だ。
「いいなぁ…ねぇヨシト,、後で聖獣様抱っこしちゃダメ?」
「別にいいけど、出来れば名前で呼んでやってくれ」
いつまでも『聖獣様』はどうかと思うんだ。
「え、っと、ハク様?」
(はぁい!)
ぴょこんと右前足をあげてお返事。
よく出来ました。
「かわいぃぃ〜〜〜…っ!」
悶えるカリナと、首を傾げるハク。
そして、俺を睨みつけながら歩く猫耳メイド。
早く着かないかな…
お、そろそろ夕方か。助かった。
◇◇◇◇
幸い、道から少し逸れた場所に良さそうな場所があった。
街道から目隠しになりそうな、少し奥まった場所。
「こっち半分は私たちの陣地なのです!入ってきやがるななのです!」
はいはい、了解。
カリナたちのテントは、いわゆる普通の三角形のやつだった。
寝袋と、ランタン。
優秀というのは嘘ではないようで、手際良くテントを設置していく猫耳メイド。
ちなみに、一度「サマンサ」と名前で呼ぼうとしたら、「気安く呼ぶな」と怒られた。
「ハク、こっちもテントの準備するぞ〜」
と言っても、2度目だし手順は覚えてる。
前回ほど、時間はかからない。
大きなタマネギ型のテントを設置して、ベッドに布団、テーブルとイス。
「な、何それ…」
「いや、どうせならゆっくり休みたいだろ?」
「ひ、非常識にも程があるのです!」
非常識と言われても、寝袋よりベッドで寝たいし。
「一応、同じものをそっちの分も用意してるんだけど…必要なかったかな」
「私たちの分まで用意してくれてたの?」
「そ、そのふかふかベッドもなのです?」
「ああ、でも必要なかったみたいだな」
気づけば、俺の足元に跪く猫耳メイド。
「さすがは聖獣様が選んだお方なのです、どうか私の非礼をお許しくださいませ」
「……本音は?」
「私もベッド!ふかふかベッド!広いテント!」
清々しいほど欲望に素直だな?!
「分かったから、今そっちも準備するからテント片付…」
「片付けたのです!」
「早いな?!」
というわけで、俺と同じタマネギ型テントと、シングルベッドを2つ。
ふわふわの羽布団に、シーツやカバーはピンクで統一。
「ベッド!私のベッド!ふかふかぁ〜…ふへへ…」
早速ベッドにダイブしてるし…もう放っておいていいよな?
「ごめんね、ヨシト…」
「…苦労してるんだな、カリナ」
「本当に、優秀なのよ…あれでも…」
読んでくださって、ありがとうございます。