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イノシシ!? リリーさん  作者: カワラヒワ
7/16

銃声

 月日は流れ、また半年が経った。

 夕方、二人は揃って畑から帰って来た。

「そらっ、二人が帰って来た」

「いつものようにね」

 二匹のネズミは窓から外を眺めて言った。

「仲がいいってこのことか」

「そうだ」

「あいつらが、けんかしたとこ見た事あるか?」

「一度もないな」

「ふん、つまらない」

「つまらない」

 二匹はチュー、チュー騒ぎ立て、走り回り家具の隙間に入った。


 ネズミたちは、ノボルが棚の上に飛び乗った件依頼、ノボルの前に姿を見せなかった。

「あいつ、ただ者じゃないからな」

「うん、すごく、素早いんだ」

「俺たちよりも」

「そうだ、俺たちよりも」

 ノボルがネズミたちを怖がるように、ネズミたちもノボルを怖がった。ネズミたちが姿を見せないのは、お互いのためにその方がよかった。

「だけど、あいつ悪いやつじゃない」

「知ってる。悪いやつじゃないね」

「リリーはあいつといると楽しいんだ」

「よく笑うね」

「うん、よく笑う」

 二匹はうなずき合った。

「だけど、俺たちには関係ないんだ」

「そう、そう、関係ない」

 ネズミたちは、おかしそうにクフフッと笑った。

  

 ある日、いつものようにリリーとノボルは畑仕事をしていた。 

 昼近くになり、仕事が一段落したノボルが「今日は、僕が昼食を作ります」そう言って、リリーより一足先にに帰って行った。

 リリーはラディッシュの芽の間引きを続けた。

「あたし、ラディッシュ大好き。形がかわいいし、色も赤くてきれい。それにおいしい。

早く大きくなるといいなあ」

 そんな独り言を言いながら、丁寧に作業をしていた。

 爽やかな、涼しい風が木々を揺らし、穏やかな時間が流れていた。

 リリーはほっとため息をついた。たまに一人っきりになれる少しの時間が、リリーは好きだった。

 一人でいると心が静かになる。

 ノボルがいると落ち着かなくなるとか、そういうわけではない。ノボルがいると、優しくなれるし、楽しい気分にもなる。

 けれど、いつもいつも、二人っきりでいると、時々窮屈になる。

 ノボルはいつも優しい。いつも、リリーのことを気づかってくれる。

 ぼんやりしていたら「どうしましたか?」ってきくし、ちょっと静かにおとなしくしていたら「元気がないですね」って言う。

 あたしだって、いつも元気いっぱいというわけじゃない。ぼんやりしたり、おとなしくしていたい時もたまにはあるんだから。

 とリリーは思う。

 ああ、だけど、いい気持ち。

 ラララ~、リリーは歌をうたいながら、作業を続けた。


 もうこの辺で終わりにしょうと思った時、何となく変な感じなのに気が付いた。

 森がいつもより静かなのだ。風が止んだせいだろうか。鳥の鳴き声も聞こえない。

 リリーは顔を上げた。いやな予感のようなものが脳裏をかすめる。


 その時、ズガーンと静寂を破って銃声が響いた。ズガーン、ズガーン、と続けて二発。

 リリーははっと体を起こし、辺りを見渡した。火薬の臭い。

 十メートルほど離れた大きなヒノキの下を、牝鹿が走って行くのが見えた。

 ハンターに追われているんだ。

 リリーは一瞬、体がこわばって動けなかった。

 どうしていいのか、わからない。

 リリーは咄嗟に両手を地面についた。

 ズガーン、また、銃声。

 リリーは夢中で駆け出した。

 撃たれる。あの猟銃で撃ち殺される。母が撃たれた時のように。


 追いかけてくる。どこまでも。ハンターは怖い。恐ろしさで回りが何も見えなかった。

 無我夢中で駆けた。リリーの本能がそうさせていた。

 ただ、走った。茂みの中も、ぬかるんだ地面もきれいな花も蹴散らかして。


 どれだけ走ったのか、どれほどの時間が経ったのか、リリーにはわからなかった。

 もう、銃声は聞こえない。火薬の臭いもしない。ハンターも追って来なかった。

 それでも、リリーは恐ろしくて、聞き耳を立て臭いをかいだ。

 リリーはへとへとだった。体は濡れて泥だらけで、息をするたび肺はゼー、ゼー音をたてた。

 アナグマが掘った穴を見つけると、リリーそこに入りうずくまった。

 何も考えられなかった。怖いということしか心になかった。


 それから、また、どれ位時がながれたか、リリーは急に風の冷たさを感じて頭を上げた。

 あたしは眠っていたのだろうか?

 目の前にいた小さなコオロギが羽を震わせて泣き出した。

 辺りは暗くなっている。

 さっきのは夢だったのかもしれない。ぼんやりした頭で考えた。

 でも、あの鋭く響く銃の音や火薬の臭い。

 逃げる鹿。さっきあったことが、在り在りと思い出せる。

 ああ、夢なんかじゃない。

 リリーは頭を振った。

 ノボルさんに会いたい!

 リリーは思った。

 早く帰らなきゃ、ノボルさんがあたしの帰りを待っている。おいしいお昼ごはんを用意して待ってくれている。帰りが遅いあたしを心配しているにちがいない。

 早く帰らなきゃ。リリーは思う。

 早く、早く、ノボルさんに会いたい! ノボルさんの顔が見たい! いつも優しいノボルさん、いつも笑っている素敵なノボルさん。

 ノボルさんの大きくて温かい手。ノボルさんと手をつなぎたい!

 リリーは駆け出した。野生の勘を働かせ、自分の帰る所を目指して一直線に前に進んだ。




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